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早稲田大学総長・田中愛治「答えのない時代に自ら解決策を考える力を育む」

財界オンライン / 2023年5月11日 18時0分

田中愛治・早稲田大学総長

社会課題が多岐にわたり多様化・複雑化する中で…

 ─ 今は〝失われた30年〟と言われ、日本の活力が失われていると言われます。企業に一番の責任があるのは当然なんですが、大学の責任と言いますか、教育機関の責任はどのように考えますか。

 田中 もちろん、責任はあると思います。大学では地頭のいい子を育てて、企業に送り出せばいいと。あとはオンザジョブトレーニング(実地訓練)だと。これは間違いだったと思います。

 やはり、大学の教授が自分の趣味のようなことだけを講義していたのではだめで、大学でしっかりした教育をしなければいけない。もっと体系的に教える必要があると思います。

【著者に聞く】『サクッとわかる ビジネス教養 ビジネスモデル』早稲田大学大学院 経営管理研究科教授 山田英夫

 もう一つは、答えのある問題だけを追う教育には限界があるということです。1980年代の半ばまで、日本にはモデルがはっきりとありました。

 戦後の1945年から1985年までの40年間はアメリカに追いつき、追い越せで良かった。そのためには答えのある問題の回答を早く出せる人が一番優秀だと思った。それが受験勉強です。

 ─ われわれは、答えがある問題を早く解ける子が一番優秀だと思ってきたわけですね。

 田中 はい。しかし、日本がアメリカに追いついてしまうと、自分で問題を探さないといけない。自分で解答も考えなきゃいけない。だから、答えがない問題に向き合った時、どうしていいかが分からない。それを考える力を育むことを、戦後70年間ほとんどやってこなかったわけです。

 深刻なのは、日本がアメリカに追いついてからの30年、未だに答えのある問題を早く解けるから優秀だという神話の呪縛から抜けていない。わたしは、これを払拭しない限り、OECD諸国に追いつくことはできないと思います。

 政治経済学部は2004年に国際政治経済学科を新設していますが、この時の記者会見で、わたしは教務主任としてこのことを訴えました。20年前から言ってきたことが、今になって現実問題になってきたということだと思います。

 ─ もっと言えば、明治期の文明開化においても、欧米から学んできた。150年間ずっとモデルがあり、それを追いかけてきたということですね。

 田中 そうです。モデルは変わったけど、モデルに追いつくということは変わらなかった。

 ─ 今度は自分でモデルを考える時代になったと。日本にその潜在力はありますか。

 田中 あると思います。わたしは〝しなやかな感性〟と言っているんですが、日本に必要なのは他者を認める寛容性だと思います。日本の中にも相当ダイバーシティ(多様性)があるんですが、それでも、われわれは単一民族・単一文化だと思ってやってきた。

 日本人同士なら、会釈の仕方や相手との合意も大体どうするべきかが分かっている。しかし、他の文化の人とそれをやることに慣れていないですよね。他の文化の人が入ってきた時、日本人は非寛容なんです。

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共生の思想が大事

 ─ なるほど。日本はおもてなしの国と言われているのに、面白い指摘ですね。

 田中 日本人はおもてなしの国ですから、お客様でいる外国人には優しい。日本は世界で一番旅行に行きたい国ですし、京都は世界で一番行きたい町ですよね。

 しかし、同じコミュニティの一員になると途端に厳しくなる。自分たちの意思決定の仕方やしきたりが分からない人は認めないという排他性がある。だから、しなやかな感性を養わなければならないと思うんです。

 今の日本人は内向きになっている。これは本当に問題で、内向きになっていたら日本は生き延びられません。

 ─ 本当にこれは由々しき問題なんですが、どこから手を付けていけばいいですか。

 田中 やはり、日本は18歳人口が激減していて、2012年に120万人、今も105万人ぐらいですが、ずっと出生数は減少していて、昨年の出生数は80万人割れしました。ということは、10年前の2012年と比べて3分の1の人口がいなくなるということです。

 18年後の2040年になっても、仮に大学進学率が50%のままだとすると、40万人程度しか大学に進学しなくなる。そうなれば、知的職業に就く人の数は激減するし、日本の国際競争力は急速に低下します。

 それを避けるには、海外の方が日本で高等教育を受けて、日本に住んでもらわないとダメです。われわれが英語で授業をすることも大事ですが、彼らに日本語で学んでもらう必要もある。それで日本という社会に住み着いてもらわないと。

 その時にしなやかな感性を持って、異なる文化を持つ人たちに寛容で、お互いに認め合わないといけないし、排他的になると衰退するんですよ。このことをわたしは危惧しています。

 ─ キーワードは、しなやかな感性ですね。

 田中 はい。アメリカのトランプ元大統領のような考え方でいけば、アメリカだって衰退します。もともとアメリカは移民を受け入れて多様性を持った国だった。それが排他的になれば衰退するだけです。

 現に今はアジア出身で、アメリカのハーバードやスタンフォードを出た方たちが、アメリカに残りたがらないんですよね。アメリカで学ぶものは学ぶけど、卒業したら日本に帰ってきたり、中国やシンガポールに帰ってしまう。その意味では、アメリカも変わらないといけないし、日本も変わる必要がある。

 日本はおもてなしもできるし、海外の方にも優しくできる国民性があるので、他の文化を受け入れられれば、うまく一緒に住めるんです。そういう共生の思想が大事だと思います。そうでないと、近隣諸国とも仲良くできません。お互いに理解することが大事です。

慶應義塾長・伊藤公平の「大学は個人や企業をつなぐプラットフォームになる」

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