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ロッテホールディングス社長・玉塚元一「資本力も含めて日韓で協業してグローバル展開していく取り組みは始まっています」

財界オンライン / 2023年6月20日 18時0分

玉塚元一・ロッテホールディングス社長

日韓で事業を展開するロッテグループ。カリスマ経営者が率いてきた企業を新たな成長軌道に乗せることが自らの使命だと玉塚氏は語る。「ロッテのブランドに対する信頼感は日韓共通の強み」と話し、韓国の持っている事業シーズ(種)と日本の技術を掛け算してグループの事業領域を国内外に広げていく考えだ。原材料やエネルギーの高騰下、玉塚氏が見据える次のロッテグループの姿とは?

味の素社長・藤江太郎の「根っこは共通のアミノサイエンス」論


創業者・重光武雄氏の存在

 ─ 玉塚さんがロッテホールディングス社長に就任して3年目を迎えました。ロッテグループという会社をどのように分析していますか。

 玉塚 ロッテグループの創業者である重光武雄さんがいろいろなご苦労をされて1948年に国産のチューインガムを生み出しました。当時、チューインガムのメーカーは何百社もあったようですが、そのほとんどが姿を消しました。昨今でも明治さんが撤退を表明しています。

 そのため、ここまで生き延びているのはロッテグループなど、ほんの数社になります。利益率が高いチューインガムで成功し、その後の64年にチョコレートに進出。お菓子の領域を広げていきました。

 一方で70年代になってから韓国にも進出しました。重光さんは蔚山(ウルサン)の生まれでしたので、いろいろな所から頼まれたようです。ただ重光さんは当初慎重で、それほど積極的ではなかったと聞いています。

 それでも断れない方々から頼まれて韓国進出を決断し、これからはホテルや化学産業が必要になると考え、お菓子とは違う領域にも出資していきました。長い年月が経ち、ロッテグループの売上高は日本が約3000億円に対し韓国は約8兆円という企業グループになりました。 ─ 創業者がぐいぐい引っ張ってきたということですね。

 玉塚 ええ。実はロッテグループにおける日本と韓国の売り上げ規模は1990年までは3000億円くらいで、ほぼ同じでした。ところが日本は90年からほとんど成長していない。社員は現場で努力をしてきたのですが、日本は成長していないと。

 一方で韓国はダイナミックに8兆円まで成長している。まさにこれは日本経済の「失われた30年」とリンクします。ロッテも一緒です。ですから、ここをもう一度成長させるようにモメンタムを変えないといけません。

 ─ どういった領域でそれを実行していきますか。

 玉塚 当然、お菓子というドメインでも成長できますし、今までよりも少し領域を広げて大胆なチャレンジもできるでしょう。特に韓国と比較すると、そういったことを日本ではあまりやってこなかったのです。ですから日本がきちんと再成長できる基盤をつくることが必要です。

 そもそも日韓には壁がありました。社員同士のコミュニケーションはほとんどありませんでした。しかし、株式保有のオーナーシップであり、そもそも会社が誕生したDNAから考えても、本来であれば一緒のグループであるにもかかわらずです。

 ロッテという企業グループを俯瞰してみると、我々は日韓をまたいでアジア、アメリカ、ヨーロッパに広がるグローバルカンパニーなのです。しかしこれまでは日韓それぞれが個別に経営をしてきた。今は違います。重光昭夫会長が韓国の会長になり、日本の会長になり、グループ全体の会長です。すごくシンプルなガバナンス体制になっています。



日韓共通の課題に向き合う

 ─ 創業者が築き上げたステージから先に進む地盤は整っているということですね。

 玉塚 はい。そういった段階で私はロッテグループに来ました。日本だ、韓国だと分け隔てなく、重光会長と一緒にグループ全体で、どういう成長戦略を描くのかという視点が重要になってきているのです。

 しかもここにきて日本でも韓国でも同じテーマが課題になっています。例えば地政学的リスクが急激に高まっているのです。ウクライナ戦争下、韓国も日本も共に中国に隣接していますし、北朝鮮もある。アメリカと中国とのデカップリングの問題などもあれば環境問題もあります。

 さらに両国とも人口減少に突入していきます。自国のマーケットだけでは生き残れない時代になっているのです。ですから重光会長を中心にした韓国のチームはものすごい危機感を持っています。もしかしたら日本以上かもしれません。

 ─ 両国での危機感の共有が求められてきますね。

 玉塚 そうです。そんな中でグループ全体の事業ポートフォリオを俯瞰すると、韓国の場合は化学もやっているし、小売りの規模も大きく、ホテルや食品も手がけている。他にもレンタルのビジネスやシステムのビジネスなど多岐にわたります。

 そこでグループの成長戦略を考えたとき、日韓併せてグローバル市場でどういう絵を描くかという発想が非常に重要になってきます。今まではそういう発想をしてこなかったのです。

 今は日韓の壁を取り払い、社員同士が行き来し、韓国の幹部とも会話をしながら、グループ全体として、どのように事業を成長させていくかを考えて実行していかねばなりません。

 ─ その中で日韓に共通する強みは何ですか。

 玉塚 ロッテのブランドに対する信頼感ですね。日本の従業員も優秀な人が多い。ポテンシャルはすごくあると思います。



他の財閥と違う強みとは?

 ─ それをこの2年間で感じましたか。

 玉塚 ええ。韓国の5大財閥としてサムスン、現代自動車、SK、LG、ロッテがあります。ところが日韓で完全に消費者に受け入れられているブランドを持っているのはロッテだけです。他の企業も努力されていますが、本当に日本の消費者レベルで受け入れられているか、大好きだと言ってもらって親近感がある人たちがどれだけいるか。

 しかしロッテは日本ではコーポレートメッセージの「お口の恋人」が多くの方々に親しまれているように、お菓子や食品が深く浸透していますし、韓国でも街中に出れば、そこら中にロッテの商品があります。両国においてコンシューマーレベルでここまで受け入れられているブランドは他にありません。

 そういったブランドに対する信頼感があります。これは先代からロッテグループの皆さんが努力して築き上げてきた信用そのものです。ですから私は、これもうまくテコにしながら、2つの国が持っている事業シーズ(種)と技術を、どのように掛け合わせて成長戦略として実現させていくか。まさにそれを激しく推進しているところです。

 ─ 日韓関係と言えば、歴史的には様々な不幸なこともあってお互い耐え忍んできたところがあります。韓国の尹錫悦大統領の誕生で風向きが変わりつつありますが、若い世代を味方につけることはできますか。

 玉塚 文化レベルでは可能です。映画やドラマ、韓国の7人組アイドルグループ「BTS」に代表されるエンターテインメントですね。これらは日本の若い世代には大人気です。一方で『鬼滅の刃』や『スラムダンク』に代表される日本のアニメや映画も韓国では大変な人気です。

 こういう文化レベルでは、もはやお互い交流できていると言えるでしょう。韓国では「MZ世代」と呼ばれていますが、1981年から96年に生まれたM世代と97年以降に生まれたZ世代の2世代を中心に、日本に対する違和感はほとんどありません。

 ベンチャー企業も同様です。昨年3月にはコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立したのですが、韓国でもCVCをやっています。投資先の厳選で激しい攻防が始まっています。韓国はデジタルが強いですし、日本ではユニークなスタートアップが多い。このレイヤーでは両方ともGパン姿でコミュニケーションを活発にとってやっています。



北米では日韓でJV設立

 ─ ベンチャーのレベルでも歴史的な対立はないと。

 玉塚 そうです。それからコンシューマープロダクトでも化粧品やKフード(韓国料理)、ユニクロを見ても、コンシューマーに近いところのプロダクトラインは問題ないと思います。

 その点、ロッテグループとしては、もう少しBtoBの戦略的な素材や半導体関連といった辺の領域でどんな取り組みができるかがポイントになってくると思っているんです。ロッテグループの中では、どんなレイヤーであろうが、全てのレイヤーで日韓の連携を強化していきます。

 これまでは政治レイヤーが壊滅的でした。しかしここにきておっしゃるとおり、尹大統領のリーダーシップで急速に流れは変わっています。この流れの変化は我々にとっても非常に大きい。サムスンが横浜に半導体の開発拠点をつくるといった話題も出てくるようになりました。

 こういった流れが徐々に増えてくれば、一気にコーポレーションレベルや大企業レイヤーでも様々な取り組みが始まってくるのではないでしょうか。

 ─ ある意味で可能性を秘めた展開ができるわけですね。

 玉塚 そういうことです。ただ日本と韓国では意思決定のスピードが大きく違います。韓国の方々の意思決定のスピード感や仕事の進め方はミクロレベルでものすごく速い。

 トップダウン型で一気に進めていくといった形ですが、日本はどちらかというと、いわゆるコンセンサスベースのスピード感になってしまい、すごく慎重になります。ここをどう絡めていくかです。

 例えば日韓でお菓子の工場を操業していますが、生産レベルの層は今まであまり交流してこなかったのですが、それが変わりつつあります。お互いに徹底的に交流しながら、学ぶべきものは学んでいこうという流れに変わってきているのです。

 ─ やはり互いに刺激を受ける部分は大きいですか。

 玉塚 はい。日本の工場の従業員からすると、例えばこのレベルだったら、製品化される前にはじかれる。そのラインの中からチョコレートのパッケージが一部ずれていたりしたら、すぐに調整に入ります。

 一方で、韓国はどちらかというと生産性を重視する傾向にあります。まずは商品をどんどん作ることに重きをおいているといった具合です。ミクロレベルではお互いたくさんのチャレンジがあると思います。ただビジョンを共有してお互いをリスペクトし、お互いの強みをかけ算していけば、いろいろな可能性が生まれてくると思います。

 特にお菓子の領域は日本のマーケットと韓国のマーケットはそれぞれ違います。お互い母国に根差してやっており、進出しているアジアでもお互いが別々のテリトリーを持っている。

 そうではなくて、もっとスケールを大きくして、インドネシアやベトナムの工場がアジア全体をカバーするようにして日韓共同で投資をしていくといったことも可能になります。

 出遅れている北米でも日韓でジョイントベンチャーが動いています。資本力も含めて日韓で協業してグローバル展開していく取り組みは始まっています。

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