【倉本 聰:富良野風話】地球沸騰
財界オンライン / 2023年9月16日 15時0分
ついに来たか、とぼんやり思っている。
【倉本 聰:富良野風話】海洋汚染
ハワイ・マウイ島、カナダ、ヨーロッパと各地で頻発する大規模な山火事。ハリケーンの襲来、豪雨、洪水、旱魃、猛暑。地球沸騰という恐ろしい言葉を国連事務総長が口にするまでもなく、この星に予測された恐ろしい終末のシナリオは、遂にその終章の幕を開けた気がする。
40年前に書いた「ニングル」という小さな寓話が、なぜかこの時期、オペラ化されることに決まり、そのプレイベントが富良野で開かれた。ニングルとは北海道の森に棲む体長15センチから20センチ、小さな原住民のことである。森が大量に伐採されるとき、不思議とこの伝承の噂が流れる。
森を伐るな。伐ったら村は滅びる。
ニングルの発するこの警告が、40年前、僕の周辺で囁かれ、折から農地改革という国の事業で近くの森林がどんどん皆伐され、農地への転換がはかられ始めた中で、僕は寓話としてこの物語を書いた。それは文芸春秋社発刊の『諸君!』という雑誌に連載されたのだが、地球温暖化、環境問題が、まだ話題になる何年か前のことだった。その後40年、様々な天変地異があり、漸く人類は地上に徐々に起こりつつあるこの異常に関心を持ち始めた。関心を持ち始めたが、何が変わったか。
人間のやっていることは殆んど変わっていない。
変わっていないから事態は益々進行している。悪い方に、である。そうして今年、顕著に、というか、一挙に事態は悪化した。このことを世界の指導者たちは一体どのように見ているのだろうか。
ロシアとウクライナが戦争しようが、アメリカと中国が対立しようが、いま我々の乗っている地球。その基盤に只ならぬ変動が起きかけているとき、人類は処すべき優先順位として何を第一に考えねばならないのか。偉い人たち、この星を動かしている指導者たちの頭の構造を疑わざるを得ないし、それを監視している筈のマスコミ、世論のお粗末すぎる視点の置き方にも只々呆れ果てるばかりである。
こんな情けない思考たちの中で僕らは終末に向かうのであろうか。村が猛火に襲われているとき、隣人同士がその火の中で、境界線を巡って殴り合うだろうか。火山が爆発し、その溶岩が一つの町を押し潰そうとしているとき、逃げることよりその中で猶、富を得ること、儲けることを考えるバカがいるだろうか。いるとすれば、それは狂人である。だが、いま地球ではそうした狂人が東にも西にも北にも南にも溢れ、それでも自分だけは助かるのだという愚かな幻想にとりつかれ、預金通帳だけを後生大事に抱えて、それ以上のことを考えない。そんなことより人間はいま、酸素濃度の低下した地上、水の枯渇した大地、熱波におそわれ、海洋がグツグツと煮えたぎった地球のことを、何よりも第一に想像すべきである。
人類には神から授かった〝想像力〟という力がある筈なのだから。
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