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明治安田生命社長・永島英器の『生保の使命』論 「デジタルを活用しながら最後は『人』」

財界オンライン / 2023年8月3日 15時0分

永島英器・明治安田生命保険社長

「我々は特に対面にはこだわっていて、デジタルは手段として活用するが、最後は『人間力』の勝負」と話すのは明治安田生命保険社長の永島英器氏。コロナ禍の3年余でデジタル化は進んだが、同時に「人」の価値を見直す契機にもなったと永島氏。若年層をターゲットにした貯蓄型商品も、自社不動産を活用した「ヴィレッジ構想」も、全ては「人」とのつながりをいかに築くかという観点。永島氏が目指すものとは─。

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機関投資家としてのスタンスは?

「世界的に資本主義の見直しが起きている。これまでは『How』、どのようにお金を稼ぐかが問われていたものが『Who』、つまりパーパス(存在意義)が問われるような時代に大きく転換している」と話すのは、明治安田生命保険社長の永島英器氏。

 日本では今、東京証券取引所が上場企業に対して改めて、「資本コストを意識した経営」を求めており、その具体策としてPBR(株価純資産倍率)の改善が必要とされている。東証プライム市場上場企業の約半数がPBR1倍割れ、つまり解散価値を下回っているという現状を打開するための方策。

 東証としては、短期的な株価の上下ではなく、中長期的な企業価値の向上を目指しての取り組みだが、この状況を受けて足元では自社株買いなどを行う企業も増えている。

 ただ、こうした企業の資金について永島氏は「本来は設備投資や新たな価値創造、イノベーション、将来の日本社会の利益に沿うように動かすべきお金」ではないかと指摘。

 その上で「相互会社ならではの中長期的な目線で、将来の企業価値、あるいは社会的価値の創造のために企業が行動しているのかを見極めて、機関投資家として行動したいと考えている」と機関投資家としてのスタンスを語る。

 米国で「株主資本主義」からの揺り戻しがあり、日本社会と親和性の高い「ステークホルダー資本主義」的動きが始まる一方、日本では働き方を「メンバーシップ型」から欧米的な「ジョブ型」にしていこうという動きが強まるなど、流れは一方向ではない。

 永島氏は就任以来、会社の方向性として「メンバーシップ型」が基本だと明確に打ち出している。専門職など一部の職種ではジョブ型の要素を取り入れるが、「メンバーシップ型を標榜している。日本型社会のありようや価値観が、持続可能な社会という中でとても価値があるし、世界的にも取り組みが見直され、評価される時がくると思っている」(永島氏)

 欧米型、日本型、あるいはそのハイブリッドなど、資本主義のあり方の正解はわからないが、その正解を導き出すべく、様々な立場から知恵を出していく必要がある。


日本の金利動向をどう見ているか

 欧米、特に米国では急速に進んだインフレを受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)は一気に金利引き上げを進めた。その副作用でシリコンバレーバンク(SVB)を始めとした中堅銀行が破綻するなど、まだ先行き不透明感は拭えない。

 一方、日本では日本銀行総裁に植田和男氏が就任以降、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)やマイナス金利といった、前総裁の黒田東彦氏時代に導入された政策の見直しを期待する声が強いが、6月の会合までは不動の姿勢。7月の決定会合ではついにYCCの修正に動いた。

 欧米の金利はもちろんのこと、円金利の動向は、生命保険会社の資産運用にも大きく影響するが、今後をどう見ているのか。

 永島氏は「少し前までは、急激な円金利の引き上げを想定しながら社内でプロジェクトを組んでいたが、日銀新総裁のスタンスが予想以上に慎重なスタンスであり、時期としては後ずさりしているのだろうと思う」としながら「やはり金利の正常化は必ず起こるし、あとは時期の問題。金融緩和には功罪がある」と話す。

 金利が付く状態が正常だという認識。日本では長きにわたって低金利環境が続き、明治安田の貯蓄性商品もドル建てが中心となってきた。

 これが今後、どこかの段階で円金利が正常化すれば、円建ての年金などの貯蓄性商品を顧客に勧められる環境となる。

 同時に、これまでドル建て商品を販売する中で感じたことがある。それは「多くのお客様が日本の将来に不安を持っており、自分の金融資産としてドル建てを持っていないことに不安を感じているという方が増えていると実感した」ということ。

 日本の個人金融資産は約2000兆円、そのうち現金・預金は約1100兆円で、まだ「貯蓄から投資へ」が進んでいないことは、よく知られている。

 それに加えて、投資や貯蓄性の保険を購入している人は永島氏の言葉にあるように、自らの資産を金利が付くドル建てにしていこうという考えが強い。

「我々の商品としては、円建て商品が復活したとしても、ドル建て商品は主力であり続けると思うし、2000兆円の個人金融資産が徐々にドルに流れていく傾向にあることや、人口減少なども考えると、一時的に円高になることはあっても、長期的に見たら円安基調が強い環境になると思う」

 こうした環境下、岸田政権は「資産所得倍増プラン」を打ち出した。足元で株価は一進一退だが、将来不安などもあって、これまで以上に資産形成への関心は高まっている。

 明治安田も、資産形成の受け皿となることが期待されているが、永島氏は特に若年層に目線を向ける。「若い人が若い時から資産形成に関心を持つというのは大事なことだと思う。それに沿った商品を提供したい。一生懸命注力したいテーマ」

 近年、明治安田が販売している貯蓄型商品で売れているのが16年から販売を開始した「じぶんの積立」。同社が若年層などをターゲットに開発した「かんたん保険シリーズ ライト!」のうちの1つ。

 積立期間は5年、保険期間は10年で、月々5000円から積立ができ、仮に途中で解約することになっても100%以上の解約返戻金がもらえる。このわかりやすさが若年層に受けた。

 さらに今、既存の商品開発・契約管理システムから切り離し、パブリッククラウド上に新たな基幹システム「セカンドライン」を新設。このシステムによって手続きの電子化、ペーパーレス化が可能になり、顧客の利便性が向上するとともに、明治安田としてはコスト削減、CO2削減につながる。

 このシステムは商品開発の上では「第2製造ライン」となる。「システムをクラウド型にしてコストを削減することにより、低廉な手数料にするというコンセプト」と永島氏。

 この第2製造ラインで開発した商品は「ecoシリーズ」と名付けた。第1弾として23年4月に「外貨建・エブリバディプラス(運用重視タイプ)」という銀行窓販商品の発売を開始。

 既存システムより柔軟な開発が可能になるため、より機動性を高めた商品開発が進む可能性がある。「これからいろんなバリエーションの商品を出していきたいと思っている」と永島氏。

 24年からの「新NISA」を控え、証券会社、銀行、他の生命保険会社も、若年層を含む資産形成ニーズを捉えようと躍起。明治安田は第2製造ラインで、顧客の資産形成ニーズを的確に捉えた商品を、素早く世に送り出すことができるかが問われる。


各地のビルを再開発
不動産に「社会的価値」を

 明治安田は19年に10年間で約3500億円を不動産に投資する計画を公表するなど、低金利下における長期・安定収益確保と地域貢献という2つの軸で不動産に注力してきた。

 同社の運用資産約40兆円からすると不動産は約2%程度と中核の資産ではないが、前述のように長期・安定的な形で賃料収入が得られること、長期で見ればインフレによる資産価値の目減りを回避できるというメリットを見ている。

 また、明治安田が推進している「2『大』プロジェクト」の1つである「地元の元気プロジェクト」で目指している地域活性化においても不動産の役割は大きい。

 25年竣工予定の「明治安田生命新宿ビル」などは、官民が連携して進めている西新宿再開発において重要な位置を占めるプロジェクトになっている。

 明治安田は新宿の他、名古屋、福岡、広島、金沢に保有するビルの再開発も進めているが、この各地に保有するビルを活用したプロジェクトが23年6月からスタートした。それが「明治安田ヴィレッジ構想」。

 東京・丸の内の本社ビルを始めとした全国各地の主要ビルを活用して、地元の人々と、明治安田のブランド資産とをつなぐ空間として展開していく構想。

 丸の内では22年10月に「静嘉堂文庫美術館」が移転しており、多くの来館者で賑わう他、「明治安田ホール」を活用してお笑いや落語のイベントなど、様々なイベントを展開して人が集まる場所にしていく。

 さらに23年6月にはサッカー・Jリーグの本社が文京区から移転。明治安田は15年からJ1、J2、J3の冠スポンサーを務めているが、本社移転によりさらに双方のコミュニケーションや情報交換の機会が増えることから、これまで以上に連携した取り組みを進めていく方針。

 7月8日から23日には、丸の内仲通り、丸の内本社ビルが一体となったイベントをJリーグと共同で開催した。

 この「ヴィレッジ構想」について永島氏は「企業のありよう、パーパス、社会契約をご理解、共感いただくため、個々の営業職員がお客様の前で『明治安田フィロソフィー』を体現できることはもちろん大切だが、それとともにブランドを創出することも大切。Jリーグとのご縁も10年目に入るが、そもそも社名露出のためだけでなく、『100年構想』のような地域貢献に向けたありように共感したから、ここまで続いている。そうした当社のありようをヴィレッジ発で広めていきたい」と話す。

 明治安田のビルには丸の内の他、再開発中の新宿、福岡、名古屋などにもホールがあった。各地のホールとも地元の人々に親しまれてきたが、「ビルを建て替える際に、経済的な効率性だけを考えたら、ホールを取り壊してテナント誘致をした方が利益は上がるが、あえてホールを残して、そこでいろいろなイベントを開催することで、地域の絆が広がる一つの場所、ヴィレッジとして、地元の方々に愛していただけるのではないか」としてホールを設置する。

 不動産は経済的価値という面だけを見ても、超長期の契約となる生命保険事業との相性がよく、前述のように運用資産としても合理的だと見る。そこに人々の「居場所」や「集う場所」という「社会的価値」も加えていきたいというのが、この「ヴィレッジ構想」の考え方。


コロナ禍などで世の中が変化する中…

 この3年余のコロナ禍では、一時人々がリアルで会うことが難しくなった。特に対面営業を基本としてきた生保各社は苦戦を強いられ、それは明治安田も例外ではなかった。

 一方で、デジタル化は大きく進展。明治安田では契約者が病院からもらったレシートを撮影して電子手続きで保険金が請求できたり、営業職員がオンラインで説明し、契約を進めるといった環境は整った。

 一方で、「コロナ禍で不自由な生活を強いられて、今思うことは、対面というのは本当にいいということ。対面でしか得られない共感や絆は良さだと思う。我々は特に対面にはこだわっていて、デジタルは手段として活用するが、最後は『人間力』の勝負だと社内で話している。我々の原点を再確認した3年間だった」と永島氏。

「みなし入院」を中心に、コロナに関連して昨年は約600億円を支払ったが、契約者からは「保険のありがたみがわかった」といった声や、同社の営業職員への感謝の声などもあり「トータルではプラスだったと思う」と前向きに捉える。

 同社が営業職員を「MYリンクコーディネーター」、つまり絆を紡ぐ人という名称にしたのも、デジタルだけでなく対面を重要な要素としているため。

「これからもコロナや自然災害など、どんなことがあるかはわからないが『確かな安心をいつまでも』という我々が果たす使命がとても大きいと再確認した」(永島氏)

 永島氏はコロナ禍や、ロシア・ウクライナ戦争に直面して感じたことがあるという。

「効率的ではあるが非人間的な社会か、多少非効率性はあっても人間的な社会を残すのかという、大きな岐路に立っているような気がしている。私は人間的な社会を次世代に残したいと思うし、明治安田生命は人間尊重の絆・共感を紡ぐことができる社会を残すために、一生懸命汗をかきたいと思う」

 デジタル化やAI(人工知能)の進化など、世の中の速度は上がっているが、明治安田はその進化についていきながらも、より人間的なつながりを求める消費者の選択肢でもあり続ける姿勢を明確にしている。それを選ぶかどうかは、まさに消費者次第だと言える。

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