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第一生命経済研究所・熊野英生氏の指摘「知られていない『好循環』の意味」

財界オンライン / 2023年4月28日 18時0分

知っているようで知らないことも多い…

2023年の春闘は、驚くほどに賃上げ率が高まりそうだ。連合の春闘・賃上げ率(第2回集計)は、3.78%と1993年以来の高さになった。定期昇給を除いたベースアップ率は2.25%まで高まる。個別の賃上げ率をみても、自動車、電機の大手各社は、組合要求に対して、3月15日に全社が満額回答とした。これほど業界各社が同調することは珍しい。

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 こうした成果について、好循環が生まれる第一歩だという声もある。通説では、好循環とは賃上げが行われると、勤労者が消費を増やし、そこで企業収益も増えて、さらに企業収益の増加が再び賃上げを促すこととされる。こうした循環プロセスのことを好循環と呼ぶ。

 しかし、以上の通説的説明をなぞってみた後で、少し異論を唱えてみたい。この連鎖は、確かに「循環」と言えるが、もう一文字が加わって、なぜ「好循環」なのだろうか。「循環」と「好循環」の間に何か質的な違いがあるのか。読者は、この点をどうお考えだろうか。


好循環とは拍車がかかること

 思考実験のために2つの国を比べてみよう。米国民は、5%の賃上げで、ほとんど貯蓄を考えずに消費を増やす。すると、企業収益は20%増えて、翌年の賃上げもまた5%ほど行うことになる。日本国民は、3%の賃上げを喜ぶが、賃上げは今期限りと思って消費を増やさない。企業収益は横ばいで、翌年の賃上げはなくなる。米国は好循環で、日本は悪循環だと言える。

 この差がどこから来るのかと言えば、家計の見通しの違いからだ。その違いは、将来の賃上げがまだ続くかどうかにかかっている。米国は、将来の賃上げ予想が継続するとみる人が多いから、思い切って消費を増やせる。日本は賃上げの継続性について懐疑的だから、消費を増やしにくい。

 こうした将来見通しの違いは、人々の予想によって決まる。信じる力が、賃上げ率を自己実現的に高めることになる。信じることが、経済成長の勢いに拍車をかけるのだ。反対に、拍車がかからずに、将来を悲観的にみることで自己実現的に低成長化することを悪循環と呼ぶ。

 では、どうすれば、私たちは将来の賃上げまで信じられるのだろうか。1つの仮説は、経営者が好循環を演出するために、敢えて高めの賃上げを宣言して、将来もそれを実行することだろう。そうすると、いずれ勤労者は将来の賃上げの継続性を信じることになる。

 現在、私たちはまだそうした賃上げの継続を信じられずにいる。来年は賃上げが終わるのではないかと疑ってかかる。こうした心理はやはり好循環が未成熟だと感じさせる。

 日本経済には、過去20~30年に亘って、この好循環メカニズムが働かなくなった。好循環を回復させるには、今年だけではなく、来年、再来年の賃上げも重要なのだ。

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