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【政界】新たな経済対策を巡り「還元解散」カードを握った岸田首相の腹の内

財界オンライン / 2023年10月23日 15時0分

秋の臨時国会が10月20日に召集される。物価高対策や子育て支援、持続的な賃上げなど先送りできない課題が山積する。首相・岸田文雄は課題にじっくりと取り組み、一つひとつ確実に結果を積み上げようとするのか。それとも衆院解散・総選挙に踏み切り、勝利を原動力にして課題を動かすのか。永田町では早くも岸田が臨時国会で「還元解散」に打って出るという観測が広がる。様々な思惑が交錯する臨時国会での岸田の言動から目が離せない。

【政界】大型でも「印象は小幅」な内閣改造 年内再浮揚に向けて政策で勝負する岸田首相

還元解散

「新型コロナウイルス禍で苦しかった3年間を乗り越え、経済状況は改善しつつある。他方、国民の皆さんは物価高に苦しんでいる。今こそ成長の成果である税収増などを国民に適切に還元するべく経済対策を実施したい」─。岸田は9月25日夜、首相官邸で記者団にそう語り、自民・公明の与党に新たな経済対策をまとめるように指示したことを明らかにした。

 具体的には、物価高対策▽持続的な賃上げ▽国内投資促進▽人口減少対策▽国民の安心・安全─の5本柱。岸田は「熱量あふれる新たな経済ステージへ移行する方向感を明確かつ確実にする」と強調した。

 岸田は翌日の閣議で、5本柱を具体化した経済対策を10月末までにまとめるよう閣僚に指示した。円安などに伴う物価高が家庭や企業を直撃する中で、さらなる生活支援策や経済活性化策が急がれる。ただ、永田町では岸田の「国民に還元」という一言が大きな波紋を広げた。

 ある自民党ベテラン議員は「首相はやる気だ。『減税』という言葉は財務省が反対するから慎重になったが、上振れした税収を『国民に還元』するというのだから、減税をして衆院解散・総選挙だろう」と語った。

 2022年度の国の税収は前年度比6.1%増の約71兆円。想定を大きく上回り、前年度から約4兆円も増え、過去最高を記録した。主な要因は、食品代や電気・ガス料金などの物価上昇に連動して消費税額が膨らんだからだが、家計にとって物価高は厳しい。消費税は所得の低い世帯ほど負担感の重い「逆進性」があるから、なおさらだ。

「所得税減税よりも給付金のほうが誰もがメリットを感じる。だから『減税』でなく『還元』なのだ」など、まるで「還元解散」を確実視しているかのような分析もある。

 11月になれば、防衛力強化のための防衛費増額や次元の異なる少子化対策の財源を巡る議論が本格化する。国民に負担を強いる議論になるだけに、岸田政権に厳しい視線が向けられることは必至だ。

 すでに「増税内閣」「増税メガネ」といった批判的な声が上がる。岸田は、そういうイメージが定着することを気にしているとされる。「還元」発言は増税イメージの払拭を狙ったものだといえる。


一意専心

 岸田にとって9月30日で自民党総裁の任期が残り1年となった。再選を狙い早くも幾つもの布石を打っている。

 9月13日の内閣改造・自民党役員人事で前回の党総裁選を戦ったデジタル相の河野太郎と、経済安全保障担当相の高市早苗を続投させた。総裁への意欲を見せていた党幹事長の茂木敏充も留任させ、いずれも対抗馬としての独自の動きを抑え込むことを狙ったとされる。

 また、外相に元法相の上川陽子を起用し、こども政策担当相に当選3回の加藤鮎子を抜擢するなど、歴代最多と並ぶ5人の女性閣僚を誕生させている。

 しかし、政権の骨格を維持したことなどから、低迷していた内閣支持率を上昇に転じさせる起爆剤にはならなかった。それだけに、来年9月まで安定した政権運営を続けられるとは限らない。支持率が回復しないまま「岸田首相では選挙を戦えない」と引きずり降ろされることは最悪のシナリオとなる。どこかのタイミングで衆院解散に踏み切り、勝利することが必要となる。そのため「秋解散」論はくすぶり続けていた。

 岸田は9月25日、首相官邸で衆院解散・総選挙の時期について「経済対策をはじめ、先送りできない課題に一意専心で取り組んでいく。現在それ以外のことは考えてはいない」と述べ、記者団をけむにまいた。

 臨時国会の10月20日召集が決まると、冒頭で衆院解散・総選挙に踏み切る「秋解散」論は急速にしぼんだ。10月22日に衆院長崎4区と参院高知・徳島選挙区の2補欠選挙が行われるからだ。

 その日までに衆院が解散されれば、衆院補選は全国で実施する総選挙に吸収される。今回の長崎4区の補選は新たな小選挙区定数「10増10減」が適用されず、従来の選挙区で行われる。10月10日の告示後に突然、衆院解散で新たな区割りでの選挙になれば、ポスター看板の設置作業などで大きな混乱が予想される。「選挙をもてあそぶ行為だ」などと批判されかねないからだ。



常在戦場

 そうした中での岸田の「還元」発言。「秋解散」論が息を吹き返した。

 永田町では「内閣改造・党役員人事で挙党体制ができたのに選挙で議席を減らしたら首相は求心力を失う」(自民党議員)といった慎重論のほか、「自民党の情勢調査の数字が良かったと聞く。好機かもしれない」(閣僚経験者)などの主戦論が渦巻く。

 自民党総務会長の森山裕は10月1日、北海道北見市での講演で、新たな経済対策を巡り「財政規律をしっかり踏まえて減税の対応がとられる可能性もある」と指摘。その上で、「税に関することは国民の審判を仰がなければならない」と述べ、減税措置を打ち出すのであれば、衆院解散の大義になるとの考えを表明した。

 一方の立憲民主党は、国会対策委員長・安住淳が「やるとなれば受けて立って戦う」と強弁すれば、代表の泉健太も「懸命に候補者擁立を続けている」と選挙準備を加速させる構えだ。

 しかし次期衆院選の候補者擁立は思うように進んでいない。289小選挙区の候補者は目標の200人に程遠い160人ほどにとどまる。「立憲共産党」と揶揄されたため、一定の距離を置いていた共産党との「共闘」路線が定まらないことも、候補者擁立で伸び悩んでいる要因となっているようだ。

 立憲民主党の政党支持率は、ひと桁台で低迷しており、泉が勝敗ラインに掲げた「比例代表と合わせて150議席獲得」は現状のままでは厳しい。

「野党側の選挙準備が整わないうちに衆院解散するのが選挙の鉄則」(与党ベテラン)とされる。岸田の「還元」発言で解散風が強まるのもうなずける。

 公明党代表の山口那津男は9月29日、首相官邸で岸田と会談した後、「10月をもって衆院議員任期の折り返し点をすぎるので、それからは『常在戦場』の心構えで準備に当たる」と記者団に語った。

 ところが、このタイミングで解散風が強まったことで、岸田は「ジレンマ」を抱えることになる。

 岸田は今年6月、通常国会の最終盤で、自ら解散風を吹かせながら最終的に解散を見送ったため、「今回もまた思わせぶりな発言をしておいて解散しなければ党内の求心力は落ちる」(与党中堅)というのだ。

 解散をちらつかせて野党側を牽制したいけれど、解散風が強まれば解散せざるを得なくなる─。そんな難しい状況に立つことになった。

 岸田は「還元」発言から4日後の9月29日、強まる解散風の沈静化に動いた。新たな経済対策の財源を裏付ける2023年度補正予算案について「経済対策を取りまとめた後、速やかに補正予算案の編成に入り、臨時国会に提出したい」と表明した。

 岸田はそれまで、補正予算案の提出時期について明言を避けてきた。物価高対策や賃上げなどを国民にアピールできる経済対策というカードを最大限に活用するには、解散をにおわせておく必要があったからだ。

 ところが、封印していた補正予算案の国会提出時期を明言したことで、成立させるまでの間、自ら解散権を縛ることになった。


連立解散

 政府・与党は、臨時国会が召集される10月20日に岸田の所信表明を実施し、23~26日に衆参両院で各党代表質問を行ったのち、両院の予算委員会を順次開催するという青写真を描く。

 補正予算案は早ければ11月上旬に提出することができる。ただ、11月12~15日は米サンフランシスコでアジア太平洋経済協力会議(APEC)の財務相会合と外相会合が開かれ、15~17日は首脳会合が開催される。この間は岸田や財務相の鈴木俊一らが不在となり、補正予算案の審議は進まない。

 そのため、補正予算案提出のタイミングが11月下旬になることも想定される。そうなれば11月いっぱいは審議が行われる。12月になると24年度予算案の編成作業が始まり、衆院解散・総選挙を行う環境は整いそうにない。

 与党内には「首相ははなから解散を考えてはいない。経済対策などの重要課題を一つ一つ実現させるつもりだ」(与党幹部)という空気が支配的となった。

 様々な観測を広げた「還元」発言だが、実は岸田よりも早く、上振れした税収の「還元」を口にしていた議員がいる。

 国民民主党の代表、玉木雄一郎だ。9月2日に実施された党代表選への出馬を表明した8月3日の記者会見で、こう主張している。

「税収の上振れ分については、厳しい物価上昇の中、『国民に還元』して、暮らし、家計、消費を下支えする政策を行い、来年の春闘の賃上げを確実なものにしていく」

 今も国民民主党が与党入りする「自公国連立」構想が取り沙汰されている。岸田は先の内閣改造に合わせて、国民民主党の前参院議員で、党副代表を務めた矢田稚子を首相補佐官(賃上げ・雇用担当)に起用した。政策面で共通点が多い国民民主党との連携強化を狙ったものとされる。

 税収の上振れ分を「国民に還元する」という同じ表現を使ったことで、岸田と玉木の足並みが揃う格好となった。今後、自公国連立が加速する可能性がある。連立の枠組みの変更は衆院解散・総選挙で国民に賛否を問う「大義」にもなる。しかも過去に12月に衆院選を行ったことは12年の野田佳彦内閣や14年の安倍晋三内閣などの例がある。

 政界は「一寸先は闇」といわれる。岸田が減税や給付金、自公国連立などを仕掛けて「伝家の宝刀」を抜くかもしれない。臨時国会は何が起きるか見通せない。

(敬称略)

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