みずほ銀行「スタートアップ支援」に見る金融像の変化、「取れないリスクを取るために知恵を絞る」
財界オンライン / 2023年11月22日 18時0分
日本になぜ「GAFA」が生まれないのか─。この命題は様々な観点で議論されているが答えは出ていない。わかっているのは、日本とアメリカではスタートアップ市場の厚みが違うこと。この差を縮めるために日本政府も動き出した。だが、状況を変えるには起業家魂を持った人材が出て、それに対して資金供給する金融機関が必要。みずほ銀行は長年、この課題に取り組んできたが今、注力すべきことは─。
日米のスタートアップ市場は大きな開きが…
「我々は、この10年ほどスタートアップの支援に注力してきたが、まだまだ足りない」と話すのは、みずほフィナンシャルグループ社長の木原正裕氏。
みずほはスタートアップ支援に力を入れている。スタートアップが次々に誕生し、そこから育った「GAFA」が世界を席巻しているアメリカに対し、日本では国の成長を牽引するような新興企業は育っていない。
数字にも表れている。日本の「ユニコーン企業」(評価額10億ドル以上、設立から10年未満の未上場ベンチャー企業)は足元で11社。対するアメリカには650社あるとされる。
また、スタートアップ企業の資金調達額でも、2022年で日本が8774億円に対し、アメリカは前年から3割減らしたとはいえ約36兆円と桁違い。
日本政府もようやく動き出した。22年11月に「スタートアップ育成5カ年計画」を策定。スタートアップへの投資額を現在の8000億円規模から、27年度には10倍以上の10兆円規模にすることを目指す他、ユニコーン企業を100社、スタートアップを10万社生み出し、日本をアジア最大の「スタートアップハブ」とする目標を掲げている。
この実現に向けては官民挙げての取り組みが必須。だが日本にはまだ、起業家の数、アメリカのようなデジタル技術、スタートアップの潜在力を見極めるベンチャーキャピタル(VC)の目利き力、そしてスタートアップに投資される資金量など、不足しているものが多い。
そうした中で資金供給の担い手としての金融機関の役割は重い。「我々の取り組みは日本の中で、かなりのレベルにあると自負しているが、他の金融機関と競争するのではなく、みんなで協力して市場を大きくしていきたい」と話すのは、みずほ銀行イノベーション企業支援部部長の金田真人氏。
みずほ銀行では、この10年以上、スタートアップ支援に注力してきた。同行を中心に運営するスタートアップ企業向け会員サービス「Msʼ Salon」は会員数約4000社を数える。
ただ、銀行を中心とする金融グループとして常につきまとうのが「預金者のお金をリスクのある先に投じていいのか」という議論。「そこは常にジレンマを感じている」と金田氏。
その課題に対し「普通にやったら取れないリスクを取るためにどうしたらいいか」(金田氏)について日夜知恵を絞ってきた。
スタートアップの成長ステージはシードステージ、アーリーステージ、ミドルステージ、レイターステージの4つに分けられるが、成長が見極めにくいシードの企業に対しては、VCが運営するファンドにLP(Limited Partnership)出資をし、間接的に支援するという手法を取る。
そこで構築したVCとの関係を生かして、スタートアップが次の段階に成長した際には、グループのVCであるみずほキャピタル等が投資をするという流れをつくることができる。
直近で「取れないリスクを取る」ための取り組みは、そのみずほキャピタルが23年8月に設立した「みずほベンチャーデットファンド」。スタートアップが発行する新株予約権付社債を引き受けて資金調達を支援する。
長期の融資を供給するのは難しい、ミドルステージで、時価総額100億円弱くらいの規模のスタートアップに対してリスク性資金供給に活用している。メガバンク系では初の取り組み。
他にも23年4月には投資専門子会社・みずほイノベーション・フロンティアを設立し、スタートアップ等への出資を検討。「スタートアップの各段階に対して、少しずつ前倒しして支援するようにしている」(金田氏)
今後、日本のスタートアップがユニコーンを目指す上では、国内市場だけでなく海外市場での成長も目指す必要があるが、その海外市場に不透明感が漂う。
最大市場であるアメリカのスタートアップの資金調達額は前述の通り、22年に前年比3割減少したが、FRB(米連邦準備制度理事会)による急激な利上げにより、ベンチャーキャピタルなどが資金調達しづらくなっているのだ。「スタートアップ冬の時代」とも言われるほど。
また、日本のスタートアップ資金調達額は着実に増加をしているものの、「まだ起業家が足りない」(金田氏)。資金が入ってこないから起業家が出てこないのか、起業家が出てこないから資金が入らないのか、これは「鶏と卵」の問題に例えられる。「確かに優秀層が起業するようになりつつあるが、まだ『寄らば大樹』という傾向は強い」(同)
金田氏自身、マサチューセッツ工科大学(MIT)への留学経験を持つが、アメリカでは「MITやスタンフォード大学の最優秀層ほど起業している」(同)。ただ、その起業が失敗しても、大手企業で働いたり、再チャレンジをしたりというサイクルが回っている点が日本と違う。
今なぜ、スタートアップが求められているのかと言えば、デジタル技術を起点に新産業が生まれると同時に既存産業の構造が大きく変化しているからだ。銀行も、デジタル技術で他の産業との垣根が大きく下がった。
みずほ自身、システム障害を経て経営体制が変わり、木原氏以下経営陣は「カルチャー」を変えようと動く。一方、渋沢栄一が設立した第一勧業銀行、安田善次郎が創業した富士銀行、「工業の中央銀行」との志で設立された日本興業銀行と、旧3行はいずれも、日本の殖産興業の中で産業金融に取り組んできた「DNA」がある。
安定経営が求められる銀行だが、リスクを取らなければ生き残れない時代。新たな金融の時代を迎えていることは確かだ。
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