大和総研副理事長・熊谷亮丸氏の提言「日本経済が抱える5つの課題」
財界オンライン / 2023年11月23日 7時0分
激動の2023年も、いよいよ終盤に差し掛かってきた。
筆者が、2024年に向けて、岸田政権に特に注力してほしい政策は以下の5点である。
第一に、継続的な賃上げを実現するためには、労働生産性の引き上げが喫緊の課題だ。
そのためには①人的資本を中心とする無形資産投資を促進して、労働者の「エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)」を向上、②グリーン化、デジタル化、規制改革などを通じて、企業の成長期待を高める、③企業の新陳代謝を促すことで、供給過多から企業が値下げ競争に陥っている現状を是正、④「失業なき労働移動」を進めて、経営者が好況期に社員の賃金を安心して引き上げられる環境を整備、⑤外国人高度人材の活用や女性のさらなる活躍を推進して、ダイバーシティ(多様性)を高め、イノベーション(技術革新)を起きやすくする、⑥デジタル化や組織のフラット化などを進めて、企業や政府の業務効率を改善、⑦コーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化、といった、わが国の労働生産性引き上げに向けた多面的な施策を同時並行的に講じる必要がある。
第二に、わが国の成長戦略の柱として、GX(グリーントランスフォーメーション)と DX(デジタルトランスフォーメーション)を不退転の決意で推進するべきだ。
GXは、経済と環境の好循環実現に向けたカーボンプライシング(炭素税、排出量取引等)の導入に加え、鉄鋼会社、自動車部品会社などの円滑なトランジション(移行)をサポートすることなども重要だ。
第三に、第二のポイントなどとも密接に関係するが、成長戦略の「一丁目一番地」である規制改革には、引き続きしっかりと取り組むべきだ。特に、医療・教育分野のデジタル化や、エネルギー分野の規制改革などが極めて重要である。新たな政策課題として急速に国民の注目度が増している「ライドシェア(自動車の相乗り)」に関する規制改革も、迅速に進めてほしい。
第四に、「全世代型社会保障改革」こそが「新しい資本主義」における公的な分配戦略の柱となる。「人生100年時代」なので、負担能力のある高齢者には支え手に回っていただき、医療提供体制の改革や社会保障給付の効率化などを通じ、現役世代の負担増を抑える一方、勤労者皆保険の実現や少子化対策の強化などに取り組む必要がある。
第五に、岸田政権が掲げる「資産所得倍増プラン」や「資産運用立国」の実現に向けた施策を着実に推進することが肝要である。2024年は、非課税投資枠の拡大や投資期間の無期限化などを柱とする「新NISA制度」がスタートすることもあり、わが国にとって長年の課題だった「貯蓄から投資へ」という資金シフトの実現に向けた期待感が非常に高まっている。
筆者は24年に向けて、以上の様な観点を踏まえつつ、経済政策に関する議論が一段と深まることを期待している。
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