【倉本 聰:富良野風話】一枚の葉
財界オンライン / 2023年8月13日 11時30分
連日連夜の猛暑である。
【倉本 聰:富良野風話】洪水の季節
猛暑、酷暑、激暑、烈暑。マスコミはこの猛烈な暑さを表現するのに連日御苦労なさっておいでのようだ。その割に、この過熱の原因を表現なさるのに、未だに地球温暖化。温暖という生ぬるい言葉を使っている。温暖とは気温がほどよくあたたかで、過ごしやすい気候であること、と辞書をひもとけばすぐに出てくる。今の地球はどう考えても温暖という言葉は当てはまらない。
今を去ること20年。小池百合子女史が環境大臣だった頃、あるイベントの壇上で僕は小池女史に直接進言したことがある。場所は河口湖ステラシアター。温暖化という言葉は誤解を招く。高温化という言葉を用いるべきだと。「聞いておきましょう」と女史は高飛車に仰言った。しかし実際はお聞きになっていなかったらしい。未だに世の中では温暖化である。今のこの連日の高温の、どこがほどよくあたたかで過ごしやすいと言えるのか。日本の長であられる方は、むずかしい英語ばかり使われる以前に日本語をしっかり勉強し直して欲しい。
日本列島の高温化は今や遠慮会釈もなく、ぐいぐいと記録を更新し、遂にとっくに人間の体温を超えてしまった。新記録大好きな日本人は、それでも汗だくになりながら、この新記録更新をどこかで無意識に愉しんでいるかに見える。熱中症対策のためであれば夜間もクーラーを使うべしという論を医者もマスコミも堂々と唱える。そして、この高温の原因が奈辺にあるかを考えなくなる。
本日の富良野の気温はプラス30度。この気温にも馴れてしまった。だが。まことに諸氏には申し訳ないが、我が家の気温は本日23度である。この夏25度に達したことがない。
今年、90歳を目前にして周囲のすすめで初めて家にクーラーを設置した。だがまだ一度も使っていない。除湿を一、二度使ったのみである。何故か。家が緑にスッポリ囲まれているからである。四十数年住み続けるうちに、周囲の森がぐんぐん育ち、時には木の葉がアンテナを妨害してテレビが見えにくくなることはあるが、気温の昇降からは確実に守ってくれる。夏は街より6、7度涼しく、冬はその分暖かい。決して嘘でも大袈裟でもない。木の葉が地面に溜めてくれる水が、気温の昇降から守ってくれるのである。森の恩恵の中で僕は生きている。
僕は今、隣接する閉鎖されたゴルフコースの半分34㌶を、森に還す仕事に従事しているが、それは森から木材を採るためではない。木の葉を増やして光合成を盛んにし、水を地中に蓄えるためである。酸素と水のために森を育てている。古来、人類は森を見る時、木材ばかりに目を向けてきた。幹を見て葉を見ることを怠ってきた。その過ちのツケが今この地球の異常の源の一つになっている。
暑さにぐったりと殺されかけている夜、一枚の葉っぱに想いを馳せてみないか。
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