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【三井農林】「若い世代を紅茶ファンに!」〝健康〟に商機を見出す市場掘り起こし策

財界オンライン / 2023年8月30日 7時0分

佐伯光則・三井農林社長

「健康と機能性、そして簡便性で需要を掘り起こしていきたい」─。こう語るのは紅茶のティーバッグ「日東紅茶」を手掛ける三井農林社長の佐伯光則氏だ。同社は国内シェアの4分の1弱を占める最大手だが「健康」に訴求した新商品を投入。紅茶の製造で培った職人の技術力とAIなどのデジタル技術を掛け合わせ、長い間、イノベーションが起こらなかった紅茶の潜在力を引き出そうとしている。

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紅茶市場で伸びる健康ニーズ

「紅茶のティーバッグが持つ即効性や簡便性、ポータブル機能をさらに高めつつ、ひと手間かけてひと時の安らぎを感じてもらう。紅茶のニーズはまだまだ掘り起こすことができる」─。このように力を込めるのが三井農林社長の佐伯光則氏だ。

 三井農林は1909年に創業(戦後の「企業再建整備法」により旧三井農林は清算され、現在の三井農林と法的な連続性はない)し、27年には日本で最初の国産ブランド紅茶「三井紅茶」を誕生させた。現在は、名称を「日東紅茶」に変え、国内の紅茶市場で23%(出典:インテージ SRI 2022年8月~23年7月推計販売金額)のシェアを誇る最大手になっている。

 1968年に赤と黄色の密封プラスチック容器で販売された「日東ティーバッグ」(現在の日東紅茶デイリークラブ)が有名だ。同商品によって当時主流だった缶容器から密封プラスチック容器に変え、ティーバッグ紅茶が一気に家庭に浸透した。

 同商品が世に出てから半世紀以上が経ち、コロナ禍でライフスタイルも変化。佐伯氏は足元の市場動向について「家庭用は在宅勤務などによる巣ごもり需要や高付加価値商品の開発などで何とか踏ん張っている。業務用はコロナ禍のどん底から回復し、ファミリーレストランなどが苦戦する一方、焼き肉や回転ずしといった専門業態は堅調だ。飲料メーカー用は猛暑の影響で前年割れが続く」と話す。

 消費者の価値観が大きく変わっている中で販売が伸びている商品の共通点が「健康」だ。もともと紅茶をはじめとする「茶」には健康のイメージが根付いていた。そこで同社は健康に焦点を当てた新商品を繰り出す。

 1つは家庭用に投入した茶葉とミルクが一体となった新型ティーバッグの「ミルクとけだすティーバッグ」。ティーバッグ内にミルク成分であるクリーミングパウダーと茶葉が入っており、お湯を注ぐだけで茶葉本来の香りがするミルクティーだ。

 インスタントミルクティーに代表されるように、通常、紅茶とミルクを組み合わせようとすると、どうしても砂糖を使わなければならなかった。そんな中で同社は〝砂糖不使用〟での商品開発に漕ぎつけた。三井農林が開発できたのは「1927年の国産ブランド紅茶を発売して以来、茶葉にまつわる技術を培ってきたからだ」と佐伯氏は話す。

 また、「はちみつ紅茶ティーバッグ」もティーバッグ内に粉末はちみつを練り込んだ顆粒が配合され、お湯を注ぐだけで顆粒が溶け出し、甘いはちみつ紅茶ができあがる商品。他にもロイヤルミルクティーやレモンティーで「日東紅茶」初の機能性表示食品も開発・販売している。

 三井物産食料・流通部門で投資・物流業務を担当後、コーポレート部門での人事・経営企画業務等を経て2020年から社長に就いた佐伯氏は長らく紅茶業界でイノベーションが起きてこなかったことに疑問を感じた。



AIでパッケージを選定

 今の10代から30代といった若年層の消費行動はモノからコトそしてトキにシフトしつつあり、ワークライフバランスの充実などを重視する傾向にある。

 こうした消費者の多様化と向き合い、ニーズにいち早く対応するためには、「最先端のデジタル技術を活用し、スピード感を持って新商品を投入して市場に問うていくしかない」と佐伯氏。そこで2021年から22年にかけて日東紅茶ブランドをバーチャル体験できる公式オンラインショップ、業務用商品を取り扱う公式オンラインショップなどを矢継ぎ早に展開。さらにはSNSの活用も加速した。

 同社のDXによる成果も出ている。AIによるパッケージデザイン評価やSNSデータ解析によるトレンド予測を導入したことで生まれたのが前出の「ミルクとけだすティーバッグ」だ。

 同商品のパッケージ制作にはAIによるデザイン評価を取り入れた。複数のパッケージデザインのうち、どのデザインが商品のコンセプトに合致しており、消費者に受け入れられやすいかをAIに判定させたのだ。

 紅茶飲料市場では大手飲料メーカーなどが鎬を削る。その中で茶葉を提供する同社は「日本で生まれ、日本人に合った商品をつくってきた日本で初めての紅茶メーカーだ」(同)。リプトンやトワイニングは共に海外ブランド。一方で三井農林は三井合名会社が直営事業として農林・製茶事業を手掛ける農林課を前身とする。

 1927年に日本初の国産ブランド紅茶を投入し、38年には東京・日比谷にある現在の宝塚劇場の隣に「日東コーナーハウス」を開業して紅茶の美味しさや楽しみ方の普及にも努めた。

 三井物産会長(当時、現顧問)の飯島彰己氏に言われた言葉が今も佐伯氏の脳裏に焼き付くという。「離任の挨拶をした際、三井グループの中で会社のロゴマーク『井桁の三』の外に〇が付いている企業は三井本家が直接担っていた事業会社であることを教えられた」。それだけに責任の重さを感じると話す。

 しかし、事業環境は厳しい。紅茶の原料である茶葉はスリランカやインド、ケニアなどからの輸入に頼る。足元の円安下で原材料価格の高騰は逆風だ。

 その中でも「いかにこれまで積み上げてきた技術力を生かして高付加価値な商品を投入していけるかだ」と佐伯氏。同社は8月下旬にも「ミルクとけだすティーバッグ」の技術を活用した砂糖不使用のカフェラテ、キャラメルラテを新商品として投入し、コーヒー市場にも参入する。

 かつては「舶来の高級品」「ハイカラな飲み物」と言われてきた紅茶。その紅茶に新たな価値をつけて市場の掘り起こしを狙っていく。

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