アルバトロス・テクノロジー代表取締役・秋元博路が語る「次世代のための浮体式洋上風車」
財界オンライン / 2023年5月23日 15時30分
当社は東日本震災を契機に海洋再生可能エネルギーの実用化を目指す合同会社としてスタートしました。当時は洋上風力の認知度が低かったのですが、理解者も増え、昨年株式会社化と最初の資金調達を行いました。
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欧州では大規模な洋上風力開発が進み、「日本でも」という意見があります。しかし欧州は瀬戸内海よりも浅く、広さは日本海に匹敵する北海を活用し、風車基礎を海底に置く「着床式風車」が主流です。一方、すぐ海底が深くなる日本では、陸から僅か数kmで着床式が経済的に成立しない水深に達します。沖合の安定した強風を受けるには係留した浮体に風車を載せる「浮体式風車」が必要です。
海外から浮体式の有望市場とされながら動きが鈍いのは、国内に有力な開発者が育っておらず、着床式の海上土木工事で利益を得る土木・建築業界の発言力が強いためだと思います。
国内の着床式向け促進区域の離岸距離は僅か4kmで、15MW級の大型風車を海岸線沿いに2列並べるのが限界です。着床式では沖合に拡大できません。排他的経済水域(EEZ、離岸距離約370㎞)の洋上風力利用の議論も進むと、浮体式は大幅に拡大します。国内に残る小さな着床式エリアを取り合うより、外側膨大な浮体式ポテンシャルを開発する方が合理的です。
ただし、従来型(水平軸型)風車は高いタワーの上に本体を載せるため、浮体式に向きません。超大型台風の中で転覆しないために大型浮体を必要とし、揺れる本体での保守コストも上がります。そこで当社は、次世代の浮体式洋上風車として、浮遊軸型風車(Floating Axis Wind Turbine:FAWT、ファウト)を提案しています(Figure 1)。
FAWTは、垂直軸型風車を円筒浮体に固定して一緒に回します。起き上がり小法師の原理で転覆せず、安全性を保ちながら浮体を小型化してコストを抑えます。発電機は波が届かない高さ(約16m)の架台内に置き、係留索を繋いで風車と一緒に回る事を防ぎます。
専門家からは、垂直軸型は性能が低いと言われますが、誤りです。小型機を大型化すると直径10mくらいから水平軸型と同等の効率を発揮します。設備費・保守費の削減、大型化、国産化率の点で、FAWTは浮体式のゲームチェンジャーになり得ます。
風車部の製造は、炭素繊維強化プラスチックの連続引抜成形の自動化により、人件費はほぼゼロです。また羽根は、長さ方向に分割して成形できるため、大きな工場面積や広いアクセス道路は要りません。従来型は、中国での生産が圧倒的に有利なため、国内製造がなくなりましたが、FAWTは国内で国際競争力が高い風車を作れます。
FAWTは、複数の発電ユニットを搭載し、個々のユニットは海上で交換できるサイズに抑えます。従来の発電機は海上で交換できず、大手風車メーカーとの激しい開発競争がありますが、FAWTなら、国内メーカーから発電機を調達でき、ユニット数を増やすだけで将来の大型化にも対応できます。
組立は、風車を傘のように閉じた横倒し状態にして平地で行い、海上で注水して立ち上げ、展開します。クレーン作業が不要で、浅い港湾も使えます。製造、インフラ、保守の各面で大幅なコスト削減を見込みます。
脱炭素化が世界的に加速する中、日本の遅れが目立ちます。脱炭素化に取り組む前提で、関連産業を日本の次世代に残せるかが重要です。浮体式風車は、次世代のための技術です。複数の企業、大学と連携して、小型機の海上実験を準備中です。
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