連合会長・芳野友子「税も社会保障も企業の中での手当の在り方も、共働き中心の制度に変えていくことがベストです」
財界オンライン / 2024年1月25日 7時0分
来春の賃上げについて、「まだ中小企業を中心に、労務費を含めた価格転嫁ができていないので、そこの取り組みを強化していきたい」と連合会長の芳野氏。そして、財政難もある中で、社会保障の改革が要求される今、何が大事か? 会長2期目の芳野氏は抱負として、「意思決定の場の女性参画比率を50%に早く上げたい」と強調した。
30年ぶりの賃上げ高水準次の取り組みは?
─ 今日は総括も含め、賃上げ目標、それから生き方・働き方改革についてお伺いしたいと思います。まずは1期目の総括と2期目の抱負を聞かせていただけますか。
芳野 1期目の総括としては、賃上げ、ジェンダー平等、多様性推進、社会的対話の推進、国際労働運動などについて触れたいと思います。
会長就任以来、連合運動の全てにジェンダーの視点を入れていくということで、ジェンダー平等、多様性推進については、必ず発言の中に訴え続けてきています。その結果として、連合内の今期の女性役員比率が40%を超えたことが成果です。
それと、物価が上がっているので、実質賃金は上がらなかったわけですが、23年度は3.58%の上昇で、30年ぶりの賃上げ高水準だったというのも一つの成果かと思います。
2期目の抱負は、女性参画ということで、意思決定の場の女性参画比率が、今期やっと40%台になりました。しかし、国際的には最低40%、だいたい50%が基準です。50%を早く実現したいと考えています。
─ 連合は12月1日の中央委員会で、2024年の5%以上の賃上げ要求を決めましたね。
芳野 ええ。2023年に続いて2024春季生活闘争については、労務費を含む価格転嫁がどれくらいできるかということが、結果として賃上げにつながるかと思います。
まだまだ中小企業を中心に、労務費を含めた価格転嫁ができていませんので、そこの取り組みを強化していきたいと思います。
─ 業種、あるいは各企業の収益状況が違うので、そこを含めて考えていく必要がありますね。
芳野 はい。私たち労働組合は、労働者であり生活者ということも考えますと、1人親家庭や生活困窮者などの課題について、どれだけ寄り添うことができるかということを考えています。
地方連合会中心に子ども食堂やフードバンク、給食費無償化の署名活動など、いろいろなことを地方連合会の中で取組の強化をしています。
─ この正規、非正規という問題は、依然として日本の課題としてありますよね。
芳野 そうですね。コロナ禍で、フリーランスで働く方も増えましたし、また非正規雇用労働者も非常に増えたということで、非正規雇用労働者の皆さんの組織化ももちろん重点としてやっていきたいと考えています。
あと、最近ではフリーランスも増えているので、やはり集団的労使関係の中に入れていくということも大事と考えています。「Wor-Q(ワーク)」という、ネットで緩くつながる取り組みもしていて、そこの強化もしていきたいと。芸術芸能分野を中心に取り組んでいるところではあります。
─ 芳野さんはこれまで連合会長を1期2年やってこられて、嬉しかったこととは何ですか。
芳野 やはりジェンダー平等、多様性推進の学習会が、地方連合会でも構成組織でも増えたことですね。比較的地方連合会の構成組織は、女性組合員が多いのですが、すごく女性が元気になってきた気がします。
─ 女性が自信をつけたというか、強くなったというか。
芳野 そうですね。やはり自分たちも頑張ろうという気持ちになってきているのではないかなと思います。そういう学習会があると、やはり同じような立場の人たちが集まってきて、お互いに励まし合ったり励みになったり、同じ課題を共有している人たちがここで頑張っていると思うと、自分も頑張ろうと思います。行くところ行くところ女性たちが輝いている気がします。
現代に合わせた税制改革を
─ 年収が一定以上を超えると社会保険料の支払いが発生し、扶養家族から外すという『106万の壁』や『130万の壁』について、対象者は女性が多いと思います。このことは日本の制度設計そのものにつながってくるわけですが、連合としてはどのように考えていますか。
芳野 まず、税・社会保険料について、おそらく学ぶ場というのが多くはありません。
学校教育でもおそらくこのことは教わらないのです。それを専門に勉強しない限り、普通にそのまま高校を卒業してから社会に出ても、大学卒業してから社会に出ても、まずこれをきちんと知識として身につけている人は非常に少ないと思います。
企業に入れば給与から控除されますから、例えば年金がこのくらい控除されますよとか、健康保険がありますよとか、そういうのは会社から言われたとしても、そのことの本来の目的だとか、引かれた後それがどう使われているのかとか、意外とそういうことは学ぶ場がないと思うのです。国民的議論を巻き起こすためには、そういったことを学ぶのもとても重要じゃないかなと思います。
連合としては、『106万の壁』の解消に関して、社会保障・税制の抜本的な見直しが大前提だと考えています。
─ どのような税制の抜本的改革が最適でしょうか。
芳野 今回の暫定的な支援策では、壁の根本的解消につながらないだけでなく、2025年の次期年金制度改革までの一時的な措置であったとしても、社会保険料を雇用保険料で充当することは、妥当性や労働者間の公平性からしても問題であり、理解できないというスタンスです。
こうした施策を検討するプロセスとしても、本来であれば労働政策審議会で審議をするということが大前提ですが、そこでの議論を経ずに対策を検討したこと自体が問題であると思います。それこそ、ILOの三者構成原則に則った政労使の審議会を軽視しているのではないかと思います。
─ これを強く主張していくということですね。
芳野 そうですね。やはり社会保険料を負担している者と、社会保険料を負担せずに給付を受ける労働者の間で、不公平にならない制度とするべきだと思います。
特に第三号の、厚生年金保険や共済組合等に加入している会社員や公務員の方に扶養されている配偶者の方で、原則として年収が130万円未満の20歳以上、60歳未満の方ですね。
これは職場の分断を招いてしまう可能性がありますので、そういったことがあってはならないと思います。この第三号の問題については、連合としてはやはり「性」に中立的な制度にしていくということが大前提だと考えています。
例えば第二号(70歳未満の会社員や公務員など厚生年金の加入者)で働いている女性が親の介護で退職をした時に、結婚をしていれば第三号になれますが、結婚していなかったら第一号(厚生年金保険や共済組合等に加入していない自営業者、農業者、学生および無職の方とその配偶者の方)扱いです。
第三号になった時に、負担はしないけれども給付は受けられるわけです。じゃあその分を夫は扶養されている妻の分まで払っているかというとそうじゃないのです。
これはまったくおかしな話で、そこの部分をやはり支払っている側がみんなで負担をしているわけです。
企業の中での例えば扶養手当、配偶者手当なども、大体、税・社会保障の扶養の範囲内で手当を支給しているケースが多い。そうすると、結果としてやはり女性たちは支給されないので、ここでも不公平感が生まれてきてしまいます。
─ バブルがはじけて92年から93年くらいに、片働き世帯よりも共働き世帯の方が増えましたね。
芳野 そうです。リストラに遭い、奥さんたちがパートで働き始めた家庭も多かったと思いますが、もうその時点で片働き世帯よりも共働き世帯の方が増えています。
税も社会保障も企業の中での手当の在り方も、共働き中心の制度に変えていくことがベストです。
─ それを30年放置してきたツケが今出ていると。
芳野 はい。そこになかなか手を付けることができなかったのではないかと思います。
─ その体制でずっとここまできてしまったこと。
芳野 はい。今まで労働組合サイドでも、意思決定の場にいる女性は現在40%になりましたが、この間も意思決定の場が男性中心でしたので、やはり第三号を抱えている男性たちが意思決定の場にいればそういう考え方になります。私は80年後半からずっと組合活動をやっていて、最初から第三号はおかしいというのは言っていたのです。
女性の役員はみんなそう言っていましたが、女性役員が意思決定の場にいないので、なかなかそれが議題に上がってこなかったのです。いいとか悪いとかではなく、時代の流れとしてそのような流れになっていました。
─ 共に働く意味は何かという本質的な問題も含めて、いろいろ議論が必要ですね。
芳野 はい。私が第三号問題の話をしたら、ある雑誌にそれが載った時に、働く女性vs専業主婦の女性みたいな見出しになったことがあって。
決してそうではなくて、この問題は働く女性vs専業主婦を抱える男性です。
第三号が残っていると、単身の高齢女性が貧困になってきます。報酬月額に比例して年金も計算されるので、若い時から給与もちゃんと上げていかないといけないと思いますし、社会保険もちゃんと性に中立的にしておかないといけないと思います。
月例給与が退職金にも影響していますから、女性は三重苦になってしまいます。女性の方が長生きしますから、性に中立的であり、どんな人生を歩んでもちゃんと保障される社会をつくっていかなければいけないと思います。
独身・既婚か、子どもがいるいないとかではなくて、どのような人生を歩んでも保障されるのが、本来の社会保障の在り方だと思います。それをやっていくには本当に大変ですが。
─ 大変ですね。昭和36年国民皆保険をつくった時以来の大改革ということになりますね。
芳野 はい。均等法が制定されたのは1985年。その時に女性に年金権ということでできました。あの時の議論の中で均等法ができると、女性がどんどん働きに出て働き続けられるようになると、内助の功が失われてしまうという考え方もありました。それで、女性はなるべく家の中でという考え方があったという話が、当時の自民党政権内にあったという話も聞きます。
健全な労使関係があれば企業も発展する
─ 連合の組合員の組織率はいま16.5%ですが、これについてはどうお考えですか。
芳野 連合の組織化は、労働相談からの組織化がまずメインで、2030年までの組織拡大の計画を持っています。それを地方連合会と本部と一緒になって達成に向けて、取組強化をしていきます。
おそらく連合は、労働組合に入っていない皆さんからすると、声を掛けにくい組織ですごくハードルが高いと思うんです。だからもっと私はハードルを下げなきゃいけないと思っています。
理由は健全な労使関係があった方が、企業も発展するからです。そこで働いている人たちの幸せも、労働組合があった方が担保できます。
働いている人たちのモチベーションを上げることも労働組合の役割なので、企業にとっても働く人にとってもウィン・ウィンの関係を築けると思っています。
そういう意味でこちらから何かお手伝いできればと、今期から取り組み始めています。
─ 企業も単独では生きていけないからつなぐということですね。会長の言葉としては組合員にはどのような言葉を投げかけていますか。
芳野 私は会長に就任する時に、ガラスの天井を突き破るという話をしたのですが、やはりチャンスが回ってくるということはそうあることではないと思うのです。
だから、特に女性たちには、チャンスが来たらまずそのチャンスに対する答えは、『はい』か『イエス』か『喜んで』にしましょうということを言っています。
とにかくやってみるということです。
─ 前向きにやろうと。
芳野 はい。前向きの方が楽しいですし。
課題は常にあるものなので、その課題に対してスピード感を持って解決していかないと、気がついてまごまごしているうちに、もう時代は変わってしまいます。
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