ロイヤルホールディングス会長・菊地唯夫「第4次産業革命であるデジタル革命でサービス産業はすごく面白くなる!」
財界オンライン / 2023年6月14日 7時0分
予測不能の事態が突然起きたときの経営者の役割とは何か─。コロナ禍でファミリーレストラン大手のロイヤルホールディングスは営業が制限され、資金が日々目減りした。その際、資金繰りをどうつないでいくかに腐心した会長の菊地唯夫氏。「外食に存在意義はあるのか」と問いかけ、自分たちの仕事を根本から考え直した。菊地氏は「経営者は逃げてはならない」という決意の下で動き出した。
ロイヤルホールディングス会長・菊地唯夫「多店舗化による『規模の成長』とあわせて『質の成長』を志向する事業も」
双日との資本業務提携へ
─ 菊地さんが社長に就任するまでロイヤルグループは増収減益と減収増益を繰り返していました。菊地さんは自らの役割を増収増益に軌道修正させることを挙げていましたが、コロナ禍で環境が激変。どのように対処しようと考えましたか。
菊地 10年ほどの時間をかけてやろうと思っていた改革をコロナ禍が確実に早めました。ですから、まずはスピードが勝負だと。コロナがいつ終わるか分からないし、マグニチュードがどのくらいかも分からない。そうすると、いざとなったときに打つ手がなくなってしまう。
ですから、とにかく速く動かなければいけないと思いました。これは私が日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)で経営破綻を経験したときに学んだことです。いま打てる手を先延ばしにしてしまうと、最後の最後に打つ手がなくなってしまうのです。
─ どう動きましたか。
菊地 緊急事態宣言の発出を受けて、2つのプランを練りました。「プランA」は、とにかく自助努力でできることを徹底的にやること。不採算店を閉め、賃料減額交渉をする。これは当時の社長が中心になって動きました。そこに私はほとんど関与していませんでした。
なぜならプランAがうまくいかなかったときの「プランB」に向けて動いていたからです。このプランでは証券出身である自分がいろいろな金融のネットワークを駆使して、もしも資本調達が必要になったときに、どういうパートナーと組むのが適切なのかを考えていました。
これはオープンにやると信用不安になってしまうので、水面下でオンラインを使って調整しました。9月になっても事態は収まらず、このままいくと大変苦しい状況に陥るかもしれないという局面に入ります。そこでプランBを発動しました。
─ そこで双日との提携交渉が始まったということですか。
菊地 ええ。当時、当社の自己資本は約500億円。それが僅か1年で200億円にまで減っていました。同じ年がもう1年続いたら資本がなくなる。その状態になる前に手を打とうと動いたのが20年9月でした。
なぜ双日だったのか。もともと深い接点はなかったのですが、同社は空港のビジネスを手掛けていましたし、JALやANAとも協業していました。当社も機内食を手掛けていましたから縁はあった。双日は資本業務提携を受け入れてくれました。
まずは失った300億円のうちの200億円は1年以内に絶対に取り戻すと伝えました。それが238億円の増資と優先株、新株予約権の発行の組み合わせにつながったのです。こういった金融の仕組みはドイツ証券時代の経験が生きましたね。
ポートフォリオの進化
─ 厳しいコロナ禍も徐々に落ち着いてきています。今後の戦略はどう描いていますか。
菊地 我々はいろいろな事業を営むことによってリスクを最小化してきました。事業を分散していたのです。ただ各事業には波があります。外食であれば「ちょい高ブーム」があったり、「低価格ブーム」がある。高速道路でもガソリン安で人がたくさん動くこともあれば、ガソリンが高くなることもあります。
各事業領域で個別の波があっても、我々がリスクをヘッジできたのは複数の事業を組み合わせることができたからです。ところがコロナ禍では、全てが打撃を受けました。外食も空港・高速道路の飲食店を手掛けるコントラクトも機内食もホテルも全てがやられてしまったと。
これは何を意味していたかというと、実はリスクを分散しているようで分散していなかったということです。根本的なリスクは一緒だったわけです。人流依存だったということです。
─ 人に依存しないビジネスを考える必要が出てきたのだと。具体的には?
菊地 いま我々がやるべきことはポートフォリオを進化させることです。その方向性として私の頭の中には4つあります。
1つ目は人流に依存しないビジネスを育てることです。その取り組みとして冷凍食品の「ロイヤルデリ」があり、テイクアウトやデリバリーに強みを持つフライドチキンの「ラッキーロッキーチキン」があります。
2つ目は構成を変えず、1事業ごとにレジリエンス(強靭性)を高めていくことです。空港や高速道路の飲食店などコントラクト事業は立ち寄り型が多く、ホテルも旅行が目的で、その際に泊まる場所です。立ち寄り型は目的を持っていないから弱いわけです。
そこで各事業に目的を持たせようと。例えば東京・押上のホテルではサウナ付きの客室など、コンセプトルームを展開しています。要はそこを目的に来てもらう体験型ホテルをつくったということです。
4つの方向性を描く
─ 要は、人を惹きつける目的をいかにつくるかですね。
菊地 ええ。そして3つ目はリスク分散をポートフォリオ上で見るのではなく、もっと顧客志向になって考えるということです。グループが一体になることによって、もっとお客様に対して良いサービスができるのではないか。そこでグループCRM(顧客管理システム)をつくり、お客様の情報を一元管理することで、より良いサービスにつなげようと動いています。
最後の4つ目はポートフォリオをグローバル化させることです。海外はコロナのインパクトも国によって違いますから、ポートフォリオをもっと立体的にすることができるはずです。この4つが我々のやるべきことではないかと考えています。
─ 人流に依存しないビジネスは探せばたくさんあると。
菊地 もちろんです。コロナ禍でもスーパーマーケットは苦労していませんでした。外食市場は約26兆円に対し、中食が約10兆円、内食が約35兆円です。コロナによって外食は痛みましたが、それは食べる量が減ったわけではなく、他に移っただけです。家で食べるのであれば冷凍食品を提供すればよいと。そういった組み合わせをつくるのが大きな狙いです。
─ 改めて菊地さんが考える外食の存在意義とは。
菊地 はい。コロナで私が考えたのは外食に存在意義があるかどうかということでした。コロナ禍で一時的に全てがオンラインになり、人々の行動が制約された社会になりました。
でも、やはり自由がいいと。家族や恋人と一緒に食事をするということは社会の潤滑油になります。私はここに外食の存在意義があるのではないかと思いました。
レストランとホスピタリティ─。この2つの言葉は我々が大事にしている言葉なのですが、レストランとは語源がフランス語で「レストレール」という「体を回復させる」という意味となり、ホスピタリティは「ホスピス」というラテン語が語源で「介護する」「看護する」という意味です。つまり、いずれの言葉も「癒やす」「回復させる」という意味になります。
コロナは社会を分断し、人を分断し、いろいろなところで軋轢を生みました。しかし人間は社会的動物ですから信頼関係が必要です。コロナが明けたときには、必ず信頼関係を最高潮にする動きが出てくるはずです。そのときにレストランやホスピタリティというものの存在意義が脚光を浴びるはずです。
─ まさに存在意義ですね。
菊地 最近ではビジョンと言わず、パーパスと言うようになっていますね。これは持論になりますが、ビジョンとは1兆円の売り上げを実現するために1000店舗を目指し、規模を大きくしていく世界でした。
資本主義は、本来有限が前提なのですが、いつの頃からか資源、市場、環境は無限だということを前提にしてしまっていたのです。ここにきて資源も、環境も有限だと気付き、そうすると、ビジョンが空虚なものに感じられるようになり、有限の中で自分たちの存在意義は何なのかを問い始めた。それがパーパスになったと。ですから、表面の話ではなく、もっと深く本質を考えなければならなくなったのです。
東郷頭取から学んだこと
─ 菊地さんは日債銀時代、最後の頭取だった東郷重興さんの秘書を務めていましたね。東郷さんからは何を学びましたか。
菊地 経営者は逃げてはならないということです。私が東郷さんの秘書を務めていた1990年代後半の日本は金融危機の嵐が吹き荒れていた頃で、日債銀は特別公的管理に追い込まれていきました。この時代の空気はバブルの責任論真っ盛りで、金融機関に対してその責任追及を徹底しなければならないという空気が支配的でした。
そんなときに東郷さんが「読んでみたらいいよ」と言って私にくれたのが山本七平の著書『空気の研究』でした。そこにはまさしく日本人の気質が書かれていました。今回のコロナも含めて、空気というのは凄い支配力を持っていると感じます。それでも経営者は逃げてはならないと。それは東郷さん自身が自らの行動で示してくれました。
─ 東郷さんは一切弁明せず、事実に即して行動していましたね。さて、足元では原材料価格の高騰や人手不足が続き、値上げも避けられない情勢です。
菊地 ロイヤルグループの値上げという点で見れば、今のところスムーズにいっています。ただ、これだけあらゆるものの値段が上がっていますから、どうしても製品の値上げが先に始まり、所得は後になります。今は値上げをしても売り上げがついてくる状況が続いていますが、この状態が維持できるかどうかというと私は懐疑的です。
秋口くらいから若干弱まってくるのではないだろうかという問題意識を持っています。賃上げでは我々も平均6.5%の賃金改善を行いました。しかし、これが一過性だと意味がありません。持続的に上げることで初めて意味が出てきます。それを実現するためには、賃上げをしたことで生産性を上げ、更なる待遇改善につなげなければなりません。
その意味ではテクノロジーが鍵になります。AIなどデジタル技術を活用した第4次産業革命は、これまでの産業革命とは質が違うのではないでしょうか。第1次から第3次までは製造業がメリットを享受してきましたが、第4次ではサービス産業がメリットを享受できると思うのです。
そうすると、第1次から第3次は人を代替するものでしたが、第4次は人の能力を補完したり、拡張するようなものになると。人を入れ替えるのではなく、人の能力をよりエンハンス(向上)させ、拡張させ、強くさせるものだと。ですから今後、サービス産業はすごく面白くなるのではないかと思います。
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