久保利弁護士の「わたしの一冊」『RISE ラグビー南ア初の黒人主将 シヤ・コリシ自伝』
財界オンライン / 2023年11月4日 11時30分
南アフリカのラグビーの強さと国家改革の物語
著者のプレイ映像を見たかったので、この原稿は朝4時に始まったワールドカップ準決勝「南ア対フランス」戦のテレビ中継を見ながら書いている。著者は背番号6を付け、キャプテンとして、フランカーとして縦横の活躍をした。
著者はアパルトヘイトが残る1991年に、ポートエリザベス中心近くのタウンシップ(旧黒人居住区)で誕生した。誕生の翌日にはアパルトヘイト体制を支えてきた根幹法とも言うべき人種登録法、原住民土地法などが廃止されたが「選挙法」など多くのアパルトヘイト法はまだ残っていた。人種差別と犯罪と貧困と家庭崩壊の中でコリシは成長した。そんな彼を救ったのがラグビーだった。
2018年には、彼は南アフリカ代表チーム「スプリングボクス」初の黒人キャプテンに就き、2019年のワールドカップ(WC)では優勝した。
本書は南ア国民の分断と殺人やレイプのはびこるこの国をラグビーにより超克しようとするシヤ・コリシの半生伝である。
勿論、世界一のプロラガーの伝記だから、著者が参加した名勝負が選手の心理も含めて具体的に描き出されている。ラグビー愛好家にとっては垂涎の的となる場面の連続である。
2015年WC予選リーグの初戦で強豪南アが日本の猛攻を受けてトライを許し、苦杯を喫する場面の描写は真に迫っている。一方、2019年大会の決勝トーナメントでは日本を完璧に押さえ込んだ力の差を感じさせる描写が繰り広げられる。ラグビーに関心を持つ読者にとっては、たまらない迫力である。
しかし、コリシはただのプロラガーではないから、南ア改革の社会活動家としての見解も打ち出されている。今32才の彼は「ラグビーは天職ではなく、その仕事はまもなく終わる」と述べている。その後の人生はラグビー人生より長く、より意義あるものとなろう。
アフリカの未来とラグビーに関心を持つものにとって、貴重な一冊である。
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