危機の中で、日本の進路をどう取るか?【私の雑記帳】
財界オンライン / 2023年6月30日 15時0分
日本の存在感低下に…
日本の存在感が低下─。このことに危機感を募らせる経済人は少なくない。
「先日、トルコへ久しぶりに出かけて行って、取引先の経営者と話していてね。日本人の平均賃金は幾らぐらいか訊かれたので、年間4万ドル前後と答えたら、相手からびっくりされましたよ」とは某商社首脳。
大体、その国の働く人たちの年収を語る時、10万ドル(今の為替相場で約1400万円)が一応の目安。G7(先進7カ国)の一員を占め、〝先進国〟というイメージがある日本の現実の一端に触れ、トルコの経営者も日本の低迷ぶりを再認識させられたようだ。
「国は日本の進路をしっかり示してほしい」と国と企業の関係の再構築を訴える声もある。
「周囲の状況がどうであれ、われわれは生き抜かねばならないからね」とは流通関係者の覚悟の弁。
企業業績は前3月期(2023年3月期)を見ても、全上場企業の過半数が増益など、好業績をあげている。しかし、企業経営者に浮かれている様子はない。
純利益で1兆円をあげた総合商社でも、先行き不透明なグローバル環境の中、「心して行く」(某首脳)と気を引き締めている。
世界景気減速の前兆に
銅や亜鉛などの資源価格が今年の高値から2割、3割安く、石油価格も軟調。また、米国の金融状況は厳しく、『逆イールド』現象が起きているなど、世界の景気は〝減速〟の前兆が見られる。
米国に次いで世界第2位の経済国・中国も不動産分野での債務問題が経済全体の足を引っ張るという見方が強まる。
1978年、時の指導者、鄧小平氏が改革開放路線を掲げて以来、成長街道をひた走りに走ってきた中国も40数年を経て、大きな転換期、正念場を迎えている。
米中対立、泥沼化のウクライナ危機という中で、日本の進路をどう取るか─という選択である。
バフェット氏の日本投資
〝投資の神様〟といわれるウォーレン・バフェット氏が今年4月、日本を訪れ、大手商社トップと個別に会い、日本株買いに注力しているスタンスを示した。
こうしたこともあって、日本の株式市場も活気が出て、日経平均株価も30数年ぶりの3万1000円台突破となった(6月初め)。
米中両国、そして欧州経済は今、下降局面にある中で、「相対的に日本経済がいいということ」(某エコノミスト)。
W・バフェット氏が日本の商社株に投資してきたということは、商社界はもちろん、他の産業界も活気づく。〝失われた30年〟といわれる日本にとって、「日本経済再生の最後のチャンス」(某首脳)ということで臨んでいきたいものだ。
「油断があった」
「油断があった」─。日本の半導体産業の関係者はこう語る。
日本の半導体産業は1980年代、世界のシェアの半分を握るほど、その強さを発揮。米国は危機感を覚え、日米貿易交渉で〝日本潰し〟と言えるほど、日本の半導体に圧力をかけてきた。
自らの対日貿易赤字を減らすため、「米国製を買え」という圧力の下、日本は米国製の半導体をはじめ、各製品を買わされた。
当時、大手半導体メーカーの某首脳は、「質の悪い米国の半導体を買わされて、太平洋に捨ててしまいたいよ」と、愚痴とも嘆きともつかぬ反応を筆者に示した。
日本が強かったのは1980年代まで。1990年代になると、転落の坂を転げ落ちていく。これはバブル経済崩壊とも重なる。
日米貿易交渉で、日本は対米輸出だけで成長を追うなと圧力がかかり、『内需拡大』の方向に向かう。
そこで金融緩和が行われ、潤沢な資金が民間に流れ、それが株や不動産に向かった。
1989年末、株価は史上最高値(3万8915円)を付ける。しかし翌年、株価は下がり始め、その翌年頃から不動産市況も下降。いわゆるバブルがはじけて崩壊した。以来、〝失われた30年〟が今日まで続くという道のり。
〝失われた30年〟の総括
しかし、その中でも、しっかりと逞しく生き抜く企業人はいる。
東芝、日立製作所、NEC、三菱電機とかつては半導体で強さを発揮した会社も30年後の今、すっかり影を潜め、大半が撤退した。東芝が関係会社で生産を続けているが、東芝本体が再建中で、〝日本の半導体戦略〟を力強く語れる存在がいないのが現状。
「日本はメモリーなどの汎用品に注力した。それで世界シェアの半分を取ったといい気になっていた。どの国、どの企業が作ってもいい汎用品だから、市況のアップダウンも激しい。だから、うちは独自のもの、自分ならではのものに特化するようにしてきた」
半導体関連で今も好業績をあげる某首脳は脱メモリー戦略で生き抜いてきたと総括。
この30年で、お隣り韓国のサムスン電子や台湾のTSMCは世界的な存在に成長。一方、日本勢はすっかり影を潜めてしまった。
「日本に力がなかったわけではない。結局、トップの座に一時期就いて、それで油断してしまった。一番の大敵は油断ですよ」
日本の場合、半導体を手がける企業は〝総合電機〟だった。半導体市況の激しい変動も、〝総合性〟の中で見落とし、あるいは半導体が赤字でも総合力でカバーできるという甘さがあったのかもしれない。ともあれ、油断大敵である。
母との対話から
日本発の美と健康の専門職大学『ビューティ&ウェルネス専門職大学』が今年4月、横浜市で開学した。
設立者の下村朱美さんは1982年(昭和57年)、25歳の時、大阪で『シェイプアップハウス難波店』をオープン。その時から、「理論に基づいたサロン」を創りあげると考えてきた。
人材育成に熱心で、既に2008年に専門学校を開校、2020年には『ビューティ&ウェルネス研究所』を設立。
「人々の美しさと健康に寄り添うセラピストを育てたい」という下村さんの一貫した思い。
日本を代表する〝美と健康〟集団を創りあげた下村さんの踏ん張りはどこから生まれるのか?
下村さんは一人っ子で育った。母清子さんには随分可愛がられたが、「わたしが26歳の時に母は病気で亡くなりました」と下村さん。
病の激痛でつらそうな表情を見て、下村さんが言葉をかけると、「しっかり生きるよ。神様から授かった命だからね」という言葉が返ってきた。
間もなく、母清子さんは49歳の人生を閉じたが、最期まで、それこそ懸命に生きる姿が下村さんの目に焼き付いているという。
エステ店やサロンを経営しながら、人々の美と健康のために懸命に人材育成に下村さんが励むのも、母清子さんとの対話がその原点にあるのかもしれない。
バフェットの「日本買い」、次に注目される銘柄は何か?
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