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「山椒は小粒でも…」の存在感で【私の雑記帳】

財界オンライン / 2023年11月1日 18時0分

小粒ながらも存在感を示すには

山椒は小粒でも……

『山椒は小粒でもピリリと辛い』─。山椒の実は、食の世界を引き立ててくれる。小粒でも、しっかりと存在感を示してくれるのが山椒の魅力である。

 国という領域でも、山椒のような存在がある。

 1人当たりGDP(国内総生産)ランキングを見ると、1位はルクセンブルク(12万7579ドル)である。人口は約62万人。小国だから、国の経済規模を見るGDPは世界68位。国全体の経済規模は小さくても、国民1人ひとりの生活水準は高い。

 その1人当たりGDPの世界2位はノルウェー(10万6328ドル)だ。人口は約548万人で、高負担高福祉国家として知られる。

 北海に面するスカンジナビア半島西岸の立憲君主国家で、東にスウェーデン、ロシア、フィンランドと国境を接し、数々の歴史的体験を経て、今日の民主主義体制、福祉国家を形成したという足取り。

 豊富な水力、石油などの天然資源に支えられて、農業・漁業国から工業化を果たしている。自国で使う電力は水力で賄い、石油などは輸出に向けるという産業構造。要するに、知恵を使っての国全体の運営である。

 1人当たりGDPの3位はアイルランド(10万ドル強)。4位スイス(9万ドル強)、5位カタール(8万4000ドル強)、そして6位にアジアからシンガポールが入る(8万2000ドル強)。いずれも人口は少ないが、独自のアイデンティティ(自主性)を持つ国々だ。

 世界最大のGDP国である米国は1人当たりでは7位になる。

 ちなみに、日本の1人当たりGDPは世界30位(3万3800ドル強)。GDPは3位だが、随分と乖離(かいり)がある。ピリリと辛い山椒のような国になるにはどうすればいいか─という国家的命題である。


基本軸をしっかり

 コロナ禍は一段落の感があるが、世界経済を見ると、欧米ではインフレが進み、高金利で景気後退も考えられる事態。中国の景気減速は明確だし、日本もデフレからの完全脱却が課題という状況。

 このような混沌とした状況にあって、国も企業も、また個人もどう生き抜いていくかという命題。

 複雑な要因が絡み合い、それらに押し流されそうな状況だが、基本軸がしっかりした組織は強い。

 もっとも、頑(かたく)なな原理主義ではポッキリ折れてしまう。そこは原理・原則をしっかり持ち、流れを活用するという〝しなやかさ〟、〝したたかさ〟も時に要求されるということである。


最大たるより最優たれ

『最大たるより最優たれ』─。

 中堅生保の富国生命保険は今年、創業100周年を迎えた。

 戦前、鉄道王といわれた東武鉄道の創業者・根津嘉一郎が1923年(大正12年)に設立した富国徴兵保険相互会社が前身で、戦後、生命保険会社に転換した。歴史の胎動の中で保険業を営んできたわけだが、現社長の米山好映(よねやま・よしてる)さんは第9代社長になる。

 初代社長の根津嘉一郎から、第2代・吉田義輝氏を経て、戦後間もなく第3代社長に就いたのが小林中(あたる)(1899―1981)氏。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)の初代総裁を務め、その他にも、東急社長、日本航空会長なども務めた財界リーダーで、当時、〝影の総理〟ともいわれた人物。

 同社の中興の祖・古屋哲男氏(第6代社長)はバブル期、「不動産を買うな、保険の本筋を離れた一時払養老保険はストップ」と号令をかけ、営業の本質を追求した。

 歴代社長もその時々の環境の変化に遭遇しながら、生保のあるべき姿を追求。生保会社は、国民に『安心・安全』を提供する保険営業と、預かった保険料の資産運用の2つを主要業務にする。この2つを成り立たせるために、自分たちはどう振る舞うべきかということ。

 自分たちのパーパス(使命)は何か? 量(売上)ではなく、質の追求ということだが、現社長・米山さんは、「最大たるより最優たれ、という考えです」と語る。


資産運用の本筋とは?

 岸田文雄政権が自らの政策の中核に、国民の資産形成を掲げ、『資産運用特区』をつくろうとしている。

〝貯蓄から投資へ〟の掛け声が言われて久しい。高度成長時代から証券投資が推奨されてきたが、日本人の貯蓄志向は根強い。

 国民の金融資産約2000兆円のうち、約1100兆円が預貯金で全体の55%を占める。株式は約200兆円で全体の約10%、債券・投資信託は110兆円強で6%弱、その他、保険、年金など約540兆円(全体の27%弱)という構成である。

 中長期に個人の金融資産を増やす狙いの新NISA制度が2024年からスタートする。若い層もこの新NISAに関心を持つ人たちが増えているのは結構なことだ。

 そうした中、今、銀行や証券を含む金融界では、一種の〝資産運用ブーム〟を呼んでいる。

 それはそれでいいとして、前出の富国生命社長・米山好映さんは、「銀行や証券業という仕事と、本来のアセットマネジメントは仕事の質が違うんです」と語る。

 証券会社や銀行が投信の子会社をつくって、社長を送り込む─。日本でもアセットマネジメントは独立したものという筋道論としてある。そこで、銀行員や証券会社の人間が天下りし、社長になって実質的に資産運用会社を差配するのはおかしいと金融庁も指摘。

 銀行(間接金融)と証券(直接金融)の垣根が取り払われ、「これからは証券化の時代」と銀行もIBD(投資銀行業務部門)を中心に、証券業務への参入が相次ぐ。

 逆に証券会社も一部銀行業務を手がけるなど、〝融合〟が進む。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)もあって、金融も変化していくのだが、資産運用の仕事は本来、銀行や証券業務のように、手数料で稼ぐ仕事とは異なる─というのが米山さんの持論だ。


自分たちの使命とは

 自分たちの仕事の原点とは、何か─。環境激変期で先行き不透明なときだからこそ、この問いかけが必要である。

「われわれ生命保険会社は2つの営業、(顧客の安心・安全を図る)保険の営業と、お預かりした保険料で資産運用をやっていくことを車の両輪にしています」

 富国生命・米山さんはこう語り、過去100年の歴史は、この原点を日々の営業で確認する歴史だったと語る。

 第6代社長・古屋哲男氏は、バブル経済で同業他社が株と不動産投資に動き、売上高を増やしたのを尻目に、「株を買うな、不動産を買うな」と部下を戒めた。

 経営破綻する生保も出たが、富国はこの間に財務基盤を固めた。

「不動産投資を積極的に進めるライバルに売上で抜かれたりしましたが、結果的に堅実になる基盤がつくれました」と米山さん。

 みんなで渡れば怖くない、とばかりに流行を追うことの危険性である。原理原則に則る経営は強い。

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