みずほFG社長・木原正裕「2年目の課題」、社員との対話を続けて1年
財界オンライン / 2023年6月15日 7時0分
様々な課題を乗り越え、みずほフィナンシャルグループは、ようやく「攻め」の段階に入ってきた。木原正裕氏が社長に就任して1年余、自らの強さと課題について徹底議論をしてきた。そうして1年前倒しで策定した中期経営計画では、強みのある分野として資産運用、国内法人取引、海外での銀行と証券の一体化モデルと見定めた。木原氏の次の一手は─。
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中期経営計画を1年前倒しで策定
「この1年間、どうやってみずほを変えていくか、カルチャー、企業理念はどうあるべきかといったことを、社員と何度も議論してきた」─こう話すのは、みずほフィナンシャルグループ社長の木原正裕氏。
木原氏がみずほFGの社長に就任したのは2022年2月1日。21年2月28日にシステム障害が発生、それ以降複数の障害が発生したことなどを受けて、当時社長の坂井辰史氏らが退任した事態を受けてのことだった。
このシステム障害では、みずほFGの「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」という企業風土の改善も求められた。そこで木原氏や役員は社員と様々な対話を繰り返した。同時に社員有志による議論も行われてきた。
その結果、策定したのが新たな企業理念「ともに挑む。ともに実る。」。この10年間、当時社長の佐藤康博氏を中心につくった「ワンみずほ」を掲げてきたが、「ワンみずほは我々に深く刻み込まれたDNA。これを前提に一歩踏み出す」と木原氏。
23年5月18日には新たな中期経営計画を発表。みずほFGは19年度から5カ年の中計を進めてきたが、システム障害や足元の経営環境の大きな変化を受けて、1年前倒しで策定。
その中では25年度に連結業務純益で1兆円から1兆1000億円を目指すという目標を掲げた(23年3月期実績では8052億円、19年3月期は3933億円だった)。
目標達成に向けて具体的には、資産形成・運用ビジネスで500億円、国内法人ビジネスで700億円、グローバルCIB(Corporate and Investment Bank、銀行、証券の一体化)ビジネスで600億円を積み上げる見通し。
中計発表後、早速このうちのグローバルCIBビジネス強化の動きが明らかになった。米国でM&A(企業の合併・買収)の助言を手掛けるグリーンヒルを約760億円で買収することを決めたのだ。経営陣やブランドは存続させるが、米国みずほ証券と一体運営していく。海外での大型買収は15年以来。
グリーンヒルは1996年にモルガン・スタンレー出身で「投資銀行界のスター」と呼ばれた人物が創業。04年にはニューヨーク証券取引所に上場した。「ブティック型」の投資銀行で、08年には日本法人を設立、元三井住友銀行副頭取の堀田健介氏が会長を務めていた。
「チャンスのあるマーケットである北米で買収の機会を探ってきた。(相手に出資する形式を取る)三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループと違って、自分たちの中に取り込んで強くしていきたいという考えが強く、100%買収とした」(みずほFG関係者)
この買収は、みずほFGがようやく「攻め」のフェーズに移ることができたことを意味している。みずほFG前社長の坂井氏の時代、投資ではなくコスト改革を進め、資本の積み上げを進めてきたが、ここに来て、積み上げた資本を前向きに使うことができる環境が整った。
そして、もう1つ重要視されるのが前述の国内法人ビジネス。「みずほFGの原点は何かというと、大企業取引」と話すのは、みずほFGの役員経験者。旧日本興業銀行は多くの大企業のメインバンクであったし、旧富士銀行、旧第一勧業銀行は共に非財閥系の企業の支持を集める銀行だった。この元から持っていた強みを、改めて発揮することができるかが問われている。
ただ課題もある。それが「デジタル」。23年、LINEとの共同事業として進めてきた「LINEバンク」は、システム開発の遅れ等を理由に開業を断念。これに代わる新たなデジタルバンク構築に向けて、どんな手を打つかが問われている。「デジタルは他の2メガに比べて劣位にある。我々自身のチャネルのデジタル化を徹底的に進めていく」と木原氏は話す。
この分野では木原氏が話すような自前での取り組みに加えて、前述のように充実しつつある資本を使ったM&Aで、時間を買いに行く可能性もある。
もう1つはIT企業の証券会社との連携。22年11月には800億円を投じて、楽天証券の議決権比率19.99%を取得、持分法適用会社とした。
出資に関して、当時のみずほ内には慎重論もあったようだ。ネット証券ではすでにソフトバンクグループと「PayPay証券」を共同運営しており「楽天証券への資本参加は戦力の分散につながるだけ」などと疑問視する声があったため。ただ、ペイペイ証券は口座数約32万口座と、900万口座以上を有する楽天証券との差は大きい。両社と、グループのみずほ証券を上手に使い分けた証券戦略を取ることができるかが問われる。
今回の中計では、新たなパーパスも打ち出すなど「木原カラー」が出てきているが、まだグループの人事は大きくは動いておらず、その部分でのカラーはまだ出ていない。次の人事の時期に、どういった布陣にしていくかが、今から注目されている。
23年は、みずほFGの源流の1社である第一国立銀行が創立されて150年という節目の年。この年に木原氏は「もう1回、原点に立ち返ろう」と社内に訴えてきた。渋沢栄一や安田善次郎といった創業者達は、様々な資本家と共に日本の「殖産興業」に挑んできた。「それがみずほのDNAであり、再認識すべきこと」と木原氏。
システム障害から立ち直った今、他の2メガを追撃する反転攻勢に出ることができるかが問われている。
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