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【ヤマト運輸】IoT電球を使って自治体とも連携する「見守りサービス」

財界オンライン / 2023年8月21日 11時30分

IoT電球の取り付けまでヤマト運輸のスタッフが行う

荷物を運ぶビジネスから高齢者の見守りサービスへ─。宅配便最大手のヤマト運輸が創業から100年にわたって培ってきた経営資源を新たな領域で展開し始めている。視野に入れるのは年々増加する独居高齢者の孤立化を防ぎ、従来であれば自治体が担うような社会課題の解決だ。最先端のIoT技術と宅急便ネットワークを組み合わせた新たな収益の柱づくりに動き出している。

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ヤマトのスタッフが代理訪問

「ヤマトグループには全国に3300の集配拠点など、これまで培ってきた物流ネットワークがある。荷物を運ぶだけでなく、もっと踏み込んでプラスアルファの付加価値を付けたサービスとして展開していきたい」─。ヤマトホールディングス社長の長尾裕氏は1976年のサービス開始から約半世紀が経つ「宅急便」ネットワークの新たな活用策について語る。

 地方の戸建て住宅に住む一人暮らしの高齢者。あるときヤマトのスタッフが訪問してきた。「お変わりないですか?」。ヤマトのスタッフを見て、その高齢者は「元気でいますよ。ありがとう」と返答した。実はヤマトのスタッフが訪問してきたのには理由がある。

 その日の前日、午前9時から24時間、その高齢者宅にあるトイレの電球のオン・オフがなかったからだ。身を案じたその高齢者の家族から、遠方に住む自分の代わりにヤマトへ代理訪問の依頼が届き、ヤマトのスタッフが安否を確認しに来たのだ。

 日本では約700万人の独居高齢者が存在すると言われ、その数は年々増している。地域コミュニティの希薄化も進み、社会との接点が減る高齢者が増えたことで、高齢者の孤立化が大きな社会問題になっているのだ。ここで課題解決に乗り出したのがヤマト。同社は2021年から「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」を展開する。

 このサービスは通信機能を搭載したIoT電球「ハローライト」を独居高齢者が住む自宅のトイレや廊下などに設置することで、その電球のオン・オフが24時間確認できるようになるものだ。トイレや廊下など1日に1回は使うであろう場所の電球が1日中、オン・オフしなかった場合には、あらかじめ登録されている通知先にメールで知らせることができる。

 そして、メールを受け取った通知先の家族などが訪問や電話で安否を確認できれば問題ないが、もし連絡がとれなかったり、遠くに住んでいて訪問が難しかったりした場合には、ヤマトに依頼すれば、設置先を管轄している営業所にいるヤマトのスタッフが代理で訪問し、安否を確認する。

 同サービスを開発した地域共創部地域共創グループ価値共創チームアシスタントマネージャーの川野智之氏は「電球を交換するだけで導入できるシンプルさ、設置から代理訪問までヤマトのスタッフが対応する安心感、そして経済的な負担も少ない。当社の経営資源を有効活用できるからこそ実現できた」と話す。

 このサービスの特長の1つは料金だ。初期費用・追加費用は無料で、月額利用料は1078円(税込み)。しかも、通信ができるSIMが埋め込まれた電球を交換するだけなので、Wi―Fiなどの通信機器やネットワーク工事なども不要。「自宅内を工事する必要がなく、カメラやセンサー型の見守りツールと比較しても導入しやすい」(同)。

 この見守りサービスを企画していた19年当時、見守りのデバイスとしてカメラやセンサーなどが数多く市販されていた。また、それらを用いた見守りサービスの市場も生まれつつあった。しかし、川野氏は「継続したサービス提供には、誰がデバイスを取り付けるのか、アラートが鳴ったときに誰が見にいくのかという課題をクリアする必要がある」と話す。

 その点、ヤマトは全国3300の拠点を既に持っており、日々、宅急便の配送で配達先の自宅まで訪問している。「既存の拠点やネットワークを活用し、ヤマトとして何かできないかと考えた」(同)。そんなときに川野氏がハローライトと巡り合い、サービス化へと進んでいったという経緯。

 警備会社の提供するサービスと違い、ヤマトのできることは限られるが、電球を替えるだけで気軽に利用できるので申し込みも増えている。



生活関連支援の拠点が発端

 もともとヤマトは16年から家事・買い物のサポートといった生活関連支援を行う「ネコサポステーション」を展開。その活動の中で、川野氏は高齢者の孤独死や自治体、民生委員の職員不足などから来る地域の見守り体制の弱体化といった社会課題が浮き彫りになっていたことに直面し、宅急便のネットワークや培ってきた地域住民との信頼関係といった経営資源を活用した見守りサービスを着想した。

 現時点での申込数は9500件超。40代から60代の子供が親のために申し込むケースが目立つという。このサービスで体調が悪くなった高齢者を見つけた事例もある。さらに24市区町村から見守りサービスの業務委託も受けている。「異変をいち早く見つける」(同)ことが孤独死防止の第一歩になる。

 また、川野氏の想定を超えるニーズも出てきた。不動産業界の賃貸物件のオーナーや管理会社からのニーズだ。一人暮らしの高齢者に物件を貸すときにヤマトの見守りサービスを申し込んでもらうことで、異変をいち早く見つけることができる。

 もちろん、このサービスがヤマトグループ全体を支える事業に育つまでには、それ相応の時間はかかる。高齢社会の到来に直面する中、自社の経営資源を有効に活用しながら社会課題を解決し、収益も上げていく─。物流企業であるヤマトの新たな試みと言えるだろう。

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