阪急文化財団・仙海義之理事が語る”生誕150年・小林一三が今を生きる我々に伝えたいこと”
財界オンライン / 2023年10月28日 11時30分
阪急電車や宝塚歌劇、阪急百貨店、映画興行、住宅経営、ホテルなど数々の事業を興した阪急東宝グループ(現・阪急阪神東宝グループ)の創業者・小林一三(雅号:逸翁(いつおう))が生まれてから2023年1月3日で150年を迎えました。
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小林は1873年に山梨県韮崎市にあった製糸業・酒造業・金融業の商いをしていた小林家の本家で生まれました。幼少期から商売を身近で見てきたのですが、19歳のときに慶應義塾を卒業し、三井銀行で本店勤務の後、大阪支店に赴任します。この銀行員時代の経験が後の小林の才覚を芽生えさせました。
事業家としての小林が何を大事にして事業を営んできたか。それを紐解くキーワードが「資金」「土地」「電力」の3つです。
まず資金では、莫大な先行投資が求められる阪急電車の建設において小林は日本で初となる社債を発行しました。34歳まで銀行マンとしてのキャリアを積んだことで、いかにして資金を工面すれば良いか。綿密な資金づくりの計画を練っていたのです。引受先が〝調査の野村〟と言われる野村商店となったことで阪急の信頼は上がりました。
映画や演劇を興行する劇場の経営においても、周囲からは単なる文化事業にお金を投じることに疑問の声が上がりました。「山師の仕事ではないのか?」といった反応もあったほどです。しかし小林は〝石橋を叩いても渡らない〟というほどの慎重かつ緻密な事業計画書を練り、「いける」と分かればまさに猪突猛進。一気に新劇場のオープンへと突き進みました。
次の土地は現在の東宝グループの不動産事業につながります。小林は銀行員として調査課に配属された際、全国の支店を視察して回りました。そのときに小林は会社の資産の神髄は土地にあると気が付きました。
1932年に東京・日比谷に「東京宝塚劇場」を創設すると、「百館主義」を掲げ、全国に多くの映画館を造ってチェーン化し、映画界の川下を押さえる戦略を展開しました。小林はそのとき人々が集まりやすい一等地を仕入れていったのです。
現在の東宝グループが保有する優良な資産が、映画事業を下支えする不動産事業の礎となったのは、この理由からです。本業である映画事業が苦しくなっても、不動産事業で下支えする構図は小林の先見性が花開いていると言えるでしょう。
最後の電力では、小林は電力こそ産業の基盤であると捉えていました。鉄道には電力が欠かせません。そこで小林は阪急電車の沿線に発電所を設置。そんな電力事業の知識も持ちながら事業を興した小林は1927年には東京電燈(現・東京電力)の経営の立て直しにも当たり、見事にその任を果たします。
しかも、このときに余剰電力の有効利用策として昭和肥料株式会社(現・昭和電工)を設立し、次いで日本軽金属も設立。 そして、関西電力を始め、日本の電力業界の指導的役割をも果たすようになったのです。
そんな小林が現代を生きる私たちの生活を見たらどう思うでしょうか。誰もが自分のやりたいことが自分だけでできる時代になりました。一方で小林の事業観は一貫していました。それは人々が集い、皆で楽しむこと。小林は美術品を収集していましたが、その目的は美術品の収集を成すよりも、美術品を通じた社交を楽しんでいたのです。
阪急阪神東宝グループでは、小林の生涯を描いた「小林一三生誕一五〇年展」を11月5日まで日比谷シャンテで開催。小林が今の私たちに訴えたいことを読み取っていただきたいです。
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