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『人』を大事にする経営かどうかで、企業の評価は決まる【私の雑記帳】

財界オンライン / 2023年8月20日 11時30分

時代の転換期、「人」を大事にできるかが問われる

オリエンタルランドの経営

『経営は人なり』と言うが、時代の転換期にあって、『人』を大事にする経営かどうかで、企業の評価は決まると思う。

 今、コロナ禍が一段落し、日本は首都圏をはじめ各地で、インバウンド(訪日観光)の外国人で賑わいを見せている。

 東京ディズニーランド、東京ディズニーシーのテーマパークを持つオリエンタルランド社もそうだ。

 同社はコロナ禍で外出を自粛する人が増え、大きな打撃を受けた。コロナ禍初年度にあたる2021年3月期は入園者が激減し、営業赤字に転落。苦しい日々が続いた。

 以後、徐々に業績を回復し、今年は、国内はもとより、インバウンド客も増えて賑わいを見せている。

 23年3月期の入園者数は2200万人を超える見込み。アトラクション、催し物の楽しさもさることながら、同社独自の入園者に夢を与える〝おもてなし〟が好評を呼ぶ。

 コロナ禍で人と人のつながりが弱まり、また生き方・働き方を模索する日々の中で、何か安らぎや癒しを求める人々の受け皿に同社がなっているのではないかと思う。


加賀見俊夫さんの経営観

 オリエンタルランド社で働く人は約3万人。テーマパークで人々に夢を持ってもらうことを使命とすることから、同社は社員のことを『キャスト』と呼ぶ(このうち正社員は2割)。

 コロナ禍で赤字に転落した時も、同社は人員を削減しなかった。

「人は、一番大切ですからね。人件費というのは、当社では必要経費(必要コスト)として見ていますからね。だから、コロナの時もずっと継続できました」

 1960年(昭和35年)の会社設立から同社に携わってきた代表取締役・取締役会議長の加賀見俊夫さん(1936年=昭和11年生まれ)は、「人を大事にする経営」に徹していきたいと語る。

「やはり生活がありますからね。(雇用を)切られると、他の企業に勤めてしまうわけですね。経営がよくなったから、戻って来てと言っても、なかなか戻ってこられませんからね」とキャストの気持ちも推しはかる加賀見さん。


人と人のつながり

 東京ディズニーランドが開園したのは1983年(昭和58年)で40年前のこと。日本経済は2度の石油危機を経て、いわゆる鉄鋼、化学、電機などの〝重厚長大〟産業中心から、ソフト・サービス産業が勃興し始めようとする時期。

 時代の転換期ではあったが、何と言っても、同社を一大発展させたのは関係者の『夢』であった。「ええ、夢の実現のためにどうするか。これが、わたしたちに与えられたテーマでした」と加賀見さん。

 同社の草創期から、文字通り艱難辛苦を共にしたのは元社長の髙橋政知さん(1913―2000)と加賀見さんのお2人。親子ほどの年の違う2人はコンビを組んで、東京湾浦安海岸(千葉県)の埋め立てから、国や県との交渉、そして埋め立て造成が終わって、「ディズニーランドを日本につくる」という事業化に奔走。

 同社の親会社は京成電鉄で、三井不動産と二大株主として同社の経営に関わった。

 しかし、京成電鉄は途中、経営不振になり、オリエンタルランド経営に関心が薄くなった。

 会社存続が危ぶまれる時は、親分肌の髙橋氏が家屋敷を担保に資金を工面。渋谷・松濤の自宅は担保流れで手放すことになってしまった。また、名画家・コレッジョ(イタリア)の宗教画も担保流れになったという逸話が残っている。

「髙橋さんは、お父さんが戦前、台湾総督を務めた人で、旧制山形高校、東京帝大法科の出身で、実に豪放磊落な人でしたね。夢があるし、強引な所もお父さんの血を引いているんですよ」

 加賀見さんは、「髙橋さんはボスで、僕のすごい恩人。恩人というか、もう一心同体という感じで仕事を一緒にさせてもらいました」と述懐する。

 人と人のつながりが事業を育て、大きく発展させる。難局から逃げない人と人の共闘である。


マルハニチロの「サカナクロス」

 環境激変の中、水産資源をいかに確保していくか─。

 わが国で水産最大手のマルハニチロは23年3月期に売上高1兆0205億円(前期比17.7%増)と初の1兆円台に乗せ、経常利益も335億円(同21.4%増)と最高益を記録。しかし、同社社長・池見賢さんは「水産物を取り巻く環境は厳しくなっており、課題をしっかりこなしていきたい」と気を引き締める。

 世界の水産物の1人当たり消費量(年間)は1970年代に10キロだったのが、今は20キロに増加。

「世界の人口が77億人から10年後は90億人に増える中で、水産物の確保は至上課題です」と池見さん。

 天然の水産資源は実に不安定。イワシやサバの姿が全く見えないと漁業関係者は顔を曇らせる。

 同社は三菱商事と提携して、富山県入善町でサーモンの〝陸上養殖〟を始めている。サーモンは冷たい水を好む。そこで富山湾の水深300メートルから海洋深層水を汲み上げて養殖するという試み。

「魚にはEPAやDHAなど高い栄養価があります。魚の価値を上げるため、他の資源と合わせて付加価値品をつくる『サカナクロス』の事業も始めていきます」と池見さん。

 サステナブルな水産事業へ、関係者の努力が続く。


『心田を耕す』

『心田を耕す』─。弊社(財界研究所)から北尾吉孝さん(SBIホールディングス社長)が出しておられる著書のタイトル。

 新生銀行(現SBI新生銀行)の再生、地方銀行との資本提携など、地方創生に関わる北尾さん。

「ええ、地方創生のプロジェクトを始める前に、二宮尊徳翁の本を読み返していて、いい言葉だなと思って。もともとお釈迦さんが言っていた言葉らしいんですね」

 経営では意見と意見がぶつかり合って、ソリューションが練られていく。かつて、仕事を共にした孫正義氏とも大議論を交わしたが、「今でも食事を共にしていますし、デジタル情報革命の同志だと思っています」と北尾さん。

 ともかく、事業を担うのはやはり「人」である。伸びている人(部下)はどんな人か? という質問に、「やはり何事においても、努力する人。それを考え方として、ペシミスティックに、悲観的になる人は駄目ですね」

 北尾さんが続ける。

「失敗しても、これは天が失敗させてくれたんだと。ありがたいと。森信三先生から得た、最善観という哲学ですね。我が身に降りかかる一切の事は、絶対必然であると共に、絶対最善であると。これは僕の中にいつも残る言葉です。だから、一切の事をくよくよしないと」

 Be positive(ビー・ポジティブ)─。常に前向きという北尾さんである。

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