【徳島市のまちづくり】内藤佐和子市長が語る「性別や国籍に関係なく参加できる『阿波おどり』は市の資産」
財界オンライン / 2023年4月30日 18時0分
400年を超える歴史を持つと言われる「阿波おどり」。その舞台となっている徳島県徳島市。コロナ禍で中止や縮小開催を経て3年ぶりの屋外開催を果たすなど、地域の持つ独自の資産を活かしてまちづくりを進めているのが全国で歴代最年少の女性市長となった内藤佐和子氏だ。「民間との連携をどんどん進めていく」と語り、中心市街地再開発や新ホールの建設構想にも精力的に動く。人口減少が全国共通の課題となる中で、徳島市はどう生き残りを図ろうと考えているのか。
第一生命経済研究所・熊野英生氏の指摘「知られていない『好循環』の意味」
対立していた県とも協調へ
─ 徳島市で初の女性市長となり、間もなく3年が経ちます。コロナ禍の3年を経て市政の課題認識を聞かせてください。
内藤 徳島県も含めて徳島市には何十年間も停滞していた課題がありました。そういう大きな課題に対する解決策を講じて少しでも前に進めたいという思いがありました。
例えば20~30年間、進捗していなかった市立ホール建設の構想です。建設予定地に含まれる土地を巡って県と市が対立していました。しかし私が市長に就任したことを機に対話を始め、県市協調で県立ホールとして建設することで構想が動き出したのです。
ほかにもJR徳島駅前のアミコビルに入る「そごう徳島店」閉店後のテナント誘致が難航していましたし、中心市街地の再開発でも紆余曲折を経て選挙で計画が変更されたこともありました。
特にそごうの撤退に関しては、中心市街地がどんどん空洞化していくことに危機感を感じていました。そういう課題に対する起爆剤として駅前再生や中心市街地の再開発を進めなければならないと。
そこで市長就任後すぐに内閣府が認定する中心市街地活性化基本計画に名乗りを上げ、2022年3月に認定を受けました。この計画では、「人と人がつながり、新たな挑戦や投資が生まれる街。」を目指す姿に掲げ、行政によるさまざまな取組に加え、民間事業者によるさまざまなチャレンジが生み出される街として活性化させていく方針を掲げました。
また、本市はSDGsの推進に向けて積極的に取り組んでいる都市として国から「SDGs未来都市」にも選ばれています。本市の中心市街地は2本の川に囲まれた中洲に位置し、その形が上空から見ると、ひょうたんの形に見えることから「ひょうたん島」の愛称で親しまれています。
このひょうたん島を、SDGsモデル地区に設定し、経済・社会・環境の側面からさまざまな施策を展開することで、中心市街地の活性化とSDGsの実現を同時に達成していきたいと考えています。
─ その中心市街地活性化のポイントは何ですか。
内藤 1つ目は、駅前にあるアミコビルの再生です。そごう撤退によって、中心部の核が失われる危機的な状況になりました。駅前再生なくして徳島市の活性化、未来はあり得ないと考え、多くの市民からの要望もあり、そごうに代わって三越に来ていただくことが決まり、アミコビルのグランドオープンも間近となりました。
2つ目は、中心市街地の再開発です。再開発組合が主導しているマンション、ホテル、商業施設等を整備する新町西地区での新たなまちづくりを支援することで、まちなか居住の促進や人の交流・にぎわいの場づくりを実現する再開発も進めています。
─ 今後の徳島市の活性化策の肝になるわけですね。一方でコロナ禍3年の総括とは。
内藤 徳島市の場合は、システムがガラパゴス化と言いますか、標準化できていなかった部分もあり、システムのアップデートが難しかったと思います。ですから、給付金の支給も少し遅くなり、市民からお叱りを受けることもありました。これは反省です。
ただ一方で、市役所の職員が一丸となって前を向いて課題解決に取り組んでいったり、新しい取組を民間企業と一緒になって進めて、コロナを機に新しい暮らし方やスタイルの提案を行ったりしました。今まで市役所の中だけで考えていたものをやめて、外部と連携して物事を進めていこうという契機になったのではないかと思います。
─ そのための仕組みづくりはどう進めたのですか。
内藤 例えばコロナで民間企業が給付金を申請するとき、市役所の窓口だけに相談しに来るのではなく、税理士事務所さんなどとも無料で相談できますといった一覧表を作成して公開しました。市役所にしか窓口がなければ市役所業務が煩雑になってしまうリスクがあったからです。それを避けるためにも、税理士事務所さんや民間企業の力を借りました。
あとは「コロナ危機突破プロジェクト創造支援事業」です。コロナで停滞していた社会を変えるためのプロジェクトを民間から募集し、市役所が補助金を付けるというものです。この中で移動のサブスクリプションと住宅をセットで提供するといった移住者を呼び込む新しい試みも民間と一緒にやりました。
ほかにも、コロナ禍でニーズが拡大した弁当の宅配や持ち帰りについても民間事業者によるホームページ作成を後押しし、民間がやっていることをどんどん一緒に情報発信しました。
─ 民間企業の知恵を活用するのがポイントだと。
内藤 はい。これまでも連携協定を結んできたのですが、これをもっと加速して、今では包括連携協定が28を数えます。そのうち私の任期中には19の協定を締結しました。
また、包括連携協定ではありませんが、NGOの団体と連携して生理用品を継続的に配布する取組も始めました。生理の貧困として一時期マスコミでも大きく取り上げられましたが、中学生や高校生の生理の負担を軽減するため、誰でも使えるように学校のトイレに置くようにしたのです。
加えて、市役所等でもスマホをかざせば生理用品が出てくる無料配布システムを導入したりしています。これも民間企業と連携して導入しました。市民の皆さんの負担はゼロです。こういった仕組みを民間と一緒になって、どんどん広げていこうと思っています。
─ こういった取組が広がると市民の意識も変わってくるのではないでしょうか。
内藤 その通りです。例えばこの生理用品の活動を報道で知った地元の女子大生が自分たちにできることはないかということで、自分のバイト先の社長さんに「私たちも何かやりたい」と進言し、生理用品をその会社さんが徳島市に寄付するといったことが起こりました。
それからマスクがないという状態のときには、地元の中学生のバレー部員が自分たちでマスクを作って寄付しに来てくれました。市が本気で動き出せば、市民も自分たちができることはないかと考え、市役所に提案してくれて動いてくれる子たちが増えてきたのです。
─ 市と市民との連携になったということですね。
内藤 ええ。これまで徳島市では公共施設にネーミング・ライツ制度を導入しており、動物園は「とくしま動物園STELLA PRESCHOOL ANIMAL KINGDOM」という名称になりました。ここでも、単にネーミング・ライツで名前だけにお金を払って終わりではなく、動物園とも連携して新しい取組をしようと動き出しています。
─ 一方、苦労したことはどんなことでしたか。
内藤 昨年の夏の「阿波おどり」を開催した際には、実際は阿波おどりで踊ったことが感染を広げたという科学的な証明はされていないのですが、阿波おどりでコロナの感染拡大が起きたといった報道がされてしまったことは残念でした。
─ まさにコロナ禍が始まった時期での市長就任でした。
内藤 そうです。学校も全面休校を余儀なくされ、緊急事態宣言が発出された時期でもありました。2020年の4月18日に市長に就任して21日には4日間の阿波おどりを全面中止すると宣言しなければなりませんでした。これは辛かったですね。
─ このときに自分はどういうスタンスで市民に説明していこうと思ったのですか。
内藤 国や県、市の制度や仕組みに則って、やるべきことをやるというスタンスでした。
─ では、今後の地方活性化に向けた方向性について内藤さんの考えを聞かせてください。
内藤 今の徳島市の人口は約25万人なのですが、ほぼ横ばいです。ただ、徳島県全体としては毎年8000人から9000人規模で人口が減少しています。この影響は県庁所在地である徳島市にも出てくるでしょう。
その意味では、地域と多様に関わる関係人口や観光で来た交流人口をいかに増やしていくかです。その軸にあるのは阿波おどりです。これは大きな財産です。
─ 産業振興については、どのように進めていきますか。
内藤 IT系の人材をもっと活用したいという思いがあります。私自身がバックグラウンドとして学生時代からITやスタートアップ企業との関わりが強く、その分野には注力しています。ITや起業であれば、どこでも住める上に、女性も活躍しやすいですからね。
昨年度も徳島の大学を卒業して東京の企業に勤めながら、そのまま徳島に住んで働いている卒業生が出てきました。リモートワークでの就業が可能な会社社も増えてきていますので、IT人材を増やし、定住促進や女性の活躍を進めていきたいと考えています。その他にも女性のデジタル人材育成や民間と連携した先進的な起業支援の取組も行っています。
─ その際の徳島市のウリは、どんなことになりますか。
内藤 例えば県西部では6~8人乗りのゴムボートに乗り、力を合わせてパドルを使って川を下っていくラフティングの世界大会を開いていますし、南部ではサーフィンの世界大会も行われています。こういった魅力的な場所がたくさんあります。徳島市に住んで必要な都市機能のサービスを受けながら、県内で世界レベルの遊びもできるといった点をウリにしていこうと。
また、都市部の人たちが一定期間地方に滞在し、働いて収入を得ながら、 地域住民との交流や学びの場などを通じて地域での暮らしを体感してもらう「徳島市ふるさとワーキングホリデー」を開催し、伝統工芸である藍染めや木工などを体験してもらう取組なども行っています。
─ その場合に、徳島市の利便性を発揮できますね。
内藤 そう思います。関西まで車で2、3時間で行けますし、東京も飛行機で約1時間です。そういう意味では割とアクセスもしやすい場所になります。しかも、徳島は太平洋の魚と瀬戸内海の魚の両方が食べられます。
食材では、これといったウリがないように言われますが、野菜も含めてたくさんの作物が採れます。関西の市場の出荷金額としては、徳島県は上位に位置しています。ですから東京でご飯を食べるよりコスパよく美味しいものが食べられますよと宣伝しているところです(笑)。
─ 今後の市政の方向性について聞かせてください。
内藤 阿波おどりに代表されるように、徳島は女性活躍などの多様性やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)のまちだと思っています。普通の地域のお祭は地元の男性しか参加できないといった縛りがあったりするのですが、阿波おどりは男性も女性も小さいお子様からおじいちゃん・おばあちゃんまで、国籍も性別も関係なく誰でも参加することができます。
地元の人でなくても構いません。これは真の意味における多様性のある祭だと思っています。実は徳島の女性の経営者や管理職の数は全国1位や2位といったトップレベルです。その意味でも女性の力を活かしたまちづくりも進めてきたいと思っています。
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