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4メガ損保の「カルテル体質」を生んだ土壌、寡占体制下の公正な競争とは何か?

財界オンライン / 2023年10月27日 15時0分

4メガ損保の「カルテル問題」について、金融庁の出方も焦点になる

損保業界を巡る大きな問題が相次いで起きている。ビッグモーターの不正請求問題は世間の注目を集めているが、もう1つ、業界の構造問題が露呈したのが、企業向け保険の「カルテル問題」。4メガ損害保険会社全てが関与した問題だけに影響は大きい。企業保険については4社でシェアが9割という状況下にあって、いかにして公正な競争環境を確保するか、そして今後の見通しは─。


当局の処分などの結論は年明けか?

 4メガ損保寡占体制の弊害か─。

 大手損害保険会社4社による、企業向けの「共同保険契約」での「価格調整問題」は長期化の様相を呈している。

 発端は2022年12月に起きた東急向けの火災保険契約。東京海上日動火災保険を主幹事に、三井住友海上火災保険、損害保険ジャパン、あいおいニッセイ同和損害保険という大手4社が参加した共同保険契約で、保険料の調整行為が行われた。

 東急の意向で入札となった契約だったが、東急の担当者が、各社から提示された保険料の水準が同じだったことに疑念を抱いたことから、入札が2度やり直しになった。

 保険料は損保が過去に、その企業にどのくらいの保険料を支払ったかを表す「損害率」によって決まる。東急は優良とされる損害率だったにもかかわらず、問題となった事案では割高な保険料が提示された。

 最後の入札は価格調整なく行われ、当初提示された水準から低い価格で契約に至った。いわば「未遂」だったが、東急から疑義を呈された東京海上が社内調査したところ、各社の担当者がスマートフォンなどで情報共有し、保険料の水準を調整していた。ここから、業界内で価格調整、「カルテル」が常態化していたのではないかという疑いが持たれた。

 当初、損保各社は「他の事例もあると思うが、蔓延していたということはないのではないか」としていた。だが、9月29日に損保各社が金融庁からの報告徴求命令を受けて提出した報告書では、価格調整など不適切な事案の対象が鉄鋼メーカー、石油元売り企業、交通インフラ系企業など100社以上に上っているとされる。各社はまだ、これら報告書の内容を対外的に明らかにしていない。

 そもそも、この「共同保険」とはどういう仕組みなのか。

 特に大企業は、事業規模が大きい分、設備など保険をかけるべき対象も多い。そのため、1社で引き受けるとなるとリスクが大きい。そこで、何社かの損保でリスクを分散しているのが共同保険。

 この時、損保各社がどういうシェアで責任を分担するかを決めるのは契約する企業側。多くの場合、シェアが大きいのは政策保有株を持ち合っていたり、その企業と歴史的に関係の深い損保なので、保険料を安くしたからといってシェアを高められるとは限らない。その意味で競争環境にはなかったと言える。

 共同保険という仕組み自体、幹事を中心に担当者同士の事務連絡を必要とするため、調整行為を働こうと思えばできる環境下にあった。それを、金融庁などは、損保は独占禁止法上問題になるような行為はしないだろうという、ある種「性善説」で認めてきたという背景がある。

 あるメガ損保の関係者は「報告書で提出した事案の中身は、明らかに価格調整をしたケース、契約について会話したというケース、ただ担当者同士で会話しただけというケースなど『玉石混交』。法の抜け道を探していたというような話ではなく、そもそも独禁法に違反しているという感覚もなかったのではないかと思う。過去から引き継いだ慣例を、時代に合わせて変えることなく運用してきてしまった結果ではないか」と話す。

 関係者の話を総合すると、担当者が不当に利益を得ようとしたという話ではなく、売り上げやシェアを維持するために慣習として行ってきたものだということのようだ。

 精査すべき件数が多いことから、金融庁や公正取引委員会が処分等の結論を出すのは年内ではなく来年になるのではないかという見通しも出ている。金融庁からは業務改善命令、公取からは課徴金などの処分が見込まれている。

 また、東京都など自治体や公的機関でも不適切な行為があった。東京都は自ら東京海上、損保ジャパン、三井住友海上の3社を調査する方針を示した。

 問題は今後だ。近年の自然災害の激甚化、被害規模の巨大化によって業界全体で保険金の支払いが増加、企業向け火災保険分野の業績は悪化している。この収益構造をどう変えることができるかが問われる。

 また、これまで前述のようなシェア維持のため、企業向けの保険価格を安く抑えてきた一方、個人向けの火災保険は値上げが続いている。結果的に個人にしわ寄せが来ていると言ってもいい構図。その意味では、大口の代理店であるビッグモーターを重視する余り、契約者保護をないがしろにした損保ジャパンの問題と通底している。

 保険会社の経営分析が専門の福岡大学商学部教授・植村信保氏は「1996年の保険自由化以降、保険料は概ね低下を続けてきた。しかし近年は引き上げが必要な状況となり、損保側には、価格を少しでも高くしたいという動機があったのではないか」と指摘する。

 処分が出た後、企業向け保険の世界はどうなるのか。外資を含め参入者を増やすのも1つだが「国内大手損保の保険料はリスクに対して高くないと言われている」(植村氏)。シェア維持のために安い保険料を出していただけに、それと同水準の価格を外資系は出せないと見られる。

 その意味で「今後は契約する企業側も、損保任せではなく、自らがリスクマネジメントの力を付けることが求められる」(植村氏)。簡単なことではないが、付き合いのある損保に単に任せるのではなく、自らに必要な保険を見定め、損保会社を選定する目を持つ必要に迫られる。

 4メガ体制下での「公正な競争」のあり方について、業界としていま一度見つめ直すべき時期に来ている。

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