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【あおぎり協同組合】山下浩幸代表理事「外国人材の現地での教育から送り出し、母国帰国まで一気通貫体制で」

財界オンライン / 2023年9月12日 7時0分

山下浩幸・あおぎり協同組合代表理事(アクセルジャパン社長)

出生率が80万人を割り込み、全産業で人手不足が深刻な経営課題になっている。そんな中でカンボジアやミャンマー、インドネシアから外国人を日本企業に送り出しているのが山下浩幸氏率いる「あおぎりグループ」だ。1000人もの外国人の日本への送り出しを一気通貫体制で支援し、カンボジアでは日本語学校を自前で運営する。約20年にわたってこの事業を続けてきた山下氏の使命感とは?

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一気通貫の体制が強み

 ─ 産業界では全業種にわたって人手不足が課題となっています。その中で山下さんは外国人人材の受け入れ準備から帰国まで、グループ内で全てのサポートを行っていますね。

 山下 ええ。当グループでは組合員企業の現状の問題点や今後の人事戦略について、しっかり把握させていただき、外国人技能実習生や特定技能1号の受け入れ支援、高度外国人材の紹介など、組合員企業にとって最適な提案と多角的なサポートを行っています。

 アクセルジャパンは2005年に創業し、日系フィリピン人を招聘し、中国地方の企業に対して人材派遣を始めました。現在では、カンボジアとミャンマー、インドネシアに自前の日本語学校を設立し、日本への送り出し事業も行っています。

 また、技能実習生のための入国後講習施設や監理団体を2つ運営しています。多業種に対応している「あおぎり協同組合」、介護職種に特化している「協同組合ひふみ」です。このように我々は一気通貫の取り組みにより、海外からの送り出しから、入国後の講習、国内における監理事業までを包括的に展開しています。

 ─ これが強みだと。

 山下 はい。一気通貫の体制を構築できているのは、全国に約3600ある監理団体のうち1%もないと思います。業務提携としてはあっても、自前で運営しているところはほとんどありません。また、あったとしても1カ国程度で、複数の国に展開しているケースは稀ではないでしょうか。

 ─ どのような仕組みで監理しているのですか。

 山下 1000人弱の外国人技能実習生を北は宮城県から南は福岡県まで紹介しており、全体を32名のスタッフで監理しています。先ほどの3カ国に加え、中国やフィリピン、ネパール、そしてベトナムになります。

 これら7カ国の実習生に対して、各国ごとの通訳者を現在12名、正社員として雇用し、実習生の指導教育、相談対応などの役割を担っています。


転職が制度の大きな課題に

 ─ そこをどうマッチングさせるかになりますね。

 山下 ええ。まずは法律がどう変わっていくかが大きな課題です。特に重要なのは転職ができるようになるかどうかです。今現在、技能実習は人材育成の観点から転職が認められていません。

 この背景には先進国の中でも最低賃金による地域格差がある日本特有の課題があります。地域格差があるがために転職をしたい実習生を許してしまうと、賃金の安い地方ではなく、賃金の高い都市部に集まってしまうという問題が起こるからです。

 もともと技能実習制度は1993年から始まりました。しかし、この制度は、常に国内外からその在り方について批判があり、国際労働機関(ILO)からも「強制労働」であると再三指摘され、現在は「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が開催され、技能実習制度の存続も含め、話し合いが行われています。

 その中では、特定技能のように技能実習生も転職をできるようにする方向でまとまりつつあると言われています。しかし、そうなると、都市部に比べ最低賃金の低い地方の中小企業には実習生が残らなくなる可能性が高くなり、行政府も転職について、どのようにするのかを苦慮しているのが現状だと思います。

 そのような状況ですから、今後すぐに技能実習の現場で、制限なく、実習生の転職を可能にするということにはならないかと思います。転職そのものは認められると思いますが、現状を考えると、むやみに心配する必要はなく、かといって今のままの待遇で良いのかどうかを、企業と監理団体が一緒になって考え、外国人材に選ばれる受け入れを模索していく必要があると考えています。

 ─ 外国人を受け入れるけれども、しっかり監理する体制も整えるという形ですね。

 山下 はい。法律の問題や外国人材を受け入れるそれぞれの地域、企業の状況もありますから、我々のような監理団体と受け入れ企業が密に情報を共有し、法令を遵守しつつ、適正に受け入れていく形が続くと思います。

 ─ 外国人にとって日本という国はどう映っていますか。

 山下 当グループはミャンマーからも送り出しをしているのですが、実際のところ、日本よりも韓国に行く方がお金を稼ぐことができます。ところが実態としては日本へ行く方が多いんです。

 というのも、ご存知の通り、2021年にミャンマーで国軍によるクーデターが起き、国際的な経済制裁の中、若い子たちは自国に未来を感じることができなくなっています。

 収入だけを見れば韓国が良いのかもしれませんが、彼らの中では、安心・安全を考えると、断然、日本の方が良いと考えられています。それほど、日本に対する評価は日本人が思う以上に高いです。

 もちろん、それぞれの国によって日本に行く動機は異なります。マレーシアとは22年に特定技能に係る協力覚書が締結されました。なぜなら、同国も少子高齢化が進んでおり、介護の人材を必要としていたからです。だからこそ、マレーシアは人材を日本に送り出し、日本で介護技術を学んで自国の介護の下支えをしてもらおうと考えたわけです。



カンボジアで自前の学校

 ─ 国ごとに事情が違うのですね。しかし、日本は受け入れをどうするかについて真正面から考えなければなりません。

 山下 その通りです。今後、日本では毎年労働者が40万人足りなくなるとも言われています。おそらく技能実習生は毎年15万人から20万人弱ぐらい入っていると思います。しかし、コロナ禍で、その間、受け入れが落ち着いたのですが、昨今のインバウンド増加で急激に、技能実習生や特定技能外国人が増え始めているのが現状です。

 ─ 産業界共通の課題ですね。あおぎりグループは海外で自前の学校を運営していますね。

 山下 はい。2013年からカンボジアで日本語学校を運営しています。ここでは語学以外にも通学時の挨拶をはじめ、毎朝一斉に校内清掃も行っています。清掃終了後にはラジオ体操と朝礼を行い、清掃が不十分だったときには朝礼で生徒たちが報告し合い、もう一度清掃してから授業が始まります。

 カンボジアの人たちは、ベトナム人やミャンマー人とも異なり、地味な仕事や農業、建設など、肉体的に大変な仕事でもコツコツ頑張るんです。その国ごとの産業特性もあるだろうと思います。一方で、ミャンマーの人たちは日本語の上達が早く、介護施設や接客を必要とする企業からのニーズが多いです。


あおぎりグループが自前で運営しているカンボジアの日本語学校

 そういった真面目で一生懸命な我々の学校の生徒を面接してもらって採用いただいています。これも現地での教育から送り出しなどを一気通貫で行えているからであり、当グループにはそれらに精通するメンバーがいます。

 ─ カンボジアやミャンマー以外の国々はどうですか。

 山下 例えば、パキスタンは日本語の文法と並びが近いので、日本語の習得は早いと思います。東南アジアの中でもインドネシアに次いで人口が多いですし、今後の広がりの可能性は大いにあると思っています。

 インドネシアはベトナムに次いで、技能実習生の人数が多い国です。インドネシアは経済成長に伴って、事業意欲が高い若者が増え、海外でお金を稼いで、自国で一旗揚げたいという人材がたくさん日本に来始めていると感じます。

 ─ 日本で働きたいと思う外国人がいる一方で、日本企業も受け入れようとしている。あとは法整備が課題ですね。

 山下 技能実習という名称がどうなるかは別にして、技能実習を特定技能のような扱いにするけれども、すぐに転職されると困るので、一定期間は1カ所に留まってもらうと。その後は特定技能として、どこに行っても構わないという形を政府は考えているのではないでしょうか。

 当グループが加盟する全国約70団体、企業約6000社、約3万人の実習生を包括的に束ねる「国際連携推進協会」からも、今回の法改正について地方の中小企業のことを考えて欲しいと、政府への陳情活動や提言を行っています。

 ─ これらの仕組みの管轄官庁はどこになるのですか。

 山下 在留資格については法務省ですが、労働者として労働関係法の観点からも、引き続き厚生労働省も絡むと思います。


日本を加速させる手伝いを

 ─ ますます役割が大きくなりますね。そもそも山下さんがこの事業を始めた経緯とは。

 山下 大学卒業後、広島の輸入会社に入社し、05年に「アクセルジャパン」という派遣会社を立ち上げました。自分が生まれて以降、日本の人口動態が減っていくことを知り、日本に外国人の労働力を供給することで日本を加速させるお手伝いをしたいと思ったのがきっかけです。

 やはり課題も答えも現場にあると思っていましたので、アクセルジャパン設立後、07年にはフィリピンに現地法人を立ち上げ、その当時から海外に拠点を持って根っこからやろうと動いてきました。当時から誰かに任せるのではなく、自分で責任を持った事業をするためには根っこからやりたいという思いを持っていたのです。

 ─ 順調だったのですか。

 山下 08年のリーマン・ショックの翌年は派遣切りで大変でした。広島には造船や縫製、自動車関連、食品などの企業が多くありましたので、当時は外国人専門の派遣会社が約80社あったのですが、09年末には当社を含めて5社しか残っていませんでした。他は全て廃業していました。

 そこから18年が経ち、今はとても手応えを感じているところです。

 ─ その中でも、どんな点で遣り甲斐を感じますか。

 山下 私はこれまで、多くの技能実習生が来日し、良い意味で人生が変わる姿をたくさん見てきました。実習生の中には家族の生活も背負っている若者もいます。そういった人たちの人生が好転し、家族も喜んでいる姿を見たときが最も遣り甲斐を感じる瞬間なんです。

 近年、ダイバーシティという考え方が重要視されています。当グループは、人種や宗教、国籍、文化の違いを受け入れ、多様な人材の活躍に向けて、これまでも、そしてこれからも、貢献できるように頑張っていきたいと思います。

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