第一生命経済研究所・熊野英生氏の指摘「まだまだ物価上昇は続く」
財界オンライン / 2023年7月4日 15時0分
昨年の物価上昇率は、前年比3.0%まで上がった。2022暦年の消費者物価・総合指数の伸び率である。これに反応するかたちで、多くの企業で賃上げが進められている。もしも、23年も物価上昇が続くのならば、24年度の賃上げにも大きな圧力が加わることが予想される。
筆者の予想は、23年度の消費者物価の前年比が2.5%まで上がるというものだ。日銀の見通し(4月末時点で1.8%)よりも遥かに高い。やはり、物価上昇圧力は引き続き強いままだとみている。
いくつかの材料を挙げておこう。帝国データバンクが5月末に発表した食品の値上げ 品目数は6・7月と3500品目前後で推移する見通しだ。値上げの中心は食料品・外食が中心になりそうだ。
6月から電気代が多くの地域で上がる。すでに、政府の支援で1~9月にかけて平均2割近く引き下げられているが、6月の値上げはその約6割を解消させるものだ。燃料費は円安などの効果によって高騰し、電力会社のうち原発稼働をしていない先はもう値上げを我慢できなくなっている。筆者は、政府の支援が10月以降も続くという前提で計算しても、2.5%の物価上昇になるとみている。
このように、物価上昇が続く原因は、円安にある。食品もエネルギーも輸入依存度が高い。コロナ禍では海外のインフレで、内外価格差が広がった。そのギャップがずっと物価上昇圧力になり続ける。そこに、日本の低金利によって円安効果が加わっている。
円安効果は、22年10月に一時1ドル=150円台になったことで、対前年では9~11月にかけては輸入物価を押し下げる圧力になりそうだ。しかし、1ドル=140円前後でずっと推移すれば、12月以降は再び輸入物価を押し上げる方向に向かうだろう。
日銀の金融緩和が、内外の運用資金を円からドルへと向かわせる。そのため、ドル高円安が進む。黒田総裁から植田総裁へと交替したが、政策はほとんど変わっていない。円安によって、物価上昇を促そうという政策だ。
日銀の狙いは、物価をテコにしてさらに賃上げ率を高めようというものだ。物価が上がると、労働組合は生活水準を維持するために賃上げ率の引き上げを求める。賃金は一度引き上げられると下がりにくい傾向がある(賃金の下方硬直性という)。円安が円高に変わると、輸入物価はマイナスになるかもしれないが、そのときに賃上げがある程度進んでいれば生活水準は悪化しない。日銀は直接賃金を動かすことができないとしても、為替レートには強い影響を与えることができる。
23年度は春闘で歴史的に高い賃上げを実現できたが、まだそれが24年以降も継続できるかどうかが見極めにくい。植田総裁は、賃上げを持続的なものにするためには、金融緩和を続けて為替レートを円安水準に釘付けにするしかないと判断したのだろう。
「米国株は波乱相場、下落が続く。日本は30年続くデフレを脱却できるかが問われる」スガシタパートナーズ・菅下清廣
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