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経団連・十倉雅和会長に直撃!「少子化は『静かなる有事』。 対策の財源は保険料だけでなく税も含めた検討を」

財界オンライン / 2023年8月10日 18時0分

十倉雅和・日本経済団体連合会会長

「ブラック・エレファント(黒い象)」─大問題になることがわかっているのに、なかなか手を付けられないことを指すが、日本においては「少子化問題」がその一つだ。「男性も女性も望めば子供が持てるような社会づくりが大事」と経団連会長の十倉雅和氏。「成長と分配の好循環」を果たすためには、社会保障、経済政策、労働政策、といった各政策の連関が欠かせない。転換期における経済人の使命と役割とは何か─。

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「トリクルダウン」では分配の問題を解決できない

 ─ 2023年5月31日から、会長任期の2期目に入りましたね。就任当初から「行き過ぎた資本主義」の是正に問題意識を持たれていました。抱負から聞かせて下さい。

 十倉 引き続き、経団連が掲げている「サステイナブルな資本主義」の実践に取り組みたいと考えています。

 近年、「行き過ぎた資本主義」が招いたものとして、地球温暖化を受けた生態系の崩壊と、格差の固定化・拡大・再生産、この2つが大きな課題となっています。

 こうした問題意識から、我々経団連は1期目に、温暖化対策について議論を深め、提言「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」をとりまとめました。23年5月に、いわゆる「GX推進法」が成立しましたが、この法律には経団連提言のかなりの部分を取り入れていただきました。我々なりに貢献できたという自負はあります。

 ─ 1期目の成果の1つですね。格差の拡大は、日本の少子化にもつながる問題ですね。

 十倉 2期目はこの問題に焦点を当てたいと考えています。格差は少子化をもたらしますし、広がるとポピュリズム(大衆迎合主義)に走りがちになり、民主主義の危機にもつながります。

 格差の問題は岸田文雄首相がおっしゃっている「分配政策」にも関わります。我々経団連も経済成長と構造的な賃上げの実現を通じ「成長と分配の好循環」に取り組むことに注力したいと考えています。

 一部のメディアで、経団連が「分配」という言葉を中心に据えたのは30年ぶりだと指摘されていましたが、「成長」と「分配」はセットで議論しなければいけないと思います。「トリクルダウン」(富が富裕層から低所得層に徐々に滴り落ちる)政策では、格差の問題は解決できないと思っています。

 こうした考えから、経団連では、「分厚い中間層」の形成に向けた検討会議で議論を重ね、4月に報告書を出しました。「分厚い中間層」は経済成長の1つのKPI(重要業績評価指標)ですが、かつては「1億総中流」とも呼ばれ、かなり厚く形成されていた時代がありました。いまは世帯所得が全体として下方にシフトしていて、若年世代の平均所得は、年収300万円台になっています。問題の解決には、経済成長、マクロ的な経済環境を、まずはよくしなければいけないと思っています。

 ─ 若年世代には将来不安も根強いですが。

 十倉 ええ。多くの若者は日本の将来に漠とした不安を抱えています。それを払拭するため「全世代型社会保障改革」にも取り組まなくてはなりません。これは給付と負担のあり方と財源の議論にもつながります。

 人口減少が続き、労働力不足が深刻化していることも大きな問題です。これには女性の活躍がまだまだ十分でないこともあります。男女問わず、望めば子どもを持てるような働き方の実現、社会づくりが必要です。また、日本の産業構造はこれから大きく変わろうとしていますが、これには円滑な労働移動が不可欠です。リスキリングや、キャリア形成支援を行い、国民一人ひとりが人生を通して自分の能力を伸ばしながら活躍し続けていけるよう、政府も企業も役割を果たしていくことが重要です。

 マクロ経済政策、社会保障・税制、労働政策は三位一体で、全て連動しているんです。全体感をもって一体的に取り組むことにより、「分厚い中間層」の形成の実現を期したいと思っています。実行段階にあるGXにも引き続き一生懸命取り組んでいきたいと考えています。

 ─ 少子化対策には政府も取り組んでいます。

 十倉 少子化問題は「静かなる有事」と呼ばれています。よく言われる「ブラック・エレファント」ですね。大問題になることは、はっきりわかっているのに、なかなか手を付けられないということです。

 若年層が結婚して子供を持ちたくてもそれができない理由は、私は3つあると思っています。

 1つ目は所得、経済的基盤が十分ではないからです。先程申し上げたように、世帯所得の平均が500万円台から300万円台に落ちてしまっている。

 2つ目は将来に漠とした不安を抱えていること。日本は少子高齢化で、自分達の年金はどうなるんだろうと思えば、やはり消費せずに貯蓄に回ってしまう。

 3つ目は男性、女性とも子育てができるような労働環境を整える働き方改革です。私は政府の「こども未来戦略会議」でも、この3点を主張してきました。

 ─ 実際には少子化対策では「児童手当」が中心の議論になっていますね。また財源をどうするかという問題があります。

 十倉 今は手当中心の議論かもしれませんが、「次元の異なる」少子化政策に取り組もうと思ったら、財源を社会保険料だけでまかなうのは難しい。時間はかかると思いますが、税も含めた社会保障制度の一体改革を議論・検討しなければならないと提起しています。

 ─ 日本再生に向け、政府と民間の関係をどうあるべきだと。

 十倉 市場万能主義が生態系の崩壊や格差拡大を招いたと見ています。市場の失敗は正さなければなりませんが、一方で資本主義は公正・公平な条件での競争の下でイノベーションを生む源泉でもあります。やはり自由主義経済と資本主義の相性はいい。課題を解決しながら不断にイノベーションが進む社会にしていく必要があると思っています。

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