【農林水産省】トリチウム検査を強化 「理解」を巡って禅問答
財界オンライン / 2023年9月8日 11時30分
東京電力福島第1原子力発電所からの処理水の海洋放出を巡り、水産庁は放射性物質トリチウムの検査を強化した。放出開始後1カ月程度は海洋のトリチウム濃度を迅速に分析できる検査を毎日実施する。福島県沖での底引き網漁の開始を前に早期に安全性を証明し、漁業者や消費者の不安を沈静化する狙いだ。
従来の手法では結果が出るまで2カ月程度かかるが、新たな検査では翌日か2日後に結果を確認できる。福島県漁業協同組合連合会が操業を自粛している第1原発の半径10キロ以内の2カ所から検体を採取する。処理水放出口の近くでもトリチウム濃度に目立った変化がないことを示し、風評対策に万全を期す考えだ。
政府は廃炉まで溜まり続ける第1原発の処理水について、以前から今年夏に海洋放出をする方針を示していた。9月から本格化する漁期を前に1週間程度はトリチウムの分析ができることを考慮し、放出開始日を決定したようだ。
ただ、政府と東電は15年に福島県漁連と「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束。漁業者側は態度を軟化させてはいるものの、反対の姿勢を崩しておらず「理解」という文言を巡り、禅問答のようなやりとりも繰り広げられた。
漁業者側は「安全性への理解は深まった」としつつも、廃炉作業が終了する30年後に海洋放出が完遂した時点で漁業者が生業を継続していることで「理解」が達成されると説明。このため現時点で「約束は破られてはいないが果たされてもいない」との立場だ。
一方の政府は、漁業者側の言葉を捉えて「一定の理解」(西村康稔経済産業相)を得たと解釈し、なし崩しで海洋放出を強行。双方の「理解」を巡る温度差は今後、福島県や水産業の復興に向けた新たな火種となりかねない。
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