【倉本 聰:富良野風話】森の価値
財界オンライン / 2023年5月13日 11時30分
日本の森林面積は、国土の面積の7割(66%)といわれる。これは、先進国の中ではフィンランド(73%)、スウェーデン(68%)に次いで、世界の中で3位だとされている。だが、そのうち天然林の割合は、昭和40年代から10%減っており、代わりにスギやヒノキの人工林が増えている。
【倉本 聰:富良野風話】文明の墓場
天然林と人工林を比較すると、昭和41年では天然林68%、人工林32%に対し、平成29年の統計だと天然林59%、人工林41%と大きく変わっている。
これを歴史的に検証すると、縄文時代には竪穴式住居や舟を作るために森は伐られ、弥生時代には田畑や居住地の開発のために森林は伐採され、676年には天武天皇から禁伐令が出された。これが中世になると、製塩・製鉄の材料として、また寺院の建材などのために木材が利用されることになる。
戦国時代には城や砦の建設、また戦乱によって森が焼かれ、漸く江戸時代、幕府と諸藩は森林保全にとり組み始める。伐採を制限し、森林再生促進にも尽力した結果、森林資源は回復に転じた。だが明治維新と文明開化で建築材や燃料の需要が高まり、森林の伐採が再び加速した。明治中期は日本で最も森林が荒廃した時期だといわれる。そして世界大戦の戦中戦後。戦時中には大量の木材が必要とされ、更に戦後の復興のため木材の需要が急増して、政府は拡大造林政策を開始。スギ、ヒノキなどの人工林を植え始めた。
一方、戦後のレジャーブームは24万ヘクタールの森をゴルフ場のために伐採している。これは東京ドーム5万2000個分、日本の森全体の約1%となる。さて。一方この間、地球上には異常な文明の爆発が起こり、経済・工業化社会が出現して、それに伴う環境問題が当然のように火を噴くのだが。
問題はこの間の森林消失問題を、社会が環境問題とどうも深刻に結びつけず、たとえばアマゾンの乱伐問題などを対岸の火として傍観しているように見えることである。
人間を含む動物は酸素を吸収し、CO2を吐き出すことで生命を保ち、対して植物はその真逆、CO2を吸い、酸素を排出することで生きている。即ち動物と植物(森林)は相互依存によって地球という環境を保っている。しかもその森林が動物にもたらしている最大の恩恵は、決して木材という副産物ではなく、水と酸素という二大物質、それを与えてくれる木の葉っぱである。葉っぱこそが森の最大の恩恵物である。然るに人類は古今東西、森を見るとき、〝幹を見て葉を見ず〟、そういう過ちをずっと犯してきた。
いま発表されている統計を見ても、森林面積の減少は発表するが、排出酸素量の加減には触れない。これは大きな見当ちがいである。
1分間に17~18回、酸素を吸って我々は生きている。それは木の葉が光合成によって我々に与えてくれる森の最大の恩恵である。その重大事をみんな忘れてはいまいか。
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