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【倉本 聰:富良野風話】警察官

財界オンライン / 2023年10月16日 7時0分

京都アニメーションの放火事件。札幌すすきのの首斬り事件、ルフィの事件、ガーシーの事件。小さな事件まで書き連ねていったら、それだけで枚数が尽きてしまう。

【倉本 聰:富良野風話】ジャニーズ事件

 一体いつからこの国は犯罪王国となってしまったのだろう。

 京アニ事件の裁判で、被害者の家族が加害者に問うていた。あなたは自分の殺した被害者に、家族や子供がいるかいないかを考えたことがなかったのかと。加害者はその時こう答えた。「そこまでは考えてみませんでした」。

「そこまでは」。

 この答えには戦慄する。

 この男は果たして高等教育を受けた一人の知性ある人間なのだろうか。この男はこれまで日本の教育制度の中で、どういう教育を受けてきたのだろうか。そもそも社会に生きるための、善と悪とを学ばなかったのだろうか。

 全く同じことが、世界の指導者たちについてもいえる。プーチンさん、あなたは砲弾で破壊したウクライナの都市や、あるいは平和に暮らしていた農村の人々が、あなたの命令で投じられた弾丸で突然昨日までの平和を失い、父を失い、母を失い、思ってもみなかった理不尽な犠牲者の位置に投げ出されたとき、彼らにそれぞれ恋人や子供、愛するものたちが無数にいることを、全く想像もしなかったのだろうか。それとも、「そこまでは考えなかった」と、京アニの犯人と同じセリフを法廷でヌケヌケと答えるのだろうか。

 東京裁判を思い出すまでもなく、犯罪者は小さな自分の脳ミソの中の、小さな思い込みと独善の中で、何とも巨大な罪悪を犯す。それを正すのが理性であり、社会に生きるものの倫理であり、義務である。その義務が音たてて崩れつつある。

『密着警察24時』というテレビ番組が時々あって、僕はしばしば視聴するのだが、この中に出てくる日本の警察官の悪者に対する腰の低さに常に何度もおどろかされている。恐らく戦前のオイコラ警察への反省から、ここまで腰が低くなったのだろうが、言葉遣いから対応の態度、何もここまでやさしく対応しなくても良いのではあるまいかと、その忍耐力、我慢強さに、ほとほと感心してしまう。しかも、まだ若い警察官がきちんとそのマナーを守っているのである。

 アメリカのお巡りの、すぐ拳銃を抜いて容疑者を平気で殴ったり、殺したりするあの荒っぽさを目撃する度に、日本に生まれて良かったと思う。もっとも日本のお巡りの慇懃さにも時々ムッと腹の立つことがある。かつて見通しの良い畑の中の十字路で深夜、一時停止違反で捕まったことがあるが、確認したが人も車も全くいなかったと抗弁したが、絶対敵は許してくれない。

 したっけ旦那さん、法律ってのはそういうもンだ、とやさしく咎められて切符を切られた。しかも、その上で警察手帖を出し、クラモト先生でしょう? ファンなんだ、サインして。ムッとしつつも仕方なくサインした。

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