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亀田総合病院理事長・亀田隆明「重症患者を受けいれる最後の砦の機能を果たし、軽症・中等症患者は他の病院へと、手分けしました」

財界オンライン / 2023年11月13日 15時0分

亀田隆明・医療法人 鉄蕉会 亀田総合病院理事長

感染ピーク時に受け入れを拒否する病院が続出した新型コロナ危機。「どこの病院も受け入れを拒否したが、当院はほぼ断らなかった」─。こう語るのは千葉県南部の鴨川市を拠点とする亀田総合病院理事長の亀田隆明氏。安房地域の医療を守る一方で、基幹病院として広域の人々の命を守ることの使命感を語る。そんな亀田氏は日本の効率的な医療体制の構築などに対し、「例えば支払い方式の変革なども必要」と訴える。日本のあるべき医療の姿とは?

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コロナ下3年半の総括

 ─ 亀田総合病院は千葉県鴨川市、南房総市、館山市、鋸南町の3市1町を包括する安房医療圏の基幹病院です。コロナ下の3年半の包括とは?

 亀田 中国・武漢で発生した新型コロナ感染症(以下、新型コロナ)がどんなものなのか全く分かりませんでしたから、最初は現場も非常に混乱しました。2020年1月には武漢からのチャーター便第1便での帰国者を千葉県の「勝浦ホテル三日月」で受け入れることになりました。そこで当院の感染症専門医と看護師が24時間体制で診療と観察を行いました。

 当初はそれほど重症にはならず、そこまで深刻ではないと思っていたのですが、その直後に寄港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での集団感染が発生し、事態は一変しました。

 ─ 当時は感染症に対する日本の医療体制の不備が指摘されたりもしました。

 亀田 日本は新興感染症に対する防衛が全くできていませんでした。最初、政府は37.5度以上の熱が5日間続かなければPCR検査はする必要がないという方針を出したのですが、早期に感染者を発見して隔離するというのが感染拡大防上の観点からの常識だとすると、まったく理にかなっていない方針で、しかも、検査をするのは国立感染症研究所のみというものでした。要するに、政府は新興感染症によるパンデミックなど想定しておらず、検査体制も全く整っていなかったのです。

 当院では、2009年にメキシコで報告された新型インフルエンザの流行が危惧されたとき(実際は流行に至らず)の経験からPCR検査がきちんとできる診療体制をいち早く整え、少しでも感染が疑われる患者にはすぐに検査を実施できるようにしました。病院内でクラスターが発生したら、病院としての機能が止まってしまうからです。

 ─ その決断からのスタートだったということですね。

 亀田 幸いなことに、房総半島は都心から離れていましたので、そこまで大規模な感染は起こりませんでした。新型コロナは欧米で100万人規模の感染者が発生し、多くの方が毎日のようにたくさん亡くなりました。しかし私個人としては、アジアでは重症になる患者数が欧米に比べても少なかったので、アジア人に対する毒性は欧米人に比べそれほど強くないのではないかと考えていました。

 そこで発熱外来を積極的に行ない、重症の入院患者を受け入れる重点施設として手挙げしました。重症の基準は肺炎を起こし呼吸器管理が必要かどうかです。必要な場合には集中治療室と集中治療専門医による治療が必須となるので、当院が積極的に受け入れることにしました。

 一方、人工呼吸器を付ける必要のない軽症・中等症の患者は、感染病床を持つ南房総市立富山国保病院などで受け入れてもらうよう関係者で話し合い、早い段階で役割分担を決めました。


変異を繰り返するウイルス、新たな手術室を半年で設置

 ─ 緊急事態宣言が発出されたときはどうでしたか。

 亀田 行動が制限されると病院としても通常の診療ができなくなりますから、経営的にも一番苦しかったです。その後、空床の補償などの措置が講じられ、当院も何とか踏ん張ることができるようになりました。

 ところが次に発生した21年のデルタ株によるパンデミックのときには、東京都もそうでしたが、千葉県下の病院でも重症者用の集中治療室(ICU)が逼迫して入院を断るケースが続出し、救急車による急患の受け入れ拒否が相次ぎました。

 理屈から言えば、ウイルスは自分が生き残るためには宿主に生きていてもらわねばなりません。中国広東省で2002年に報告され、パンデミックが警戒されたSARSを覚えておられると思いますが、毒性が強すぎたため感染拡大は限定的でした。今回の新型コロナはそこまで強毒性ではなかったので感染が急速に拡大したのだと思います。

 しかし変異をくり返せば徐々に弱毒化するはずなのに、デルタ株は日本では重症者が急増しました。私見ですが、欧米やグローバルサウスなどで変異したデルタ株は日本人にはなじみがなく重症化しやすかったのではないかと考えます。

 ─ それだけ厄介なウイルスであるということですね。

 亀田 ええ。歴史上ではだいたい3年間で終息しているのですが、逆輸入されてきたデルタ株は重症化率が高く、感染力が強いままでした。

 デルタ株のパンデミック時では当院でも重症患者数が178人にのぼりました。そのうちの3分の2が柏市や松戸市、千葉市などの県北や東京都など医療圏外からの患者でした。

 ─ それだけ地域でも頼られる存在であったと。

 亀田 最後の砦だと自負していましたからね。特に当時問題になっていたのが切迫流産の危険があるコロナ陽性妊婦の受け入れです。多くの病院が受け入れを拒否せざるを得なかったのですが、当院は一度も断りませんでした。それを可能にするために当院が考えた秘策が新しい手術室の増設です。

 22年2月末には、感染症対応の手術室2室を含むB棟第2手術室5室が完成しました。もともと手術室の増設計画が進行している最中にパンデミックが起こり、急遽、感染症対応手術室を救命救急センターから最も近く、他の手術室エリアから独立した場所に設定し直しました。

 前室を陰圧にすることで空気感染の対策をしつつ、清潔な空気が必要な手術室内は陽圧に保つことができるシステムを完備したことで、安全性と利便性が向上し、あらゆる状況でも躊躇なく手術に踏み切れる環境が整いました。現在当院と亀田クリニックを合わせ、計28室の手術室が稼働しています。

 ─ これは日本初の取り組みだったのですか。

 亀田 そうです。新型コロナの感染が拡大したときに計画を変更するよう現場に指示したところ、当院の品質管理の責任者が病院設備の国際学会で発表されたこの仕組みをキャッチし、提案してくれたのです。



手術数はコロナ下でも増加

 ─ こういった多額の投資がかかる決断ができたのは亀田さんのオーナーシップですか。

 亀田 大学病院が手術室を新設する場合、だいたい5年近くかかります。しかし、今回の当院の取り組みは構想を得てから半年ほどで完成に漕ぎつけることができました。そのお陰で病院をたらい回しになっていた患者を当院で受け入れることができたわけです。

 そもそも患者を断るという発想は私たちにはありません。コロナの患者の命を助けることも大事ですが、それ以外の多くの患者の命も当院は基幹病院として預かっています。急性期医療を必要とするあらゆる患者が、いかなる状況下でも安心して治療に向き合える環境は必要不可欠でした。

 コロナ下で各病院の手術数は大幅に減りました。しかし当院はコロナ下でも手術数を毎年700~800例の規模で増やしています。

 ─ 今はオミクロン株が主流ですから安心できませんね。

 亀田 オミクロンはデルタとは別物です。急性呼吸器症候群はほぼ起こさない点がデルタとは大きく異なります。ですから、2類から5類に分類されたのも相当だと思います。

 外来専門の亀田クリニックには毎日2000人以上の外来患者が、また亀田総合病院には毎日多くの入院患者が来院します。新型コロナで入院治療中の患者数は約30人であまり変わっていません。その意味では、補助金もほぼなくなりましたから、病院の再編が起きてもおかしくはないと思いますね。

 ─ 年間の社会保障費が約140兆で、医療費は約44兆円です。財政が厳しくなる中で人口も減る。日本の医療体系をどのようにすべきだと考えますか。

 亀田 やはり効率を高めることが必要です。産業界でもゾンビ企業という言葉がありますが、十分な活動実態のない企業を補助金などで生き延びるようにしていては産業界全体のクオリティが上がりません。これは医療の世界でも同様です。

 財政出動をしなければならないとしても、受ける医療のレベルが低いままでは問題があります。ある程度、淘汰されていくことが必要ではないでしょうか。そもそも日本の病院数は世界と比較しても圧倒的に多く、約8000強あります。しかもほとんどが小規模です。

 一方で米国は人口が日本の約3倍ですが、病院数は約5000です。他国でもおおむねそのような割合です。ある程度集約しないと医療レベルも上がりませんし、働き方も改革できないでしょう。例えば、60床の病院の場合、当直のドクターが必ず1人必要になりますが、常勤医が3人しかいなかったら成り立つでしょうか。そういう事例が山ほどあるのです。

 ─ 政治決断になりますか。

 亀田 そうですね。本来であれば、制度を変えることが最も効果的ではないかと思います。例えば、支払い方式です。日本では患者が入院する場合、診断群分類に基づいて在院日数に応じた1日あたりの定額報酬を算定する診療群分類包括評価(DPC)になっています。

 これを米国のように、疾病ごとに、治療内容や入院日数にかかわらず、あらかじめ決められた一定額の報酬を支払う1入院あたり包括支払い方式(DRG)にすれば、早く治して退院を促進させるインセンティブが働きます。DPCだと長く入院させた方が、収益があがる仕組みになってしまいます。

 同様にDRGであれば、同じ病気で手術も同じ場合には、手術を一度で成功させれば収益につながり、うまくいかなければそこからは病院側の負担になります。ただ、DRGでは手術が成功すると、すぐに退院しなければなりません。このあたりのバランスをうまく考えていけば、効果的な手法になると思います。


「オルカ鴨川FC」が初優勝

 ─ 何事もバランスが大事ですね。さて、今年は亀田総合病院がスポンサーを務める女子サッカーチームがリーグ初優勝を果たしましたね。

 亀田 女子サッカーのプレナスなでしこリーグ1部の「オルカ鴨川FC」が創立10年の節目の今年、リーグ初優勝を果たしました。そもそもこのチームは東日本大震災によって引き起こされた福島第一原発の事故で、日本サッカー界初のナショナルトレーニングセンターだったJヴィレッジが閉鎖されたことがきっかけで生まれました。

 当時日本サッカー協会に知り合いのいた当院のスポーツ医学科の医師から提案があり、女子サッカーチームとして14年に創設されました。選手の多くが亀田グループの職員として働き、夕方から練習に汗を流し、毎週末、公式戦に臨むというスケジュールをこなしています。

 そんな彼女たちが優勝したことで、地域の皆様にも元気を与えることができたのではないかと思っています。

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