「夢なき者に成功なし」東レ新社長・大矢光雄氏の課題
財界オンライン / 2023年7月2日 7時0分
「組織横断」をキーワードに
「社員にはチャレンジして欲しい。そして、自分の全人格をぶつけて行動して欲しい」─こう社内に訴えるのは、東レ新社長の大矢光雄氏。2023年6月27日の株主総会を経て、正式に社長に就任する予定だ。
東レは先端材料へのこだわりと、技術の「極限追求」という伝統を持つ企業。近年は素材の領域にも新興国の進出が著しいが、日本企業はコスト競争では後れを取ってしまいがち。そこで東レは研究開発力、技術力に「極限追求」で磨きをかけ続けることで、製品の付加価値を高める戦略を取る。
これによって、すでに技術が開発され尽くされたと思われていた繊維の世界では革新的複合紡糸技術である「ナノデザイン」(繊維の細さや形をナノレベルで制御し、全く新しい繊維を創り出す)を開発。
ナノデザインにより、これまで実現できなかった細さの糸、異なる原料の組み合わせなどをナノレベルで制御できるようになった結果、カジュアルウェアなどにも新たな機能や風合いをもたせることを可能にした。
さらに樹脂の世界でもナノメートルオーダー(1メートルの10億分の1に相当する大きさ)で複数のポリマー(樹脂成分)などの高分子を混合(アロイ)する「ナノアロイ」を開発。
そんな技術にこだわりを持つ会社の新社長に就く大矢氏は入社後、一貫して繊維営業に携わるなど「繊維営業一筋」。
大矢氏に課せられた課題は収益力の改善。前の中期経営課題である「AP―G 2022」では、事業利益目標1800億円に対し、実績は1000億円と大きく未達になったからだ。
未達の要因として大矢氏は、原燃料価格の高騰分の価格転嫁ができなかったこと、設備投資の刈り取りの時期だったが、マーケットの変動を受けて数量を上げることができなかったことを挙げる。
この反転に向けて、大矢氏は「組織横断」をキーワードとして掲げる。技術面では「技術センター」が部門横断で横串をさしているのに対し、従来は営業側がその体制と連携できていなかったが、22年9月に「マーケティング部門」を新設。これによって、成長領域を組織横断で開拓し、市場やサプライチェーンの変動に素早く対応できる体制をグローバルで整えた。
大矢氏の座右の銘は吉田松陰の「夢なき者に成功なし」。この言葉の全体は「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし」となっている。
これらの言葉は「我々の経営に繋がる」と大矢氏。「夢」は企業理念、「理想」は「サステナビリティ・ビジョンの実現」、「計画」は「中期経営課題」。そして問われているのは「実行」。大矢氏は東レをどのように舵取りしていくのか─。
《アイリスオーヤマ》会長・大山健太郎の「変化はチャンス」論
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