BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏の提言「日銀は米欧の教訓を生かせるか」
財界オンライン / 2023年10月30日 18時0分
米欧のインフレ率は、かなり低下したとは言え、今も目標の2%には程遠い状況だ。
2021年にグローバルインフレが訪れた際、パウエル・FRB(米連邦準備制度理事会)議長やラガルド・ECB(欧州中央銀行)総裁は、高インフレは一時的と繰り返し、先行きの景気見通しに大きな不確実性が残るため、金融緩和を継続する必要があると強調した。20年までは、低いインフレが心配の種であり、2%を多少上回るのは、むしろ好ましいと考えていた。
もちろん、米欧の高インフレの主因は、パンデミック対応で、大規模な財政政策を発動したことだ。しかし、中央銀行が22年まで利上げを先送りしなければ、ここまでインフレが加速することはなかったはずだ。
現在、植田和男日銀総裁は、高インフレは一時的で、緩和を続ける必要性があると繰り返している。21年にパウエル氏やラガルド氏が語っていたことと全く同じだ。
日銀は過去四半世紀の金融政策を多角的にレビューするというが、過去四半世紀は低インフレの時代だ。このレビューは異次元緩和の継続を正当化することになりはしないか心配だ。実は、FRBとECBはコロナ直前に政策レビューを行い、それが政策転換の遅れにつながった。
利上げ転換に遅れたFRBとECBは、その後、急激な利上げを余儀なくされた。日本でも2%を超えるインフレが続く場合、マイナス金利撤廃を含め、継続的な政策修正が必要になる。ただ、四半世紀以上にわたりゼロ金利政策が続く日本では、急激な金利引き上げは、金融経済の混乱をもたらす恐れがある。それ故、必然的に利上げペースは緩慢なものとならざるを得ないが、利上げがインフレ上昇に追いつかなければ、実質金利が一段と低下し、内外金利差拡大が円安インフレを加速させるリスクもあるだろう。
本来、円安をきっかけとする物価上昇は一時的なはずだ。日本で3―4%の高いインフレが長期化するのは、高齢者の引退などで、労働需給が逼迫しているからだろう。コロナ禍で総需要が低迷していたため、供給能力の天井の低下に皆が気づいていなかったのだ。需給ギャップがタイト化したところに、円安インフレが訪れ、ホームメイドインフレに転化しているのである。
岸田政権は、物価高がもたらす国民生活への痛みを吸収するため、大規模な補正予算を編成する可能性がある。それは、需給ギャップをさらにタイト化させ、インフレを加速させる恐れがある。さらに今後、防衛費や少子化対策、地球温暖化対応で、年10兆円規模の歳出が歳入に先行する。大規模で恒常的な歳出拡大も需給ギャップの逼迫を助長し、インフレ圧力を高めるだろう。
大規模財政にもかかわらず、金融政策の転換が遅れたことが米欧の失敗だった。日本銀行が学ぶべきは、21年と22年の米欧の教訓だ。
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