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70年前の復刻缶でブーム到来 パインアメの超ニッチ戦略

財界オンライン / 2023年11月7日 11時30分

自分たちの商品力を見直す─。創業1948年、大阪を拠点にパインアメを主商品として飴づくりを続けてきたパイン株式会社。今年8月、70年前に販売された復刻缶3000個が即完売。この復刻缶の成功はパインアメに長年のファンがいるということを裏付けた。また、先日優勝を果たした阪神タイガース岡田監督が試合中に舐める飴だと公言し全国に名が広まった。商品力を磨き続ける秘訣とは何か─。


復刻缶で再ブーム

 今年8月、パインアメの人気が爆発─。阪神梅田本店では70年前の復刻缶パインアメ限定3000缶(180g/1650円)が、開店後即完売。ネット通販メルカリでも1缶2万円を超える高値がついた。「転売者の買い占めによって通常の価格で購入できない」等のクレーム対応にも追われた。

 この復刻缶販売のきっかけは、消費者からの一通の問い合わせ。他界したおばあさんが手芸箱として使用していた缶を、遺族が遺品整理でパイン社へ寄贈したことによる。

 長く大切に使用し続けられていた顧客と、遺族への感謝の意を込めて、復刻缶として再販を決定。顧客との関わりを大切にする同社のエピソードにSNSで賞賛が集まり注文が殺到した。

 また、先日18年ぶりにリーグ優勝した阪神タイガース岡田監督が、試合中に舐めていると公言してから、全国から注文殺到。工場生産が追いつかず創業以来初の注文停止となった。

 このように、パインアメは商品を通じた顧客の思い出やエピソードをSNSで度々発信し共感を呼ぶことで、ファンとの親密な関係を強化している。


超ニッチ戦略による商品力

 パイン株式会社は創業から70年余であるが、パインアメだけは一度も売上が落ちたことがないロングセラー商品。現在全体売上のうち3分の1をパインアメが占める。

 ある勉強会で小林製薬の故・小林豊社長が「大きい魚を釣りたかったら小さい池で釣れ」と言った言葉に共感し、そこからパインアメに注力した超ニッチ戦略の方針を強めた。

「商品は増やしてはいけない。何のためにある会社なのか? パインアメとは何か? それを売る自分とは何だろうか? そういったことを社員一人一人が考えるように生きて欲しい。うちはグローバルより光り輝くローカル企業でありたい。量ではなく質でいく」と会長・上田豊氏は語った。

 パインアメは昔からの味が売りの商品であるが、実は微細な品質改良を幾度も重ねている。「時代によって人々の味覚や生活様式も微妙に変わっている。定番商品であっても、生き残っていくには変化し続けることが必須」と上田氏は強調した。


不祥事を乗り越えて…

 同社の歩みを振り返ると順風満帆ではなかった。2002年、食品衛生法で認められていない業務用食用油脂が飴の離型剤として使われていた、という不祥事で世間を賑わせた。

 当時社長(現会長)の上田豊氏は仕入れ先から連絡を受け青ざめたが、すぐさま製品自主回収を決断。当時発売していた商品の90%以上が回収対象となった。毎日取引先、消費者からの辛辣な非難の手紙や鳴り止まない電話とマスコミ対応。社員は始発から終電まで働く状態が2カ月続いた。

 しかし、このとき同社は問題を隠して事件をうやむやに風化させるのではなく、〝鮮明に記憶に残す〟ことを決めた。二度と同じ過ちを起こさないよう、根本課題に向き合い、問題点・消費者クレームの声・再発防止策すべてを細かく記録した外部向けパンフレットを制作。現在も新入社員の研修・会長講演等で使用している。

「この頃、自分の行動が少しでも逃げていないか、お客様を裏切る行動になっていないか、と毎日鏡の中の自分と対話していた」と上田氏。会社にとってはできれば隠したい、忘れたい記憶が詰まった冊子であるが、過去の過ちから逃げずに対応し続けている姿勢が、現在の信頼へと繋がっているのだろう。


コラボのオファー相次ぐ

 パインアメは他社とのコラボ商品が非常に得意であることも特徴。20年前から約80社とコラボしロイヤリティとして営業外収入を得ている。コラボは食品以外にも人気アニメ、雑貨、ハンドクリーム、布巾、御朱印帳、と多岐にわたる。

「お客さんから聞いた話で、普通のパイナップル味で売るより、うちと組む方が売れるのだと。それくらいパイン飴という商品には力がある」(同氏)。これもニッチ戦略で長い間磨かれた商品のもつ力である。

 アニメSPY×FAMILYとのコラボ『アーニャアメ』『あんバタ飴』など新商品も好調となり、今年2月は過去最高売上を記録。

 一方同じ飴会社である1908年創業のサクマ式ドロップスの佐久間製菓はコロナ、原料高騰を理由に今年1月に廃業。この差はどこから来るのだろうか。

 全国飴菓子工業協同組合理事長も務める上田氏は、「時代の変化に対応できなかったということだろう。コロナ明けでも飴業界全体70社のうち、5分の1の企業は危機的状況」と未だ続く飴業界の厳しい状況を語った。

「2024年問題、原材料高騰、人材不足……課題は山積み。会社を潰さないためには環境のせいにするのではなく、厳しい中で知恵を絞り、やるかやらないか。パインアメで社会に何ができるか今後も問い続ける」

 吉田松陰の言葉をもじって、『かくすれば かくなるものと知りながら 已むに已まれぬ〝飴屋魂〟』が自身の座右の銘だと上田氏。時代の変化に対応していく覚悟の経営がつづく。

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