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【政界】維新の伸長で高まる改憲の機運 岸田首相は指導力を発揮できるか

財界オンライン / 2023年5月19日 18時0分

イラスト・山田紳

岸田政権が発足して2回目の憲法記念日を迎えた。安倍晋三元首相の不慮の死で憲法改正の機運は遠のくかに思えたが、ロシアによるウクライナ侵攻の出口が見えない中、緊急事態対応を中心に衆参両院の憲法審査会で議論は進んでいる。独自の改憲案を持つ日本維新の会が統一地方選で勢いを増したことで、護憲派の野党はこの先、国会で抵抗戦術をとりにくくなるだろう。首相の岸田文雄は改憲のビジョンを明確にし、次期衆院選で真正面から国民に問うべき局面を迎えている。

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中山方式は死なず

 4月6日の衆院憲法審査会。予定した議論が終わると、自民党の船田元は、審査会長の森英介に促されておもむろに語り始めた。

「より多くの政党や議員が賛同して初めて国民投票で成立させることができると中山会長は考えていた。与党は野党の意見をよく聞く。野党は党利党略に走らない。これが大事だと常々おっしゃっていた」

 外相や憲法審の前身の衆院憲法調査会長などを歴任した自民党の中山太郎が3月15日に死去した。98歳だった。少数会派にも配慮する「中山方式」は国会での憲法論議のあるべき姿として今も評価が高い半面、改憲勢力が伸長するにつれて「議論の停滞を招く」と敬遠する声も少なくない。

 しかし、船田は「中山方式は死んだと言われるが、私は違うと思う。むしろこれを生かしていかなければいけない。与党は度量をもっと持ち、野党はもっと良識を持つことが大事だ」と追悼の辞を結んだ。

 憲法を改正するには、衆参各院の3分の2以上の賛成で改正案を発議し、国民投票で過半数の賛成を得る必要がある。自民、公明両党に野党の日本維新の会と国民民主党を加えると、改憲勢力は衆参両院で「3分の2」ラインを超えているが、目指す改憲項目が一致しないため、発議の目途は立っていない。

 自民党は2018年3月、①第9条への自衛隊明記②緊急事態対応③参院選の合区解消④教育の充実─の4項目にわたる改憲の条文イメージを発表したが、安倍政権は20年に退陣。

 首相を引き継いだ菅義偉は新型コロナウイルス感染症対策にかかりきりになった。しかも、首相在任中から改憲の旗を振ってきた安倍は昨年7月、銃撃され死去した。

 新型コロナの感染症法上の分類は5月8日、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する。国民生活は平穏を取り戻しつつあり、この春は4年ぶりの花見で各地がにぎわった。

 個々の政策は必ずしも評価されていないのに、ここにきて岸田内閣の支持率が軒並み上向いたのは、こうした「気分」によるところが大きい。岸田政権は昨年後半の危機的な状況をひとまず脱した。

 改憲論議に長く関わってきた国会関係者は予言する。「岸田は安倍ができなかった憲法改正に本気で取り組むつもりかもしれない」。




 しかし、岸田の憲法観や改憲への意欲は、いまだにはっきりしない。1月の施政方針演説では「この国会において、制定以来初めてとなる憲法改正に向け、より一層議論を深めていただくことを心より期待する」などと短く述べるにとどめた。

 2月の自民党大会でも、同党の4項目には触れたものの、「時代は憲法の早期改正を求めている。野党の力も借りながら、国会での議論を一層積極的に行っていく」と具体的なプロセスには踏み込まなかった。

 統一地方選を前に、公明党に配慮した面はあるのだろう。「天皇または摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と定めた憲法第99条を根拠に、首相としての振る舞いを安倍が野党から批判されたことを意識しているのかもしれない。

 ただ、それを岸田の弱気と決めつけるのは早計だ。岸田が曖昧な態度に終始する間にも、改憲に向けた地ならしは進んでいる。

 政府は昨年12月に閣議決定した安全保障関連3文書のうち「国家安全保障戦略」と「国家防衛戦略」に、敵のミサイル発射基地などを叩く反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記した。専守防衛の考え方に変わりはないとしたものの、事実上、従来の防衛政策の大きな転換だ。にもかかわらず、世論は冷静だった。

 安倍が集団的自衛権の行使容認に踏み切った当時とは隔世の感がある。急速な軍備拡張を進める中国や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮への不安が、国民の意識を変えつつあるようだ。

 日本維新の会、国民民主党、衆院会派「有志の会」は3月30日、憲法に緊急事態条項を設ける改正条文案を発表した。

 それによると、国会議員の任期を延長する要件として①武力攻撃②内乱・テロ③自然災害④感染症のまん延⑤その他これらに匹敵する事態─を規定。

 広範な地域で国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難なことが明らかな場合、衆参両院の出席議員の3分の2以上の賛成による議決で、衆院議員と参院議員の任期を延長できる。ただし、延長は6カ月を上限とする。

 先述した自民党の条文イメージは、緊急事態として「大地震その他の異常かつ大規模な災害」を想定し、特例による任期の延長幅は明示していない。ウクライナ問題などを踏まえて「武力攻撃」などを要件に加えた3党派の条文案は、自民党案をさらに一歩進めた内容と言える。

 昨年3月の衆院憲法審では、自民党もウクライナ侵略のような国家有事を緊急事態の類型に含めるべきだと主張していた。

 公明党副代表の北側一雄は今年3月23日の衆院憲法審で、①国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難な場合、内閣は選挙困難事態を認定②認定には国会の承認が必要③選挙期日の延期は最大6カ月─という見解を表明した。そう考えると、自公両党が3党派の条文案に歩み寄る余地は十分にある。

 3党派は条文案を4月6日の衆院憲法審に資料として提出。日本維新の会代表の馬場伸幸が「意見集約のたたき台になり得る」とアピールすると、自民党の新藤義孝は「これまで審査会で討議されてきた内容を反映したものであり、建設的かつ真摯な議論の結果として歓迎したい」と応じた。




 憲法第54条第1項の規定により、解散から40日以内に衆院選を実施し、そこから30日以内に国会を召集しなければならない。一方、同条第2項は、解散後に緊急の必要があれば内閣は参院の緊急集会を求めることができると定めている。

 日本維新の会など3党派の条文案は、この「40日+30日」を参院の緊急集会の有効期間とみなし、「国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難」であることを議員任期延長の要件にした。被害が長期化したら、緊急集会だけでは国会本来の機能を担保できないというわけだ。

 緊急集会は参院の独自性に関わる仕組みだ。しかし、参院憲法審でも「緊急集会規定は平時の制度であり、緊急事態を想定していない」(自民党の松川るい)など緊急事態条項必要論が優勢で、緊急集会の活用を主張する立憲民主党などは押され気味だった。

 しかも、同党は「場外」でミソをつけてしまった。参院議員の小西洋之が3月29日、記者団を相手に、自身と関係ない衆院憲法審を「毎週開催はサルのやることだ」と批判したのだ。他党の猛反発を受けて陳謝したが、事態を重くみた同党は参院憲法審から小西を外した。

 小西といえば今国会で、放送法の政治的公平性に関する解釈を安倍政権が強引に変えようとしたことをうかがわせる総務省の行政文書を暴露し、にわかに注目を集めた。ただ、自民党は「岸田政権には痛くもかゆくもない」(幹部)とまともに取り合わず、ついには小西の方が失言で自滅した。

 立憲民主党は昨年の臨時国会から日本維新の会との「共闘」を進め、政府・与党にプレッシャーをかけてきた。しかし、馬場は小西の失言を「立憲民主党によくある大ブーメラン」と切り捨て、「いろいろな政策で信頼関係が完全に損なわれているので、協調は当面の間、凍結する」と宣告した。野党は国会で存在感を示すしかないのに、立憲は後半国会の展望を描けずにいる。

 改憲に反対する共産党も党首公選制を唱えた党員を相次いで処分したのが裏目に出て、統一地方選で苦戦した。護憲勢力は追い込まれている。




 緊急事態条項について、衆参両院の憲法審で方向性は固まりつつある。では、同条項が改憲の突破口になるかといえば、そう簡単でもなさそうだ。ある与党関係者は「国会議員の任期延長を国民投票にかけるのは難しい。国民の関心が高い9条改正を問うべきだ」と指摘する。どういう意味か。

 長年にわたる国政選挙の低投票率は、国民の政治への関心が薄れていることを示している。しかも、SNS(ネット交流サービス)の発達によって「格差」への不満は顕在化しやすくなった。もし任期延長が国会議員の「お手盛り」だという批判が広まったら、国民投票で過半数の賛成を得る目途は立たない。

 自民党副総裁の麻生太郎は4月17日、福岡市での講演で自衛隊の体制を強化する憲法改正に言及し、「岸田は安倍にできなかったことをしている。リーダーシップは安倍よりあるのではないか」と持ち上げた。

 単なるリップサービスではない。そこには麻生なりの計算が透ける。安倍なき今、岸田が9条改正に本気で取り組むなら、来年9月の総裁選で党内保守派も岸田を降ろす理由がなくなる。ことあるごとに衆院解散カードをちらつかせて、求心力の維持にきゅうきゅうとする必要もない。

 ただ、「平和の党」を掲げる公明党は9条改正に応じる気配はない。あえて「本丸」を目指すのか、それとも多くの党派が合意できる緊急事態条項から着手するのかは、連立政権の枠組みにも関わる難問だ。

「宏池会(岸田派)の本質は徹底的な現実主義」と常々語る岸田は、リーダーとして憲法問題に明確な方針を打ち出す責任がある。(敬称略)

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