三菱マテリアル・小野直樹社長に直撃!「安全保障、環境問題が重くのしかかる中、『循環をデザインする』をキーワードにした理由」
財界オンライン / 2023年5月8日 18時0分
「今後は資源の地産地消化が進み、その域内で資源循環していく方向に向かうだろう」と話すのは、三菱マテリアル社長の小野直樹氏。資源の有限性が言われる中、そのリサイクルの重要性はますます高まる。その意味で「都市鉱山」などを手掛ける同社の役割は重い。経済安全保障の流れも強まり、非鉄金属をいかに確保、リサイクルしていくかが問われる中、小野氏の目指すものとは。
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経済の先行きが混沌とする中で
─ 欧米の金利引き上げやロシアによるウクライナ侵攻などの地政学リスクで経済の先行きが混沌としています。現在の事業環境をどう見ていますか。
小野 米国ではインフレが続いてきましたが、そろそろ利上げも終着に来るのではないかと見られています。足元では景気が強く、持ちこたえていますが利上げ終了、イコールリセッション(景気後退)のスタートになるかもしれません。
欧州はこの冬が暖冬だったこともあり、エネルギー価格がそれほど上昇しなかったということで、当初の予想よりは持ちこたえていますが、決して順風満帆ではありません。
欧米はこの先も、経済に力強さが見えていないということです。加えて米中対立があります。中国がロシアに接近し過ぎると、米国は何らかの形でそれを抑えようとしますから、その影響で経済でも摩擦が大きくなりかねません。
このことは、日本で事業をしている我々にとっても、中国マーケットのリスクが高まることで大きな影響となります。また、エネルギーコストの上昇はダイレクトに効いています。
─ いい材料がないというのが足元の状況ですね。
小野 ええ。ただ、長期的に見れば、資源を大事に使う動きはトレンドとして間違いありませんし、地産地消化が進み、その域内で資源循環していく方向に向かうだろうと見ています。我々はこの「循環型社会」の構築に関わっていくわけですが、この流れを見据えて事業展開をしていくべきだと考えています。
─ 23年3月期の業績見通しは、セメント事業の不振などもあって厳しい状況でしたね。
小野 セメント事業(UBE=旧宇部興産と折半出資するUBE三菱セメント社が事業主体)は前年度、エネルギー価格の高騰に販売価格アップが追いつかず、苦しい状況でした。ただ、今年度は値上げやエネルギーコストの削減などの取り組みが功を奏してくる見通しです。
一方、それ以外の事業では半導体産業、自動車産業も力強さがなく、足元ではどちらの産業向けの部材も在庫が積み上がっています。ただ、中長期には半導体製造では米国内、日本国内で工場建設が進んだり、自動車がxEV(電動車)化していく中で我々の部材の需要が伸びていくだろうと思います。
また、資源は一度取り出したものを繰り返し利用する方向に向かいます。ですから廃棄された製品から資源を取り出し循環を担っていくのが、今後の会社としての有り様です。
こうしたことが、今年度スタートした「中期経営戦略2030」において「循環をデザインする」会社を目指すという考え方につながっています。
─ 今回の中計は2030年までの目標を示しながら、25年度までをフェーズ1、それ以降をフェーズ2としていますね。こうした構成にした理由は?
小野 先程お話したように、我々のビジネスは相当程度、中長期的な面があります。これまでは3年ごとの中計を出してきましたが、やはり先を見て、会社がどうあるべきかを考える必要があると。長期でどういう会社になろうとしているかを明らかにした上で、途中過程でどこまで行くかも同時に明らかにするという2段階にしました。
─ 改めて「循環をデザインする」という言葉にはどういう思いを込めましたか。
小野 「循環」には2つ意味があります。1つは使用済み、廃棄された製品から非鉄金属を取り出す「金属資源をリサイクル」するという意味。
もう1つは、我々が取り出した金属資源に機能を追加して製品化、あるいは素材を提供していく。それがマーケットを通じて役割を終えた後に、再び自分達のところに戻ってくる、という大きな意味での「循環」があります。
さらに「デザインする」ことは、この循環をお膳立てするだけだと受け取られがちですが、我々としては仕組みをつくると同時に、プレーヤーとして、仕組みの中で事業に取り組んでいく。これによって循環のループを、より実践的なものにできるのではないかと考えています。プラットフォーマーであり、そのプラットフォームで動くプレーヤーでもありたいということです。
市場ができる前に先んじて取り組む
─ 新たな取り組みとして、自動車の電動化を受けて、金属リサイクルを手掛けるエンビプロ・ホールディングス(静岡県)と連携して、リチウムイオン電池(LIB)のリサイクルの共同技術開発を発表しましたね。使用済み電池の廃棄が増えるのは2030年頃と見られていますが、早めに取り組む理由は?
小野 自動車の電動化が進む中、欧米、特に欧州ではリサイクルがかなり進んでいます。それを考えると、日本で電池が廃棄される時期に合わせていたのでは遅いだろうと。
やはり先んじて進めておくことが、リサイクルの肝である「集荷」に生きてきます。集める力があるからこそ、処理の力を生かすことができる。ですからできるだけ早く取り組むことが必要だと考えました。
蓄電池のビジネスは電動車のみならず、スマートフォン、再生可能エネルギーも含め、確実に拡大すると見ています。コストや性能のバランスを考えても、LIBが主力だろうと思いますから、そこにターゲットを合わせていく。
─ この事業を成長させる上での課題をどう見ますか。
小野 マーケットとの関わりだと思います。例えば自動車で言えば、どういう形で、どこで廃棄されていくか、法体系がどうなるかは注視していく必要があります。一方で、どういう状況であろうとも、集めて処理するルートさえ確保できていれば、その時の状況に合わせてビジネスを組むことができます。いずれにせよ、当社1社だけでできることではないと思いますから、様々なパートナーと組んで進めていく必要があります。
─ 主力素材である「銅」の先行きをどう見ていますか。
小野 中長期の話ですが、銅が持つ伝導性の高さ、高電圧・大電流への耐久性などの性能を考えると、将来的にも銅に代わる素材はそう簡単には生まれてこないだろうと見ています。
様々な機関が銅の将来予測を出していますが、需要が増加することは間違いありません。一方で、天然資源としての銅鉱山は、開発条件が徐々に厳しくなってきています。ですから開発と同時に、使用済みの金属資源・銅の循環もさらに進めていく必要があります。
─ 銅鉱山開発投資への考え方を聞かせて下さい。
小野 モデルケースとなり得るのは、チリの「マントベルデ銅鉱山」の開発で、当社は30%の権益を保有しています。権益分の銅精鉱の確保を目論む一方、鉱山のオペレーションはそれに長けた現地企業に担ってもらいます。
また、銅鉱山開発に対する我々の1つのポリシーは、財務状況に合った中規模クラスに投資するというものです。
もう1つは、銅精鉱を持ってきて日本の直島(香川県)や小名浜(福島県)の製錬所で利用しますが、これは銅の生産と同時に、Eスクラップ(都市鉱山)を処理するためのベースにもなります。ですから、なるべく銅精鉱からの不純物は少ない方がいいんです。そうした条件に合致した鉱山に投資していくというのが基本的な考え方になります。
日本の地方に事業所を持つ意味
─ これも主力事業である超硬工具は、需要先である自動車の電動化などの動向に左右される面がありますね。
小野 超硬の切削工具の大きなマーケットはやはり自動車で、しかもエンジンです。この需要はいずれ、xEV化で減っていくことになります。ですから数年前から、航空・宇宙や医療分野、様々な産業で使われる金型へのシフトを進めています。さらに、「削る」仕事は、例えば再生可能エネルギーの風力発電用の部材など今後も出てくると思います。さらに金属だけでなく強化プラスチックやチタンといった「難削材」など、削る対象を広げる技術開発ができるかが、今後の勝負所です。
─ 2050年の脱炭素は全産業的な課題ですが、三菱マテリアルでは再生可能エネルギーとして地熱発電に注力していますね。
小野 地熱発電は、秋田県、岩手県など東北地方を中心に取り組んでいます。開発にあたっては、地元との共生が必要で、良好な関係を保ちながら進めています。
現在、24年の運転開始を目指して、岩手県で安比地熱発電所を建設中で、その次の開発地候補の調査も進めています。今後は、このペースを上げていく必要があるとも考えており、この中計でも地熱発電事業など脱炭素社会の貢献に300億円の投資を計画しています。
─ 歴史的に日本の地方に製錬所がありますが、これからの地域活性化の観点で、日本に事業所があることの意味をどう考えていますか。
小野 元々、製錬所の場所は国内鉱山の立地から来ています。その後は銅精鉱を輸入する関係で海外立地が求められるようになりました。その意味で自由に、どこででもできるというビジネスではないということは言えます。その地域で雇用を生み、確保して事業を進めていくかを考えてきたわけですが、大きく言えば日本の国づくりにつながる話です。地域活性化の観点でも意義あることだと思っています。
今後、働き方は変わっていくのかもしれませんが、地域に根ざした事業を進めることで、その地域で生まれ育った方々に働きたいと思っていただくことも大事なことです。
─ 近年は経済安全保障の観点で改めて国内立地を進める企業も出てきています。
小野 確かに近年は「重要な事業は日本で」という流れも出てきています。当社が手掛けるタングステンなどのレアメタルも「重要鉱物資源」とされているんです。その意味で、非鉄金属を取り出すことができる設備の重要度が増しているということが言えると思います。
また今、経済産業省や環境省はアジアなどから廃棄された電子機器を日本に持ってこようとしていますが、そうした考えが出てくるのも、日本に処理できる設備があるからです。
─ セメント事業も廃棄物を処理できるという意味で「循環」の役割を果たすものですね。
小野 セメントの国内需要は、かつてのピークだった1990年代に比べれば半分以下になっています。それが再び増えるということはないと考えています。
ただ一方で、国土強靭化、災害の激甚化、インフラ老朽化の観点で必要性があることも事実です。量は減りましたが、建設基礎資材としての役割は引き続きあります。
そしてセメント工場は多くの廃棄物を受け入れて、それを原料にしています。しかも、二次的廃棄物は出ません。受け入れて処理したものは全て、製品の中に取り込まれているということですから、その役割も非常に大きいものがあると思います。
量が減少したのを見て、「セメントは輸入すればいい」という意見が出ることもありますが、それは一部分だけを捉えた議論です。例えば石炭火力発電から出てくる石炭灰の7割はセメントの原料として利用されます。建築基礎資材の供給という「動脈」と、廃棄物を原料として製品にしていく「静脈」の役割は、規模は縮小しても変わらず必要だと考えています。
─ 18年に社長に就任し、改革を進めてきたわけですが、現在までの手応えは?
小野 私だから改革をしたということではなく、それが求められる状況の中で私自身が社長のポジションに就いたという理解です。まずは資源配分を手の届く形にしていく、そのために事業ポートフォリオを整理、最適化してきました。2030年に向けたプランニングはできましたが、ここからが大事です。いかに目標を達成していくかが問われます。
2年前、当社は150周年を迎えましたが、先人の努力に感謝し、歴史に誇りを持つことは重要です。一方、150年続いたからといって、その後が安泰かというとそうではありません。次の歴史は自分達でつくっていかなければいけないのです。
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