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FRONTEO社長・守本正宏「医薬品の製品化に至る確率は2万~3万分の1。これをテクノロジーの力で解決したい」

財界オンライン / 2023年8月24日 18時0分

守本正宏・FRONTEO社長

本当に幸運な20年間

 ─ 2003年の創業から今年で20年の節目を迎えたわけですが、今はどういう思いでいますか。

 守本 あっという間の20年でした。一人で創業し、苦しい時期や大変なことがあっても、本当に多くの方に助けていただいたことで今があるというのが率直な感想です。

 当社は、今は自然言語処理やネットワーク解析に特化したデータ解析企業となっていますが、もともとは自然言語解析をしようと考えていたわけではなく、海外で訴訟に臨む日本企業の支援がしたいという思いで会社を立ち上げました。

 訴訟に必要となる情報や証拠は、ほとんどがEメールなどの文書です。ところが、当然、「今から罪を犯します」といったメールがあるわけではないので、これを解析するのが本当に大変なのです。

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 ─ AI(人工知能)の開発やサービス提供を行うようになった背景や目的は何ですか。

 守本 以前は米国でも、訴訟に際しては証拠となる可能性のある文書をすべて弁護士が人力で読んで確認していました。人が膨大な量の書類などをレビューするのは本当に大変で、何とか効率化できないかと考えてつくったのが自社開発AIエンジン『KIBIT(キビット)』です。

 これを11年前に開発し、われわれは国際訴訟で必要な、証拠となる電子データの保全と調査・分析を行う「eディスカバリ(電子証拠開示)支援」や、「デジタルフォレンジック(電子鑑識)調査」というリーガルテック事業をメインに事業展開するようになりました。今日のディスカバリにおいては、もちろん最終的に人が判断を行うプロセスはありますが、AIの活用は当たり前、むしろなくてはならないものとなっています。

 会社を設立した当時は日本にデジタルフォレンジックという言葉すらありませんでした。その後、事業領域を拡大させ、現在、注力しているライフサイエンス事業は、ある優秀な創薬研究者を紹介され、当社に迎えることになったことをきっかけに開始しました。彼がいなければ絶対にできませんでしたから、そういう意味でも、本当に幸運な20年間だったと思います。

 ─ 優秀な研究者がFRONTEOに入ってきたということですか。

 守本 はい。現在、執行役員・CTOを務める豊柴博義で、もとは米国国立環境健康科学研究所や武田薬品工業の創薬研究所で遺伝子発現データ解析やターゲット探索等に携わり、2017年に当社に入社しました。

 彼は、武田で研究を行っていた時から、自然言語解析は医薬品開発に大変有効だと着目し、AIを活用して疾患メカニズムを作りたいと思っていたそうです。その時にたまたま当社が自然言語解析AIを使って事業をやっていた。そんな会社は日本はおろか、当時は世界にもないということで、当社に来てくれました。

 そこから少しずつ、大手製薬企業から優秀な研究者たちが集まるようになり、時間はかかりましたが、6年経って、ようやく形になりつつあります。


言語処理AIを活用して創薬支援をしていこう

 ─ では、そのライフサイエンス事業の可能性について、説明してもらえますか。

 守本 一般的な医薬品の研究開発では、標的分子と言って、薬を作用させるヒトの遺伝子、いわゆる標的分子を探し、その疾患メカニズムを推定することから全てが始まります。これが創薬の成功を決めると言われており、この標的分子探索と疾患メカニズム推定が非常に難しいのです。開発初期段階で有望と見られた標的分子のうち、実際に医薬品としての製品化に至るのは、わずか2万分の1とか、3万分の1と言われています。

 ─ それくらい確率が低いものであると。

 守本 はい。通常どうやって標的を見つけるかというと、医学論文などを読んで疾患の推定メカニズムを描く仮説生成を行います。つまり、なぜその疾患が起こるのかという仮説を立てていくのですが、それには、とにかく膨大な量の論文を読み込まないといけません。

 そこで、これをどうにかテクノロジーで解決できないかと。論文を読むのはつまり、自然言語解析ですから、自然言語処理AIを活用して創薬支援をしよう、というのが当社のライフサイエンスAI事業です。

 豊柴が当社に来てくれたのも、まさにそれが理由で、創薬研究において、標的分子の候補を絞り込むためのプロセスは未だに効率化されていない。研究者の個別の努力に依存しているのが現状で、豊柴は長年、創薬研究に携わる中で、これが大きな課題だと感じていたのです。

 ─ もともとリーガル向けのAIだったものを、創薬に応用することはできるんですか。

 守本 できます。言語は社会のあらゆる場面で使われており、自然言語解析技術は様々な分野に応用可能です。更に、普通のAI解析では、AIはユーザーが調べたいことに関係のある文字や論文を引っ張り出してきて「これです」と答えを並べます。一方で、当社のAIは更に高度な、例えば、ある疾患の名前を入れると、10分くらいでその疾患に関連する遺伝子・分子の関連図を提示してくれます。

 加えて、当社のライフサイエンスAI事業では、AIと創薬の両方に精通した研究者チームが成功確率の高い標的分子を見つける独自の解析手法を開発しています。

 解析手法はいくつか確立されていますが、例えば、その一つは、ある標的分子について疾患関連性が高そうだと思ったら、それを仮想的にノックアウト(破壊)して、疾患の発症や進行に関わる遺伝子ネットワーク上の他の遺伝子への影響を検証することができます。

 通常、仮説が正しいかどうかは、マウスを使って一つひとつ実験して確かめたりするのですが、当社の創薬研究者はAIを駆使して仮想実験を短期間に何回も行える。これはおそらく世界中、どこにもできないことで、豊柴をはじめ優秀な研究者が当社に参集してくれたことの成果が、この1年くらいで一気に花開こうとしているところです。

 創薬は成功率がとにかく低いので、その課題を解決することが、研究の効率化や発展、ひいては患者さんによい薬を早く届ける上で重要なのです。

続きは本誌で

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