AZ-COM丸和ホールディングス社長・和佐見勝に直撃! これからの物流の経営戦略をどう描くか?
財界オンライン / 2023年7月14日 11時30分
昨年10月1日付で発足した純粋持ち株会社のAZ―COM丸和ホールディングス。同社は2040年3月期売上高1兆円の目標を掲げる。約50年前にトラック1台で創業し、同社を東証プライム上場企業に成長させた社長の和佐見勝氏は「BCP物流で全国の自治体と提携していきたい」と力を込める。かつてはコストと見られていた物流が企業の成長を後押しし、市民の生命と財産を守る機能として生まれ変わろうとしている。
AZ-COM丸和ホールディングス社長・和佐見勝「3つの幸せを実現するため、4つの事業の柱で物流ビジネスを成長させていきたい!」
ドラッグストアを支える物流
─ 和佐見さんは第51期の経営スローガンに「氣宇壮大」を掲げ、中期経営計画の最終年度に当たる2025年3月期の売上高2400億円、経常利益175億円の達成を目指しています。主に4つの事業の核「EC(電子商取引)物流」「低温食品物流」「医薬・医療物流」「BCP(事業継続計画)物流事業」で成長を目指す考えですが、「医薬・医療物流」の方向性を聞かせてください。
和佐見 当社の基本スタンスは店頭起点のロジスティクスで、お客様のドラッグストアビジネスをサポートするものになります。当社はお客様の経営方針や戦略に沿った高品質なサービスを提供しながら、お客様のオペレーションコストを削減し、チェーンオペレーションをサポートしていきます。
お客様の販売機会ロスをゼロにすると共に在庫レスを提供し、在庫削減にも寄与する。更にお客様のエリア戦略を支援し、多様な販売チャネルの開拓をサポートすることで販売拡大に貢献できるようにしていきます。
─ インバウンドが活況を呈し、日本の医薬品の販売が好調に推移していますからね。
和佐見 ええ。そこで当社は全国の物流ネットワークの最適化や最先端技術を駆使した物流センターの再構築を進めているところです。顧客企業の物流効率化に貢献して顧客企業とのパートナーシップを更に強化していくことで、当社の事業拡大を図っていくという形です。
おっしゃる通り、今年4月以降、インバウンドが復活し、どんどん訪日外国人が押し寄せてきています。東京・銀座に行っても、昼間の外国人の多さに驚かされます。そんなインバウンドの効果を享受できる業態の1つがドラッグストアです。
当社は大手ドラッグストアの物流を担っているのですが、インバウンド効果が大きく現れる商品の1つが化粧品です。日本の化粧品は品質が良く安心できます。しかも、価格も手頃な価格になっているわけですからね。
目薬も評判の高い商品になります。高品質で低価格ということと、インバウンドのお客様には小さくて持ち運びが簡単ですから、お土産としてたくさん買っています。また、風邪薬や胃薬も評判になっています。
こういった追い風効果がある中で、商品の欠品で機会損失が起こらないように当社が物流の領域をカバーしていきます。ドラッグストアも新しい店舗を広げていく予定ですから、当社がしっかりカバーしていきます。
なぜBCPに着目したのか?
─ 今後の成長が期待される領域ですね。さて、4つの事業の核の最後になる「BCP物流事業」は物流業界でも珍しい取り組みだと思うのですが、その骨子を聞かせてください。
和佐見 もともと当社の事業の核は3つしかなかったのですが、昨今の社会的な環境の変化などを勘案し、新たに4つ目を設けたのがBCP物流事業になります。まだ本格的な事業になってはいませんが、この事業をどんどん伸ばしていこうと思っているところです。
BCP物流事業とは地震、豪雨、大雪などの災害が発生した際に自治体などへの物流面での支援を行うというものです。災害発生時に当社が復旧に必要な車両や人員を提供したり、医薬品や食品の輸送・仕分け・配給稼働を手掛けていきます。また、備蓄にも取り組み、各自治体へのメリットを構築します。
─ この事業は今後も増えていきそうですか。
和佐見 そう思います。実は日本総合研究所会長の寺島実郎さんからも相談をいただきました。寺島さんは医療・防災産業創生協議会の会長を務めておられ、全国各地にある「道の駅」に防災関係設備を置き、BCPの拠点にできないかということで当社に相談をいただきました。
そこで当社の20代の若手社員が出向き、当社のBCP物流事業のご説明と提案をさせていただいたのです。すると、寺島さんをはじめとした会員の方々からは「面白い取り組みですね」とご賛同をいただきました。
クールコンテナの有効活用
─ 実際にどのようなことを提案したのですか。
和佐見 当社のグループ会社に鉄道コンテナ輸送を手掛ける丸和通運という会社があるのですが、同社が所有するクールコンテナを実装し、クールコンテナを活用した新しい備蓄方法について提案しました。具体的には、クールコンテナを道の駅に置くだけで防災備蓄品を保管できます。クールコンテナが備蓄倉庫の代わりになるのです。
通常、防災備蓄品を保管するためには、それ専用の施設を作らなければならないのですが、当社のコンテナを活用すれば、それを設置するだけで済みます。さらにはコンテナが置かれた近隣で地震が起きたり、台風の襲来などの災害が起きて住民の方々に被害が生じた場合には、避難所にコンテナを運ぶことも可能になります。
─ 機動性が高いと。
和佐見 そうです。コンテナですから柔軟に対応することができます。しかも、当社のコンテナは電気を通電させれば冷蔵庫にもなる。通常、避難所には冷蔵機能を持った保管庫はありません。
しかし、冷蔵機能を持った当社のコンテナがあれば、食材や食品も長期間保管できます。夏場でも問題ありません。当社のコンテナはマイナス25度まで温度管理ができます。
─ 全体感のある寺島さんであれば、その有用性に反応したのではないですか。
和佐見 おっしゃる通りです。この提案を聞いた寺島さんからも「面白いですね」と言っていただきました。保管庫を作るにしてもお金がかかってしまいますが、当社の提案であればコンテナを置くだけですからね。しかも、当社がコンテナをレンタルするのですが、その日々の管理も当社が定期的に行います。
ですから、コンテナを管理するための人件費も抑えることができますし、いざ災害が起こってコンテナを運用しなければならない場面になっても、当社の社員であればBCPに関する知識とノウハウを持っていますから、有事のときでもしっかり対応することができます。
─ この取り組みは具体的に動き出しているのですか。
和佐見 ええ。6月2日から4日にかけて福島県にある道の駅「猪苗代」で、BCPの備蓄機能としてクールコンテナを活用する実装デモを行いました。
実は避難所の問題の1つに栄養問題が挙げられます。おにぎりやパンなど冷たくて硬い食事を配り続けるのではなく、そこでコンテナの備蓄品を使って温かい食事や汁物、栄養価の⾼い野菜などを調理できる環境があれば、食べやすさや食事による安らぎを提供できるわけです。
こういった実装デモを行うことで、仮に災害が起きた場合、避難所に集まった人の人数に応じて、いくつのコンテナが必要なのかが分かってきます。運用についても当社には全国に事業所がありますから、安心して任せていただけます。また、備蓄でも食品関係の場合、廃棄処分でなく、賞味期限前に市民の皆様に提供することで喜ばれ、処分コストも軽減できます。
─ 寺島さんは医療・防災産業創生協議会を通じて日本全国の自治体とのネットワークを作ろうとしていますよね。
和佐見 はい。道の駅は全国に約1200カ所ありますからね。今回の実装デモを通じて全国に提案していきたいと思います。
─ コンテナを使ったBCP物流を提案した若手社員とはどのような人物なのですか。
和佐見 もともと当社がBCPを考える中で、「事業化型の社会貢献」を追求していこうと考えていました。そこで私は「AZ─COM BCP諮問委員会」を作り、ここに防災研究の専門家の先生方にも加わっていただいたのです。その中で委員会の委員長に就いていただいたのが東北大学の丸谷浩明教授でした。
この丸谷教授の下で、当社の若手社員が2年間、東北大学の共同研究員として学び、BCPに関する専門的な知識についてご指導いただきました。そのうちの1人が提案したのです。また、東京大学の目黒公郎教授の研究室でも3人(3年間)が研究に取り組み、BCPの専門知識を身につけています。
仙台市にBCPギャラリー
─ 物流がBCPのあり方を変えるきっかけになります。
和佐見 そう思います。そこで当社は昨年4月6日、宮城県仙台市に平常時と非常時で機能が変わる「リバーシブルビル」をコンセプトとして開発された「仙台長町未来共創センター」を活用し、センター内に「AZ―COM BCPギャラリー」を作りました。
このギャラリーでは全国に向けて当社が推進するBCP物流の取り組みを情報発信しています。他にも備蓄に関する資料を展示したり、避難所のスペースを提供したりしています。
例えば、東日本大震災が発生した3月には、復興や防災について皆で考える機会を設けようということで、仙台市内外の施設で復興や防災の取り組みを発信する企画展「仙台/東北から考える『復興・防災』10DAYS(仙台市主催)」が開催されたのですが、このギャラリーでも様々な取り組みを行いました。
具体的には、災害時物流のパネル展示を行ったり、BCP物流の講演も行いました。また、備蓄物流倉庫の紹介も行うなど、のべ664人の仙台市民や企業の方々に参加いただきました。当社にとっても、こういった取り組みを通じて、このギャラリーが備蓄モデルセンターとして新規営業獲得にもつながりますし、関東圏の備蓄案件の分散備蓄拠点として東北エリアでの営業提案にもつながっています。
─ この施設は避難所としても使えるのですか。
和佐見 ええ。80人ほど収容できます。布団を敷いて寝るスペースも確保していますからね。ですから、仙台市にとっても当社にとってもウィンウィンの取り組みになるのです。
仙台市は費用負担はゼロですからね。市役所と連携を取りながら、もし市役所が市民に対して発信したいことがあれば、この施設を使っていただいています。
─ さて、物流業界では人手不足が大きな課題です。
和佐見 はい。当社は2040年3月期売上高1兆円という目標を目指し、積極的に人財の採用を行っています。お陰様で23年4月採用では新卒採用が325人、中途採用が586人と1000人規模の採用ができました。さらに今後5年間で新卒採用3000人、中途採用2000人の計5000人の採用を計画しています。ですから働く人に選ばれ続ける魅力ある企業づくりが必要です。
私はいま、社員には大きな人間を目指して欲しいと言っています。夢に挑む、夢への挑戦、もっと大きな夢を見ましょうと。夢は追求し続ければ必ず実現できます。だからこそ私は創業50年を経ての第51期のスローガンを「氣宇壮大」にしました。
あえて「気」でなく「氣」にしたのは、氣はエネルギーを指すからです。気を吐き出すと、新しい気が入ってくる。つまり、人に気を与えれば次から次へと新しい気が入ってくるわけです。私はAZ―COM丸和グループをそういう場にしたいと思っています。(了)
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