「高温化対策は待ったなし」第一生命経済研究所首席エコノミスト・熊野英生氏の提言
財界オンライン / 2023年9月18日 11時30分
7・8月の高温化は異常である。すぐに効果が出せないとしても、温暖化対策を格段に急ぐべきだ。この問題について、政治やメディアはかなり鈍感だと思う。こうした憤りを感じていたところ、『財界』8月23日号に倉本聰さんが、「温暖化という言葉は誤解を招く。高温化という言葉を用いるべきだ」と記していた。我が意を得た。温暖化という生ぬるい言葉を使うから人々が鈍感になる。
違和感はほかにもある。猛暑という言葉だ。海外からの報道では、熱波で多くの人が亡くなられたとされる。中国などアジア、南欧、北米・中米で熱波の被害は大きい。猛暑ではなく、日本でも熱波なのではないか。熱中症で救急搬送される人数は多い。熱波という定義があるが、どうやら日本はこの定義を満たしていないようだ。日本は7、8月は台風が来て、最高気温が下がることが少なくない。そうした事情もあるので、日本も熱波に近いと心得た方がよい。
私たちは、高温化対策として何ができるか。ひとつは節電だ。照明をこまめに消して、エアコンの設定温度を1、2℃ほど上げて我慢する。家電製品は古いものよりも、新しいものの方が消費電力は少ない。家庭のCO2排出量は全体の14.7%とされる。よく調べると、この中には自家用乗用車分が入っていない。それを含め22.4%だ。
この自家用乗用車の排出量はかなり多い。もしも、バスの利用に替えると、輸送量あたりのCO2は30%以上減る。鉄道ならば80%以上減る。
家庭用電力以外には、産業部門35.1%、運輸部門17.4%(自家用乗用車を除くと9.7%)などがある。企業が主導してCO2削減を大幅に推進することは可能だ。2024年は物流コストが上がる。働き方改革でトラック運転手の労働時間が減って、人件費は上がるからだ。トラック輸送を鉄道などもっとCO2を排出しない手段に切り替える契機になる。
排出抑制だけでは限界があるので、森林を増やしてCO2を吸収する総量を増やす方法もある。21年度は、日本の総排出量11億7000万トンに対して、吸収は4760万トン(総排出量の4.1%)と僅かだ。経済活動を過度に抑制しないためには、CO2吸収を熱心に進めた方がよい。木材はその重量の半分が炭素である。私たちが鋼材を使う替わりに木材で建造物をつくれば、そこで多くの炭素固定ができる。森林は樹齢が長くなると、CO2を吸収しにくくなる。従って、古い木を住宅などに使い、新しく植林をすれば一石二鳥となる。
こうした地道な努力に対する反論として、日本が熱心に削減しても、中国とインドが成長すればCO2の総量は減らせないという見方がある。それは確かだが、日本政府のCO2削減の経験は、いずれモデルケースとして、インド・中国が学ぶことになる。だから、無意味ではない。高温化対策は、待ったなしだ。
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