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「乳歯を活用して脳性まひの機能改善を」キッズウェル・バイオの「再生医療」戦略

財界オンライン / 2023年4月26日 7時0分

谷匡治・キッズウェル・バイオ社長CEO

「治療法が不十分な疾患に対する医療を提供していきたい」─。東証グロース上場で北海道大学発の創薬ベンチャーとして知られるキッズウェル・バイオ。近年、同社が注目しているのが子供の歯(乳歯)。高い修復・再生能力を持つという乳歯の細胞に着目し、乳歯歯髄幹細胞(SHED)を活用した再生医療事業に取り組んでいる。従来、捨てられていた乳歯が脳性まひなどの機能改善を促すことはできるか─。


脳性まひを治療する再生医療の実現に向けて

「社名に〝キッズ〟とあるように、子供の細胞を活用して疾患を治していくことが、われわれの使命。お子さんの細胞は非常に活性が高く、大人の細胞に比べていろいろな可能性が広がってくるということで、治療法が不十分な疾患に対する医療を提供していきたい」

 こう語るのは、キッズウェル・バイオ社長CEO(最高経営責任者)の谷匡治氏。

 近年、患者自身の細胞・組織や他者の細胞・組織を培養等加工したものを用いて、 失われた組織や臓器の機能を修復・再生する再生医療への注目が高まっている。

 中でも、同社が着目したのは、SHEDと呼ばれる「乳歯歯髄幹細胞(Stem cells from Human Exfoliated Deciduous teeth)」。歯の内部に存在する歯髄から採取される幹細胞で、乳歯から採取された幹細胞は特に活動が活発で、高い修復・再生能力を持つという。

 原料となる乳歯は、7~12歳くらいの子供が大人の歯(永久歯)に生え変わるタイミングで採取。ドナー(子供)1人あたり20本近く採取でき、ドナーへの負担が少ないのが特徴だ。

 同社が目指すのは、未だ有効な治療法が確立されていない病気に対して細胞治療による新しい治療法を創出すること。脳腫瘍や視神経症、脊髄損傷といった疾患への期待が高まる中で、まずターゲットに据えるのが脳性まひを治療する再生医療の実現である。

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 脳性まひは、受胎から生後4週までに生じた脳の病変によって、運動機能や姿勢に異常が生じる病気のこと。妊娠中や出産時、出産直後に低酸素状態になったり、脳内での出血、早産による低体重で産まれることなどから、脳に異常が生じて起こる疾患と考えられている。

 発症率は1000人に2人くらいの割合。周産期医療の進歩にもかかわらず、脳性まひの発症率は減少していない。〝非進行性〟と言って、進行することはないが障がいは一生続き、大人も多い。運動障害に対する治療で各種リハビリテーションが実施されているが、その有効性を証明する充分な科学的根拠はないという。このため、運動機能を改善する新規治療法の開発が強く望まれているのだ。

「車椅子のお子さんを車に乗せるための電動設備に費用がかかったりして、脳性麻痺患児が成人するまでには、健常な子供より2500万円から7千万円が必要だという試算も出ている。指定難病になっているわけでもないので、医療費の助成もなく経済的に厳しい環境にある」(最高執行責任者=COOの川上雅之氏)

 同社によると、すでにラットの実験では、SHEDを投与することで、ラットの脳の中で神経再生が促されていることが確認できたという。「脳性まひの慢性期のモデルにおいて運動障害の改善を確認したのは世界で初めて」(川上氏)で、名古屋大学と共同ですでに特許を出願。

 今年度から臨床研究を開始する予定で、安全性の確認や臨床開発に必要な連携体制の確立を進め、2030年度以降の上市を目標にしている。

「再生医療(細胞治療)に本格的に乗り出してから4年が経ち、いよいよ臨床に入れるステージになってきた。この間に基礎研究や細胞の特性、どういう疾患に効きそうかということをとにかく積み上げ、細胞の特性を見極めてきた。中でもフォーカスしていきたいと考えているのが脳性まひ。第一号の製品として何とか上市していきたい」と語る谷氏。

 世の中には、治療法の確立がされていない疾患がまだまだある。新たな科学とテクノロジーで、谷氏のアンメット・メディカル・ニーズ(いまだ満たされていない医療ニーズ)への挑戦が今後も続く。

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