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「投薬、手術に次いでアプリで治療を」 キュア・アップ社長・佐竹晃太氏の〝治療アプリ〟戦略

財界オンライン / 2023年10月24日 7時0分

佐竹晃太・CureApp社長

ソフトウエアで病気を治す─。そんな時代が到来しつつある。スマートフォンの「治療アプリ」の事業化で先陣を切るのが現役の医師でもあるCureApp(キュア・アップ)社長の佐竹晃太氏だ。同社は日本で唯一、保険適用を受けた治療アプリを開発・展開している。医療費の増加や医療現場の人手不足、医療格差などの課題が山積する中で、佐竹氏は投薬・手術に次ぐ〝第3の治療〟の創造に動き出している。

河北医療財団理事長・河北博文氏の提言「ポストコロナではなく、コロナ前から抱える日本の課題の解決こそ」

保険適用されていることの意味

「治療アプリは単なるヘルスケアアプリとは違う。治験や臨床研究などの結果から、医薬品と遜色ない効果が期待できる。しかも、物的な資源は使わず、一度開発すれば全国津々浦々、在庫なしで使える。医療格差も解消されるだろう」─。このように強調するのは従来の医薬品や医療機器では治療できなかった病気を治すための「治療アプリ」を開発しているキュア・アップ社長の佐竹晃太氏だ。

 コロナ禍が落ち着き、一時受診控えが起こって減少した医療費は再び上昇し始めている。2021年度の概算医療費は約44兆円。団塊の世代が後期高齢者入りし、医療費の増加ペースは速まる。医療現場でも時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」に直面する。

 そんな中で、アプリを使う新たな治療方法を生み出す企業がキュア・アップだ。現在、病気の患者に医師が行うことの1つは薬による治療であり、もう1つは医療機器を用いた手術を含む治療だ。キュア・アップはソフトウエアという新しいツールを用いて病気を治す。〝第3の治療法〟になる可能性を秘める。

 そもそも治療アプリとは何か。治験によって医学的エビデンスが示され、薬事承認された治療用のアプリケーションのことを指す。そのため、患者一人ひとりに最適化した治療方法を医師が処方可能だ。都市でも地方でも、どこでも使える上に、生活習慣の改善に効果的だ。

 そして、保険適用されている同社のアプリは「ニコチン依存症向け治療アプリ(禁煙アプリ)」と「高血圧症向け治療アプリ」の2つ。保険適用されている治療アプリを展開している企業は国内では同社しかない。

 佐竹氏は高血圧症向け治療アプリを事例に次のように語る。「日本国内の高血圧患者は約4300万人と推定されている。そのうち通院していない患者が半数だ。通院する時間がない患者もいれば、血圧を下げる薬を飲み続けることを断念するケースもある。治療アプリを用いたスマート療法であれば、医師の指示に従って半年間、しっかり生活習慣の改善を行うことで本質的に病気を治せる」

 一般的な高血圧の治療は、減塩やダイエット、運動、睡眠、飲酒といった生活習慣を改善させる内容が多い。これを患者が自力で改善するのは難しい。

 その点、同社の治療アプリを使えば、診察時以外の空白期間でもアプリから患者の生活習慣の記録やアプリと連動するIoT血圧計などを通じて患者のリアルタイムの状況を取得できる。それをアルゴリズムが解析して医学的エビデンスに基づいた最適な治療ガイダンスを施す。

 それに加えて、個々にカスタマイズされたメッセージを送ることによって診療時以外の時間でもリアルタイムにサポートできる。「医師と一緒にアプリを活用することで、医師と患者との信頼関係も強くなる」と佐竹氏。

 このことは医療現場にもメリットをもたらす。あまり把握できていなかった患者の日々の血圧や運動状況など、生活習慣に関するリアルタイムのデータを医療従事者が入手し、診察時の生活指導に活用できるからだ。

 また、医療機関の経営面でもメリットがある。佐竹氏は「薬事承認されて保険点数がついているため、処方すれば医療機関の売上増にもつながる。経営面でのメリットも大きい」と話す。血圧を下げる薬の市場だけで約5500億円の市場規模。「売り上げ3桁億円の実現も期待できる」と佐竹氏は言う。

 20年に国内第1号の薬事承認を得た禁煙アプリも同様だ。通常、ニコチン依存症の治療は12週間を基本単位とし、その間に5回の診察を実施する。タバコの煙に含まれるCO濃度を測定し、その期間の過ごし方を聞き取り改善させる。患者の「吸いたい」という欲求をいかに抑えるかが重要になるが、通院以外の期間に欲求を抑えられず、治療に挫折する患者は多い。

 しかし、治療アプリであれば日々の体調やCO濃度を記録し、それにあわせて正しい知識のガイダンスを行える。また、タバコが吸いたくなったときにメッセージを送ると、独自のアルゴリズムを通してチャットボットから励ましのメッセージも届く。日々、患者が治療に参加できる環境を整えているのだ。徐々にその効果も認められ、同社の治療アプリを導入する医療機関数は「1000施設以上」(同)に上る。



7つの治療アプリを開発中

 同社はいま非アルコール性脂肪肝や慢性心不全、慢性腰痛症、減酒など、7つの治療アプリを開発中。乳がん関連症状治療アプリは第一三共と共同開発している。第一三共にとっては、強みである医薬品開発力を治療アプリとかけ合わせることで、新たな事業の柱を育てることができる。

 そんな佐竹氏は慶應義塾大学卒業後、日本赤十字社医療センターなどで呼吸器内科医として勤務。中国・上海の中欧国際工商学院でMBAを取得後、米ジョンズ・ホプキンス大学留学中に、ある論文と出会う。糖尿病に特化した処方用の治療用アプリに関する論文だった。読み終えた佐竹氏は「糖尿病だけでなく、生活習慣を改善するための行動変容にもつながる。可能性の広さを強く感じた」という。

 社会的にデジタル技術が浸透したといっても、日本の医療現場は薬や手術といった外科的な治療が主流だ。現役の医師としても働く佐竹氏が打ち出す治療アプリを処方して病気を治すという「スマート療法」が新たな潮流として根付くかどうか。佐竹氏の構想力が試される。

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