「中国の経済低迷と分断が生むピンチとチャンス」ニッセイ基礎研究所・矢嶋康次氏の提言
財界オンライン / 2023年11月1日 11時30分
中国経済の先行きに対する見方が急速に慎重化している。
生産年齢人口が2020年くらいから頭打ちになり、それを後追いするように成長率も下方屈折が始まっている。2000年代前半には10%成長していた中国経済は、今では半分程度の勢いしかない。
住宅価格も下落し、消費者物価指数もほぼゼロと、ストックとフローの両面で、デフレ懸念が高まっている。
若者の失業率も20%を超え、社会問題も起きている。日本から見ると、90年代以降の長い不良債権時代を連想させる。
日本の経験では、不良債権問題やマクロ経済政策には、規模とスピードが欠かせない。その点では、中国には民主主義の時間の掛かるプロセスがない分、政策を早く決断できるのではないかという期待はある。
ただ一方では、リーマンショック以降、地方が不動産に頼った経済成長を積み重ねて来たという、矛盾のマグマの大きさが意識され、経済成長への神話が揺らいでいる。また、国内外から中国の権威主義的な国家運営に対する疑問も出ている点は、日本より深刻だと言える。
中国としては、大規模な金融緩和で元安誘導し、輸出増加につなげるルートを使いたいが、国内から資本流出が起これば、国家体制を揺るがしかねないといった難しさもある。
日本にとって中国は、最大の貿易相手国である。直近の処理水問題で、日本産の水産物輸出が影響を受けている。
中国経済の低迷、政治的な軋轢により、日本経済にマイナスの影響が及び始めている。
ただ、中国低迷の一因である分断は、日本に異なる影響を及ぼしている。
昨年22年後半、中国への直接投資は、約400億ドルに急減した。これは、21年前半の4分の1の規模である。改正反スパイ法などが動き出し、企業の中国を見る目は変わった。
ここに経済停滞が加わることで、中国への投資はさらに減ることが予想される。中国に向かっていた西側諸国の資金は、高成長が望めるアジアへの拠点として、今後は日本を選ぶこともあり得る。日本はこのチャンスを活かす必要がある。
米国ではバイデン政権が、インフレ抑制法やCHIPS法を動かしている。安全保障や気候変動対策を強化するため、国産化を一気に進めるためであるが、この誘引力はすさまじい。
補助の条件として、米国での生産を義務付け、新エネルギーの開発・使用を減税で促し、低コストでエネルギーが使える環境を企業に提供する。
企業にとって魅力的な条件が並び、日本を目指す資金の流れに影響が及ぶ可能性がある。それだけでなく、国内企業がEVなどの製造開発拠点を、米国に移す動きも出かねない。
中国の経済低迷と分断は、日本にピンチとチャンスを生む。冷静な悲観論と大胆な戦略を持つことが、成功の秘訣となるのではないだろうか。
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