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【政界】日本再生に向けた重要課題解決に求められる岸田首相の覚悟

財界オンライン / 2023年8月9日 11時30分

イラスト・山田紳

首相の岸田文雄が先の通常国会での衆院解散を見送った途端に「9月解散」論が浮上し始めた。2023年後半の最大の焦点となる。ただ、岸田政権の看板政策である「次元の異なる少子化対策」と「防衛力の抜本的強化」を実現させるための財源の議論が本格化する時期とも重なる。国民の負担増に直結しやすい財源論は岸田の体力をじわじわと奪っていく。解散戦略とあいまって難しい判断を迫られる局面が続きそうだ。

【政界】日本再生に向けて少子化対策と防衛力強化の財源確保をどうするか?

1枚のカレンダー

 通常国会の閉幕からほどなくして、永田町に1枚のペーパーが出回った。題名はなく、今年8月から24年1月までのカレンダーが記されていた。

 8月下旬の欄に《8~9月 党役員人事・内閣改造》と記されており、9月下旬には《9月末召集・臨時国会冒頭》とある。冒頭とは衆院解散のタイミングにほかならない。

 そして、衆院選の日程として「10月10日公示―22日投開」「10月17日公示―29日投開」という2つのパターンが書かれていた。そのほかにも、衆院解散の時期として、24年1月に通常国会が召集された直後の「1月解散」と24年度予算が成立した後の「3月解散」、そして次期通常国会の会期末にあたる「6月解散」の3つが点線に囲まれて付記されている。

 岸田が今年6月の衆院解散を見送ったことから、次の解散時期が一気に注目を集めている。解散の前提といえる内閣改造・自民党役員人事のタイミングも焦点だ。

「解散カレンダー」にあるように自民党内では8~9月に内閣改造を行い、人心刷新による「ご祝儀相場」が冷めないうちの「9月解散」説が有力視されている。

 しかし、不安材料がないわけではない。岸田内閣の支持率は6月に入って下落傾向に再突入している。

 毎日新聞(6月17~18日実施)の世論調査で、内閣支持率は33%と前回5月の調査から12ポイント下落し、不支持率は58%(前月比12ポイント増)となった。さらに読売新聞(23~25日実施)では、支持率が41%となり、前月比で15ポイントも急落した。政権内に衝撃が走った。

 その他の報道機関の6月調査をみても、NHK43%(前月比3ポイント減)▽朝日新聞42%(同4ポイント減)▽日経新聞39%(同8ポイント減)▽産経新聞46.1%(同4・3ポイント減)─と軒並み下落している。多くの調査で不支持率が支持率を上回っている。

 5月は新型コロナウイルスの感染症法上の「5類」引き下げや、ウクライナのゼレンスキー大統領が電撃参加した先進7カ国首脳会談(G7広島サミット)の成功などで上昇に転じていたことから、支持率急落で岸田政権内に大きな衝撃が走った。


政権の目玉政策も…

 官房長官の松野博一は記者会見で「一喜一憂はしないが、国民の声を真摯に受け止め政府の対応に生かしていく」と平静を装った。原因は明らかだった。

 マイナンバーカードを巡り、公金受取口座が他人名義の口座に紐付けされていたり、マイナ保険証で他人の医療情報が表示されたりするトラブルが続出したことと、首相秘書官を務めていた岸田の長男、翔太郎による首相公邸での不適切な行動などだ。

 岸田は得意とする外交で政権浮揚を進めてきたが、あっさり帳消しになった格好だ。ある与党幹部は「6月21日に閉会した通常国会の会期末に衆院解散・総選挙に突き進んでいたら自民党は厳しい戦いを強いられていた」とつぶやいた。

 しかも、岸田政権が最重要課題に位置付ける「次元の異なる少子化対策」も世論調査では不評だ。

 政府は6月13日、所得制限なしで高校卒業まで支給する児童手当の拡充などを柱にした「こども未来戦略方針」を発表した。岸田は「少子化は我が国の社会経済全体に関わる問題で、先送りのできない待ったなしの課題だ。2030年までがラストチャンス。不退転の決意を持って経済成長と少子化対策を車の両輪とし、スピード感を持って実行していく」と訴えた。

 それでも国民は冷ややかな視線を送る。1人の女性が生涯に産む子供の推計人数を示す合計特殊出生率は05年に史上最低の1..26を記録した。07年に少子化対策担当相が新設され、以来、歴代20人以上の閣僚が様々な対策に取り組んできた。

 人口維持のためには2.07~2.08が必要とされるが、22年は過去最低と並ぶ1.26を記録した。どんな政策を打ち出しても、多くの国民は抜本的な解決策になるとは受け止めていないのが現状といえる。



先送りのツケ

 再び内閣支持率を上昇に転じさせることができるかどうかは、岸田の解散戦略に直結する。ただ、なかなか容易ではない。

 相次ぐマイナンバーカードのトラブルを受け、岸田はデータの総点検を秋までに行うよう関係閣僚に指示。その後、8月末としていた中間報告の時期を前倒して、8月上旬にまとめるように改めて指示した。あわせて国民の不安を取り除くための再発防止対策もまとめるよう求めた。

 ただ、岸田が「新型コロナ対応並みの臨戦態勢」で取り組むという総点検の作業で、新たなトラブル、不具合が発覚することは避けられない。政府は来年秋に今の健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一体化する方針を崩しておらず、「全ての問題を洗い出してきちんとした対策をうてなければ大きなダメージになる」(与党関係者)といった懸念が広がる。

 少子化対策を巡っては、こども未来戦略方針を実現させるため24年度から毎年3兆円台半ばの予算を確保することを打ち出したものの、その財源の議論は年末まで先送りしている。安定的な財源を確保した上で、実効性のある対策を確実に進めることが必要であるにもかかわらずだ。

 もっとも、岸田は「歳出改革などを通じて財源を確保する。歳出改革の内容は毎年の予算編成を通じて具体化していく。実質的に追加負担を生じさせないことを目指す方針は揺るぎない」と強調する。医療と介護の給付抑制や高齢化に伴う保険料抑制、歳出改革といった財源論を年末に向けて加速させる構えだ。

 さらに、もう1つの看板政策である防衛力の抜本的強化を巡っても、財源が固まっておらず、財源議論が焦点となる。

 政府は5年間の防衛費を43兆円規模にすることを決めており、先の通常国会では税金以外の収入を積み立てて複数年度かけて防衛費に当てる仕組みを整備した。税外収入などで足りない分は、法人税や所得税、たばこ税の増税で賄うことになる。

 これまで政府は防衛費に関する増税時期について「2024年度以降の適切な時期」としてきた。ところが、今年6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では「2025年以降のしかるべき時期とすることも可能となるよう柔軟に判断する」と明記し、事実上の後ろ倒しを示唆した。それでも増税の是非について年内に判断することになる。

 岸田は、マイナンバーカードに関する国民の不安払拭に加え、少子化対策と防衛力強化に伴う国民への負担増の判断という重いテーマを抱え込んだ。

 しかも、9月末に電力・ガス料金支援策「激変緩和対策事業」が終わり、電気料金などは再び値上がりすることが懸念される。

 政府は事業継続を検討しているものの、当面は食品などの値上げが続きそうだ。負担増が家計を直撃すれば、その不満はそのまま岸田に跳ね返ることになる。

「岸田政権は先送りできない課題に1つひとつ結果を出していくことを使命としている。『信なくば立たず』。その言葉を胸に今年下半期の政権運営にも全力であたっていく」。岸田は記者会見などで、そう訴える。


負担増の秋

 様々な課題の先行きが見通せない中にあっても、今年6月に「解散風」が吹き荒れたときのように「伝家の宝刀」と呼ばれる解散権をちらつかせて野党を牽制しつつ、与党を引き締めることはもはや難しい。

 立憲民主党や日本維新の会などの野党勢力に選挙態勢を整える時間を与えてしまっただけでなく、国民負担の議論という〝口撃〟材料を与えてしまったからだ。与党議員に国民世論の厳しい批判を避けたいという心理が強く働けば、岸田の求心力は一気に低下しかねない。

 岸田が「6月解散」を見送った際、政権幹部は「衆院を解散する大義がない」「衆院議員の任期4年がまだ折り返していない」などと口にした。では、秋になれば大義ができるのか。衆院議員の任期は今年10月に折り返し点を迎えるが、それまでの約3カ月間で重要政策の結果が出せるのだろうか。

 疑問符が付きまとうだけに、すでに「9月解散」に慎重意見が出始めている。「党内基盤の弱い岸田首相には、防衛力強化と少子化対策の財源論をさらに先送りするか、衆院解散を先送りするかの二者択一しかない」(自民党中堅)のだという。

 自民党ベテラン議員も「(LGBTなど性的少数者への理解増進を目指した)LGBT理解増進法を強引に押し進めたことで、岩盤保守層が自民党から離れた。今秋にやったら確実に議席を減らすだろう」と語る。

 永田町に流布された「解散カレンダー」は単なる観測気球か、それとも政権内で練られている解散シナリオなのか。

 岸田は「今年の夏は政権発足の原点、政治家・岸田の原点に立ち返って全国津々浦々におじゃまし、改めて皆さまの声をうかがう」と宣言した。最近は全く聞かれなくなった「聞く力」を取り戻したいようだ。

 いずれにせよ、岸田が国民の信頼を得るためには、たとえ選挙で多くの議席を失うことになろうとも、日本の将来に必要な重要課題から逃げずに立ち向かい、乗り越えようとする覚悟が必要だ。それが国民に伝わらない限り、今夏以降に「伝家の宝刀」を抜くタイミングはないだろう。

 ただ、政局ばかりに固執していては真の日本再生は実現できない。与野党も含めた政治家が自らの覚悟を示す時に来ている。

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