クラウドワークス社長兼CEO・吉田浩一郎が語る「個のための雇用インフラを充実させていきたい」
財界オンライン / 2023年8月25日 18時0分
「働き方が多様化している」─。終身雇用がなくなり、リスキリングで自分を高めながら、個人として仕事をしたい人の需要が高まっている。その架け橋となるプラットフォームを運営するのがクラウドワークスだ。社長兼CEOの吉田浩一郎氏は「今の時代の転職は0か100かではなくなった」と語る。個人が複数のコミュニティに所属して仕事をすることで、人手不足解消の光も見えてくるかもしれない。
東日本大震災以降、急速に働き方が変わる
─ クラウドワークスはフリーランスや副業をする個人と受注先をつなぐプラットフォームを運営していますが、人手不足という社会課題解決を含め、個人の働き方の変化とともに年々社会での需要が高まっていますね。
吉田 2011年の創業時は、勤め先の企業以外で個人が働くというのは、まだまだメジャーではない時代でした。産業界では終身雇用が当たり前であって、会社から飛び出た場合に個人というのは非常に弱い存在でした。
そんな中で起きたのが同年の東日本大震災です。あの時に東京都内も電気・ガスが止まって交通機関がマヒし、生活に支障が出ました。都心に勤務していた人たちは郊外の自宅に帰るまで半日かかる、あるいは数日帰れず家族がどうなっているかも分からない人が大勢出ました。
私はあの年を機に、個人の働き方も少し変わってきたと思っています。いざという時に家族のそばにいられないなんて意味がないのではないかと。
同時に、東北をはじめとして自分の生まれ故郷に貢献をしたいという思いが多くの人の間で湧き起こり、地方創生の熱量が高まってきたと思っています。
─ そういう大災害で混乱しているときの起業でしたね。
吉田 ええ。その年にクラウドワークスを創業して12年が経ちます。そして、株式を上場したのが2014年ですが、その頃、資本市場で個人が働くというものが社会的に認識されたのではないかと思います。
ことさら上場してからは、企業からの受注が格段に増えました。上場企業として、いろいろな企業にお伺いすることができるようになり、大企業からの発注も増えてきたのがその時期ですね。
─ 発注してきたのは、どのような企業でしたか。
吉田 その3年間で言うと、ソニー(現ソニーグループ)が発注をしたことがニュースとなりましたし、経済産業省のパンフレットを作るお仕事を神戸の在宅のデザイナーさんが1回も訪問することなく納品したということも話題になりました。
地域の行政でも当初有名になったのは岐阜県です。同県は当時、大学を卒業すると名古屋の企業で働くのが当たり前になっていました。岐阜にいるまま仕事ができるようにするという命題が湧き起こっていたのです。
そこで、大垣市にあるIAMAS(情報科学芸術大学院大学)を拠点にし、我々は教育の提供と仕事が受注できるための仕組みづくりを手掛けました。
また、被災地復興では南相馬市との連携で、我々の教育コンテンツの提供と雇用の創出を行いました。そういった行政や経済産業省とのつながりが増え、トヨタ自動車やホンダ、パナソニック(当時)からも発注が来始めました。それが一つの転機で、その次が17年の日本政府による副業の解禁です。
そして、18年からみずほ銀行をはじめとしたメガバンクや航空業界が副業解禁へと動き出したことも大きな転機になりましたね。そんな中で起こったのが、コロナ禍です。
時代に合わせミッションを変更
─ それが、働き方が大きく変わるきっかけになったということですね。
吉田 そうですね。コロナによってリモートワークが一気に広がり、大企業の中でもリモートは当たり前になってきました。特に副業が大企業に浸透してきたのは、22年4月のパナソニックの週3休・週4勤務の正社員制度を始めるというアナウンスがあった頃からです。
当社の大企業の中の正社員の副業登録が毎月5000名から1万名のペースで伸びたのです。創業当初は個人のフリーランスや在宅ワーカーが活用するサービスというイメージでした。しかし、今は大企業の中の正社員が副業機会を得てフリーランスになる、あるいは起業する、ベンチャーに行くという前段としての副業へと変化してきています。
─ 海外でも働けますね。
吉田 そうですね。実際に、日本の企業の仕事をロンドンにいる女性がコンサルタントとして受注をして、それを日本にいるプロジェクトチームに発注をしてコンサルティングをやっている、という話もあります。
─ クラウドワークスのグローバル化が進んでいると。
吉田 ええ。逆に日本企業の仕事に対して、ベトナム人が自分は日本語ができるということで売り込んでくるという事例もあったりします。
─ それは面白いですね。
吉田 今では全登録者数は558.8万人になり、クライアントが全体で90.5万社。流通取引総額がまもなく200億円、売上高100億円、営業利益総額10億円と一定のステージに来ました。
─ 「個のためのインフラになる」というミッションを掲げていますが、その思いとは?
吉田 実は去年の10月にミッションを変更しました。創業から11年間は「〝働く〟を通して人々に笑顔を」がミッションでした。それが変わった背景としては、働くという枠組みにとどまらなくなってきたと感じたからです。
新入社員に「何でうちに入ったの?」と聞いたら「私はTikTokで20万フォロワーを持っていて、漫画の紹介をしながら生活していました。この仕事を続けていける会社を探していたのですが、それがクラウドワークスでした」と。
つまり、もうどっちが副業かも分からないのですよ(笑)。もしかしたらTikTokの方が稼いでいるかもしれない。ただTikTokだと撮影から編集までずっと個人で仕事するため、人と仕事がしたいそうです。
普通の会社だと、そうした副業は絶対に許してくれないのでクラウドワークスに来ましたと言っていました。そうしたら、隣の人も「僕もです」と(笑)。
彼はサッカーのコーチを生涯の仕事として決めています。しかし普通の会社に入ったら、それはボランティアでやってくれと言われてしまう。「私はコーチを続けるための会社を探していたらクラウドワークスがありました」と言っていました。
─ 副業の概念が変わっていますね。
吉田 はい。去年の12月からサントリーホールディングス社長の新浪剛史さんに弊社の社外取締役に就いていただいているのですが、この副業の形を新浪さんは「大人のインターンシップ」と表現しました。
今の時代の転職は0か100かではなくて、副業してお互いの相性を決める、いい相性が生まれたら転職をする。「大人のインターンシップが始まったな」と新浪さんにおっしゃっていただいたんです。
新浪さんが経済財政諮問会議で、人材の流動化、リスキリングの推進に向けて、岸田文雄首相と共に動いていらっしゃいます。まさにその話と日本企業の経営課題が一緒なので、そこに対して我々はあらゆるものを提供できます。
江戸時代の「働き方」に回帰しつつある
─ 「人への投資」など労働市場改革は新しい資本主義の中核だと言っているわけですね。
吉田 そうです。今後、リスキリングの推進によって、個人がいろいろなところで働きやすくなっていくと考えています。
そもそも労働の歴史を振り返ると、今の働き方になったのは明治維新からになります。国と企業と個人が一つのつながりで働くというモデルを導入してきたのですが、その前の江戸時代はいま始まっているコミュニティの雰囲気に似ていたんです。
当たり前に家業があって、地域に所属するコミュニティとして火消しや消防団があって、趣味のグループがある。1人がいろいろなコミュニティに所属するというのは割と当たり前だったのです。ですから、皆が分散して存在していたのです。
そして明治維新以降、家業を廃し、企業の中に所属する形にして国力増強、富国強兵ということで進めてきました。
ところが今は再び江戸時代のように、個人が家族の範囲でコミュニティに属したり、自分の趣味で何かを始めたり、個人で働く場所があるというようなコミュニティのあり方が当たり前になってきているのではないでしょうか。
─ 企業として今後の役割をどう考えていますか。
吉田 過去十数年の中で、障害者の就業支援や被災地復興、地方創生、1人親就業支援、養護施設などに関わる様々な団体からご連絡をいただいてきました。当社のミッションである「個のためのインフラになる」のインフラというのは、こういった多方面からの要望にも対応できることだと思っているんです。
例えば水道や電気は誰でも使えますし、バスには誰でも乗れます。それがインフラの姿だと思っていますので、我々もそんな存在を目指そうと思っています。その中で、民間企業として解決できないこともあります。
そこで私は個人で一般社団法人「災害時緊急支援プラットフォーム(PEAD)」を立ち上げました。有事の際、機動的に災害に対する支援を行う組織で、創業起業家の個人が約70人、ボランティア約200人を組成して取り組んでいます。
働くことに対する若い人の意識の変化
─ 吉田さんが社会貢献活動に一生懸命取り組むようになったきっかけは何ですか。
吉田 一つは南相馬市の復興です。最初は喜んでもらえると思っていたのですが、どこの行政にも政治があり、喜んでくれる人たちと、そうでないところがありました。我々はそれまでビジネスしか知らなかったので、あまり喜んでいない人が多いことにショックを受けました。
社会は複雑で、結局、政治・行政に関わっていかないと、最終的に働き方を含めて世界は良くなっていかないのだと痛感しました。ただ、その時に役に立ったのが上場企業の名刺です。
行政からすると、ボランティアであれば誰でも信用できるわけではありません。ボランティアに関して事件や事故が起きても責任が取れないのです。しかし、会社の名刺を持って「上場会社の社長です」と言うと、信用が置けるということで歓迎していただけるのです。
災害支援の現場でも社会的信用が役に立つということが分かりました。その後は平時からボランティアを育成し、信頼できるボランティアを送るための包括協定を自治体と結んでいます。
─ 今の若者の間にはボランティア精神が強まっていますか。
吉田 ええ。当社はテクノロジー企業で営業とエンジニアが半々になります。リアルな対面で集まるイベントもあるのですが、リモートワークも推奨していますので、なかなかエンジニアは出社しないんです。あまり強制もできませんしね。
でも災害支援のイベントには普段顔を見ていなかったエンジニアが現れて、「わたしはボランティアに興味あります」と言い出して出社してくる。こういうところでは対面で会社に来るんだと思って面白かったです。
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