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“ジョブ型”雇用システムの導入から3年、『富士通』ビジネスモデル改革の成果と課題

財界オンライン / 2023年11月6日 18時0分

2024年度上期には本社を東京・汐留から川崎に移転。個人の働き方やオフィスのあり方の見直しが続く(写真は新本社となる川崎工場)

適材適所ではなく適所適材という考えで
「社員のエンゲージメント(働き甲斐)向上のためにも、自ら手を挙げて新たなジョブに挑戦する環境が求められていた。ポスティングを大幅に拡大したことで、社内の人材の流動性が高まり、人材の獲得競争が激しくなった。組織の長はマネジメント力を高め、組織の魅力を語れなければ、組織から優秀な人材は去り、維持できなくなってしまうので、マネージャーの目の色が変わってきた」

 こう語るのは、富士通執行役員EVP CHRO(最高人事責任者)の平松浩樹氏。

 2020年4月から、幹部社員を対象に「ジョブ型」と呼ばれる雇用システムを導入した富士通。22年4月からは一般社員にも導入し、1年半が経った。近年、日立製作所や三菱ケミカルなどの企業が導入して話題になったジョブ型制度だが、その狙いはどこにあるのか。

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 ジョブ型とは欧米の企業で一般的な働き方で、職務をジョブディスクリプション(職務記述書)で明確にし、仕事に人を割り当てるもの。一方のメンバーシップ型とは、職務が限定されず、人に仕事を割り当てる。平松氏の言葉を借りれば、「適材適所ではなく適所適材」という考え方だ。

 新卒一括採用で、今いる人ありきで考えていた組織や仕事のあり方を見直し、戦略やビジョンをまず描き、それに必要な組織やポジションを決め、戦略に沿った人材を中途採用も含めて社内外から獲得していく。いわば、日本では長く当たり前だった新卒一括採用・年功序列型の人事から脱却し、グローバル標準のジョブ型人材マネジメントへ移行しようとしているのが富士通である。



 同社では社員の要望を受けて、社内インターンシップや社内副業に向けた制度を導入。また、会社や上司に仕事やキャリアを考えてもらうのではなく、自らが自律的にキャリアを考える「キャリアオーナーシップ」研修を実施。社内のWEB上で簡単な質問に答えるだけで、自分自身のキャリア状況が診断できる「キャリアオーナーシップ診断」も始まった。

 2020年には、翌年の新任課長600人のポジションを、上司の推薦ではなく、全て意欲を持った人たちのポスティングで決めると宣言。その結果、この3年間で、国内グループ8万人のうち、2万人近い社員が何らかのポジションに応募し、7千人が合格している。

「想定以上に社内の人材流動化が高まり、キャリアオーナーシップ意識の向上につながっていると思う。この人材の流動性の高さを個人と組織の成長につなげていきたい」(平松氏)

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 こうした施策の結果、同社の調査によると、社員のエンゲージメントポイントは2019年度の63から22年度の69に上昇。ただ、同社が目標とする75にはまだまだ遠いのが現状だ。

 一般的にジョブ型のような実力主義を取り入れると、どうしても社員の会社に対する帰属意識が薄れてしまうと思うのだが、その辺のバランスはどう考えているのか?

 平松氏は「繰り返し言っているメッセージが自律と信頼。会社は社員を信頼して制度設計をし、社員の行動を促していく。そして、社員は安心して、信頼関係のもとに自律的にチャレンジし、キャリアを考えていくと。自らキャリアを選択しなければいけないのは、ある面では厳しいかもしれないが、会社から信頼されているからこそ自分で選択できるんだということで、従来よりも会社に対してのエンゲージメントは改善してきているのではないか」と語る。

 キャリア論が専門の、法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔氏は、「仕事は与えられるものではなく、社員が自ら生み出していくもの。ジョブ型を根付かせない限り、日本企業の躍進は無い」として、主体的なキャリアオーナーシップができていれば、結果的に会社への帰属意識は高くなると指摘。

 その上で、「ジョブ型の目的は、人材をコストではなく資本と捉える人的資本の最大化。ただ、メンバーシップ型で同期がいて共同体的な組織ができているのは日本の強みでもあるから、欧米のジョブ型をうのみにせず、自分たちの可能性を伸ばし、人を活かしていく日本的でハイブリッドなジョブ型を目指してほしい」と語る。



会社がキャリアを決めるのではなく…

 富士通の2023年3月期の連結売上収益は3兆7137億円、営業利益は過去最高益となる3356億円。売上収益利益率は9.1%と、真のグローバル企業を目指すのであれば、最低限となる利益率2ケタまでもう一歩のところまできた。

 同社は今、大きな転換点にある。それは社長の時田隆仁氏が繰り返す「IT企業からDX(デジタルトランスフォーメーション)企業へ」の変革だ。

 同社は昨年、メインフレーム(大型汎用コンピューター)の生産を2030年で撤退することを決めた。2022年まで出荷台数は23年連続国内市場シェア1位を維持し続けているだけに、業界内では衝撃が走った。国内首位の企業であっても、もはやサーバーなどのコストを削減でき、柔軟にシステムを拡張できるオープン化、クラウド化の流れには太刀打ちできないことの裏返しでもあるからだ。

 今後、富士通が目指すのは、サービスソリューション(ITサービス)の拡大。25年度までの3年間に同分野の売上高(22年度は約2兆円)を20%向上させる計画で、ハードありきだった従来のビジネスモデルを改め、収益性の高いデジタル・クラウドサービスに注力する考え。

 こうした流れの中、〝手段〟として出てきたのがジョブ型雇用システムへの移行。雇用システムから改革し、働く人の意識を変え、企業文化を変えていかないと、グローバルでの競争に打ち勝つことができないからだ。

「ジョブ型への移行に当たり、組織設計のあり方や報酬制度、事業部門を起点とした人材マネジメント、キャリア育成など、それぞれの施策が関連していることを丁寧に説明し続けているので、大幅な制度改革について社員の腹落ちはできていると思っている」(平松氏)

 会社として、このような方向性を打ち出した結果、22年には50代以上の幹部社員約3千人が希望退職に応じた。今回の雇用改革の成果は、ビジネスモデルの転換が成功するかどうかのカギとなると言っていい。

 平松氏は「持続的な企業価値向上を実現するのが人的資本経営の目的。そのためにはビジネスにアサイン(割り当て)した人材ポートフォリオを描いて、そのギャップを戦略的に埋めていく必要がある。富士通含む日本企業の低成長の原因は、これを戦略的、大胆にできていなかったからではないか」と指摘。

 その上で「とても難しいチャレンジだが、データを最大限活用し、試行錯誤からの学びも可視化して、経営や人事が継続的に人材ポートフォリオの議論をしていきたい」と語る。

 会社がキャリアを決めるのではなく、これからは自らが決める時代。富士通が真のグローバル企業へ変革するためには、社員それぞれの意識改革が成否のカギを握っている。

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