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ANAHDが進める〝バーチャル旅行〟ビジネス  「リアルの旅を楽しめてこそ…」

財界オンライン / 2024年1月24日 11時30分

リアルとバーチャルをつないだ新しいメタバ-ス旅行体験ができる「ANAグランホエール」

バーチャル空間で自分の分身が国内外の旅行先を訪れ、地域の名産品なども購入できる─。そんな仮想旅行プラットフォームを世界で初めて運営し始めたANAホールディングス(HD)。なぜ飛行機を飛ばして移動を支えている同社がバーチャル空間での旅行体験を提供するのか。その背景には〝航空一本足〟の事業構造からの脱却と新たな航空需要の創造という2つの狙いがあった。

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バーチャル空間で旅行・買い物

 コロナ禍のどん底から回復基調に乗り出した航空業界。街中で外国人の姿が目に留まるようになり、年末年始の地方のリゾート地にあるホテルなどでは日本人の宿泊予約で満杯になっている。そんな中で新たな一手を繰り出したのがANAHDだ。

 同社はインターネット上の仮想空間「メタバース」で、国内外の観光名所への旅を疑似体験できる新サービスを始めた。新サービスの名称は「ANA GranWhale(グランホエール)」。スマートフォンのアプリを使ってメタバース上に再現された国内外の観光名所を自分の分身(アバター)で訪れる。

 しかも、バーチャル空間の中にはショップもあり、アバターに着せるデジタルアイテムだけでなく、実際に手にできる商品も購入可能だ。さらにはマイルも貯めることができる。さながら専用ゲーム機でゲームをしているような感覚になるほどだ。

 実はANAグランホエールの総合プロデューサーはロールプレイングゲーム『ファイナルファンタジーXV』を世界的にヒットさせたJP GAMESの田畑端氏。バーチャル空間における旅行やショッピングなどの消費体験を通じて、リアルを超える体験消費ニーズに応えるという意気込みでの開発だった。

 ANAグランホエールは2つの空間で構成。1つがバーチャル旅行空間の「V-TRIP」。もう1つがショッピング空間「Skyモール」だ。アバターは自由にメタバース内を歩き回り、国内外の観光スポットを巡ったり、気に入った観光地の名産品やナショナルブランドの商品を購入することができる。

 V-TRIPでは京都や北海道、沖縄など国内61カ所と海外3カ所の計64カ所を訪れることができる。Skyモールの店舗はアパレルのSHIPS(シップス)やスイスのマウス・フレール・ホールディング傘下のラコステ、スポーツメーカーのミズノ、飲料品メーカーの伊藤園など10店舗とANAグループによる4店舗が出店している。

 そもそも飛行機を飛ばして移動というサービスを提供しているANAHDにとって、メタバース事業はどんな意味を持つのか。執行役員未来創造室長兼新規事業開発部長の津田佳明氏は「現在、航空機を使っている人は全世界人口75億人の中の1割にも満たない。時間、距離、身体能力、地政、経済的な面で様々な制約にとらわれている人がたくさんいる。その人たちが制限にとらわれずに移動できる手段を提供していく」と話す。

 同社はメタバース以外にも遠隔操作可能なロボットを使って異なる複数の場所に自分を存在させて物理的に物を動かしたり、触ったりすることができるサービスの開発にも取り組んでいる。アバターもデジタル空間上の移動の提供となる。

 ただ、ANAグランホエールはバーチャル空間の移動だけに留まらないようだ。1つは約4000万人にのぼるマイル会員を中心とした「ANA経済圏」の形成だ。ANAグランホエールでは「グランチップ」と呼ばれる仮想通貨を獲得でき、デジタルアイテムの交換や「マイルガチャ」と呼ばれるくじ引きでANAのマイルが当たる。マイルを核にした商圏をつくり、新たな収益源をつくる狙いだ。



航空事業への波及効果

 もう1つが本業の航空事業への波及だ。「リアルな航空会社のANAがバーチャル旅行を提供したら飛行機に乗らなくなるのではないかと言われるが、全く逆だ」─。このように話すのはANAグランホエールの開発・運営を担うANA NEO社長の冨田光欧氏だ。

 冨田氏によれば、旅の価値とは、現地を訪れて、独自の体験をし、地元の人と会話をすることだが、「それらはバーチャル空間では再現できない」と話す。むしろ、バーチャル空間で旅先の良さを知り、リアリティを感じれば感じるほど、逆に現地に行きたくなると強調する。

 そうなれば、ANAの飛行機を使ったリアルな移動の需要が創出される。「メタバースのサービスで旅行を体験しても、リアルの旅の価値は絶対に下がらない」(同)というわけだ。コロナ禍でデジタル空間が広がり、旅行に行かなくなるといった声も出ていたが、現実にはそうなっていない。

 もちろん、コロナ禍で旅行需要の蒸発という危機に直面したANAHDにとって〝航空一本足〟の経営にはリスクがある。同社社長の芝田浩一氏は「メタバース事業のメインターゲットは東南アジアや欧州などの外国人。メタバースを通じてANAのブランドが高まれば、本業の航空に還流してくる」と話す。

 同社は今後数年で売上高のうち非航空事業を足元の約2000億円から4000億円に引き上げる計画を掲げる。ANAグランホエールも現在は日本や東南アジアなどの利用者が対象になっているが、今後は北米や欧州での展開も予定している。

 ANA NEOは既にNFT(非代替性トークン)事業への参入も発表しており、ANAグランホエールと合わせて、今後は〝バーチャル体験〟を軸に、この2つのサービスの連携・融合を図っていく考え。その先には教育や行政サービスといった分野が集合する「Skyビレッジ」構想にもつなげていく。

 世界初の取り組みとなるANAグランホエール。リアルとバーチャルが相互に刺激・融合して航空事業を拡大させることは間違いなさそうだ。

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