大和総研・熊谷亮丸副理事長が提言 「岸田政権の少子化対策について」
財界オンライン / 2023年7月18日 11時30分
2023年6月、岸田政権は「こども未来戦略方針」を閣議決定した。
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岸田総理は、決定に当たり、①経済成長実現と少子化対策を「車の両輪」とした大きなパッケージとすること、②2030年代までがラストチャンスであることを踏まえた規模の確保、③スピード感の重視という、3つのポイントを重視したと発言している。また、同方針は、①若い世代の所得を増やす、②社会全体の構造・意識を変える、③全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援するという、3つの基本理念を掲げている。
今回の少子化対策の財源を巡っては、様々な意見がある。
岸田政権は、歳出改革等による財源確保や、経済社会の基盤強化を行う中で、企業を含め社会・経済の参加者全体が連帯し、公平な立場で広く負担していく新たな枠組み(「支援金制度(仮称)」)を構築することとし、詳細は年末に結論を出す方針である。
経済界では消費税を推す声が根強いが、筆者は、社会保険料も有用な財源になると考えている。子育て世帯以外の事業主や、子育て中以外の世帯にも広く薄くご負担いただいて、子育て世帯に集中的に還元すれば、子育て世帯は消費性向が高いので、これ自体が強力な消費活性化策になり得る。また、社会保険料は、負担が給付に一定程度、紐づいており、負担者の理解が得やすい面もあるだろう。
ここで大切なのは、お金の出し手からみて、納得のいくお金の使い道であることだ。
筆者は、予想される出生率の改善効果を、必要とされる財政支出額と比較して、いわば「ビー・バイ・シー」的な観点から、政策の優先順位付けを行うべきだと考えている。大和総研の試算では、「こども未来戦略方針」に盛り込まれた政策オプションの中では、両立支援や働き方改革などに関する施策が「費用対効果」が最も高く、逆に「費用対効果」が低いとみられる児童手当拡充の3倍弱から6倍程度に達すると推定される。
わが国の労働生産性を上昇させる成長戦略という観点からも、労働市場改革こそが「宝の山」である。当社の試算では、女性の非正規化を防ぎ「L字カーブ」を解消することができれば、向こう20年間で61兆円の経済効果がある。また、不本意非正規をゼロにすることができれば、同じく30兆円の経済効果が生じる。
少子化の主因ともいえる、若者の婚姻数の減少への断固たる政策対応を講じることが喫緊の課題だ。わが国では正規非正規の年収格差の固定化が、結婚・未婚の格差につながっている。この格差是正を最重要の政策課題と位置づけ、同一労働同一賃金ガイドラインの見直しや、非正規の待遇改善に関する取り組み状況を非財務情報の開示対象に加えることなどが肝要である。
筆者は、以上の様な観点を踏まえ、年末に向けて、少子化対策に関する議論が一段と深まることを大いに期待している。
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