クレディセゾン・林野宏会長に直撃!「ゆるやかな『絆』で結ばれた経済圏をつくり、ライバルとの競争に打ち勝つ」
財界オンライン / 2023年8月9日 7時0分
「今は『経済圏』同士の競争になっている」─クレディセゾン会長CEOの林野宏氏はこう話す。楽天グループ、さらには三井住友フィナンシャルグループなどが、それぞれの経済圏を強化する中、クレディセゾンも「ゆるやかな絆で結ばれた経済圏」の構築で対抗する考え。目指す「総合生活サービスグループ」に向け、スルガ銀行に出資するなど金融機能も強化。林野氏が次に打つ手は─。
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会社において大事なのは「自由」であること
─ 今、クレディセゾンは「総合生活サービスグループ」と自社を位置づけて改革を続けていますが、今は社会全体が変化の時を迎えていますね。
林野 ええ。最近も考えていたのですが、「人生100年時代」と言われるように、かつてとは「年齢」という概念が全く変わっています。年金の支給年齢も上がっている。つまり、働けるうちは働くことが大事だということです。
その意味で、年齢という概念でいろいろなことを決めるというルールは必要なくなっています。それぞれの人によって、その人がどういう生き方をしたいかによって全部違ってきます。
─ 日本でも、人材の流動化が少しずつ進んでいますね。
林野 そうですね。1つの会社に入って、我慢しながら働いて、退職金をもらって、それで住宅ローンを払い終えて仕事人生を終える。「石の上にも3年」という言葉がありますが、これまでの多くの会社員は「石の下で定年」というような人生だった。年功序列ですから、我慢しないと課長になれませんし、部長になるのは定年間際。今は、その価値観は大きく変わったと。
─ 林野さん自身、クレディセゾンでは女性の活躍を含め、様々な提案をしてきましたね。その時の思いは?
林野 やはり「自由」でありたいということです。自分の好きなように、自分の価値観に則って生きること。私は会社においても自由が一番大事だと考えています。ですから、会社の風土づくりの10カ条でも、1番目に「言論の自由を保障します」と置いているのです。
例えば、日本の会社では宴会をやっても、一番上の人だけが喋って、他の人は聞いているだけということが多いですが、こういうものはつまらないと思うんです。自分の近くにいる人と、それぞれ次元の違う話をすればいいと。
かつてであれば東京大学法学部を出たら官僚になっていましたが、すぐ辞めるという人も増えましたし、そもそも公務員を目指さない。銀行も、入れば老後が安泰だと思っていたものが、そうではなくなっている。
─ そうした中でクレディセゾンはどういう会社でありたいと考えていますか。
林野 クレディセゾンは、絶えず職場が明るくて楽しいという会社でありたいと思っています。そして手掛けている仕事が、常に他社が考えている範囲を超えていることが理想です。
例えば、我々のグローバルビジネスのやり方は、当社の監査役も驚くくらいです。インドにある子会社「Kisetsu Saison Finance」は2019年から事業を開始しましたが、最初は女性社員1人の赴任から始まりました。それが設立約4年で約600人の陣容に成長しています。しかも、合弁会社ではなく約100%出資です。
その女性社員の考え方が面白くて、日本に一時帰国している時に話をしたら「インドに帰りたい」と言うんです(笑)。今は、シンガポールに異動し、インドでは別の社員が頑張っていますが、こうした前向きな精神を持つ人達の意向に添えるような会社であり続けたいと思います。
スルガ銀行とのシナジー発揮を!
─ 23年5月にスルガ銀行の発行済み株式の15.12%を171億円で取得し、持ち分法適用会社にしましたね。この狙いを聞かせて下さい。
林野 大きくは「総合生活サービスグループ」として、銀行機能が必要だと考えたからです。
細かく言えば、これまで我々のファイナンス事業は貸金業法の縛りの中にあり、調達金利もどうしても高い状況でした。それに対し、銀行は低利です。
今後、スルガ銀行が、クレディセゾンの会員向けのネット専用支店「セゾン支店」(仮称)を設立すると同時に、我々が銀行代理業を取得し、両社で共同開発した支店独自の商品・サービスを提供していきます。
他にも、スルガ銀行の富裕層や中小事業主のお客様向けに「セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス・カード」の提供を開始しますし、スルガ銀行が当社の保証がついた住宅ローンを新たに販売することで、スルガ銀行の住宅ローン事業と当社の信用保証事業の双方を拡大していきたいと考えています。
また、不動産ファイナンスには両社ともに強みを持っていますから、そのノウハウやインフラを融合し、市場でのプレゼンス向上を図っていきます。
─ 今回の資本業務提携では、スルガ銀行がクレディセゾン株の4.44%、約155億円分を取得していますね。この狙いはどこにありますか。
林野 まず、当社が15.12%を取得し役員を派遣したのは持ち分法適用会社とするためです。また、スルガ銀行に当社の株を持ってもらったのは、お互いにギブ&テイクで、イコールパートナーだという発想からです。
─ 静岡東部、東京、神奈川が商圏の銀行ですが、スルガ銀行の良さをどう見ていますか。
林野 そもそもは、同じ県内に静岡銀行という存在がおり、正面から競争しても勝ち目がないと考えて、神奈川の方に商圏を広げていった。そして法人ではなく、個人にターゲットを絞ったこともユニークですね。スルガ銀行の融資は個人が9割、法人は1割という構成です。
─ 他の銀行とは違う、独自の生き方をしていると。
林野 そうです。スルガ銀行はリテール銀行ですから、ノンバンクとの相性が良いのではと考えています。
振り返れば、グループ内で銀行を持とうという議論は、これまで何度もありました。ただ、下手に子会社に銀行を持ってしまうと、その規制が事業の足枷になるのではないかという懸念があり、実現しませんでした。
その後、2008年から新たな基幹システム構築に着手しましたが、当初2012年に完成する予定が、最終的には18年までかかってしまった。我々が動けないうちに楽天グループがカードで成長を進めたわけです。この失敗は今後、取り返していきたいと思っています。
セゾン投信の方針は今後も変わらない
─ 子会社のセゾン投信ではトップ交代を決断しましたね。今、国の「資産所得倍増プラン」もあり、資産形成に対する関心が高まっているタイミングでもあります。
林野 我々が手掛けているクレジットカードは消費のためのツールです。特にセゾンカードは女性達の支持を獲得して成長をしてきました。
そのセゾンカード会員のために06年につくったのがセゾン投信でした。セゾン投信で積み立てをしておけば、将来の資産になると。
06年に会社を設立、07年4月から事業を開始しましたが、バンガード社株式の運用成績も非常にいい投資信託を、手数料ゼロで販売するという、日本で初めての取り組みでした。
─ 手数料は当時、社内でも議論になったでしょうね。
林野 そうですね。ですが、当時から毎月積み立てをしていた人の資産はかなり増えています。長期間かけて投資することの重要性を証明できたのです。
─ 今後、セゾン投信はどのような方針で事業を展開していく考えですか。
林野 まず従来の投資方針は変えません。セミナーなどを通じての直接販売の継続とともに、セゾン投信の理念に共感していただいた提携金融機関での販売は継続していきます。
それに加えて、クレディセゾンとの連携でカード会員への販売を拡大するとともに、新たにセゾン投信の理念に共感していただける金融機関との提携を拡大します。
さらに現在、セゾン投信ではお客様の利便性拡大のためのシステム投資を行っていますが、こうしたお客様のためになる投資は継続していく考えです。
今後、これまでよりも販売チャネルは拡大していきますが、これまでのセゾン投信の方針やスタンスは変わりありません。
─ 楽天グループなどライバルとの競争には、今後どのように臨みますか。
林野 今は「経済圏」同士の競争になっています。楽天経済圏があり、ソフトバンクもPayPayを軸とした経済圏を築こうとしていますし、三井住友フィナンシャルグループも、カードに加えてTポイントとの提携による経済圏を築いている。
それと競争して勝つことができる経済圏というのは、資本の関係にはこだわらないけれども、ゆるやかな絆で結ばれ、「ギブ&テイク」が成り立つ関係です。そして、その顧客の相互交流が成り立つ仕組みの方が強いのではないかと考えているんです。
─ 楽天や三井住友FGとは違う枠組みを築いていくのだということですね。
林野 そうです。そして、こうした経営政策を考えていくことが、まさに今の私の仕事だと思っています。そして、今我々が考えているゆるやかな絆で結ばれた経済圏をつくることができれば、少なくとも楽天経済圏には対抗できるだろうと。一方で三井住友FGは強敵になると見ています。銀行が持つネットワークはやはり強い。
─ 経済圏競争では、他にない持ち味を持つ必要があると。
林野 ええ。相手がやっていないことをやらないといけません。我々の場合にはデジタルトランスフォーメーション(DX)とグローバルが強みです。これをさらに伸ばしていきます。
─ 改めて、林野さんが堤清二さんから教わって印象に残っていることは?
林野 最近思い出すのは「教育ほど難しいものはない」という言葉です。堤さんは社員教育に情熱を傾けたけど、成果を出すのは本当に難しいと言っていました。確かにあらゆる機会を設けて、自ら教育を手掛けていましたから、教育が一番大事だと考えていたのだと思います。
─ 人の流動性が高まる今ですが、企業へのロイヤリティ(帰属意識)をどう考えますか。
林野 私は何とか社員に報いたいと考えて全社員を対象に「ファントム・ストック」(株価連動報酬制度)に取り組んでいます。
ファントム・ストックとは架空の株式を従業員へ付与する制度です。実際の株式とは異なりますが、株式と同じく、取得時との差益が得られたり、配当金を現金で受け取ることも可能です。売買はできません。
当社では単体の経常利益に対して、本決算での実績値が上回った場合に、その超過額の一定割合を「決算賞与」として、3分の2を現金、3分の1をファントム・ストックで支給します。23年3月期は1人当たり約53万円の支給となりました。
役職も年齢も関係なく平等に支給しているのが、当社らしいのかなと。こうした取り組みで、みんなに「来年また頑張るぞ」と思ってもらえたらと思っています。
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