「日本発のサーモンを」オカムラ食品 工業社長・岡村恒一の養殖戦略
財界オンライン / 2024年1月31日 15時0分
「日本は厳しい消費者の目があるからこそ良い商品ができる」と語るのは、青森県で日本初大規模養殖サーモン事業を展開するオカムラ食品工業社長・岡村恒一氏。日本を含めた世界での需要が高まるサーモンに商機を見出し、2005年からデンマークのサーモン養殖会社を買収。その知見を活かし、2017年から青森県で屋外式養殖場をつくり、生産を始めた。「味も物流も日本品質のもので外食企業と共に戦う力強いパートナーとなり、世界で日本企業が力をつけられるようにしていきたい」と岡村氏。水産資源の枯渇で転機を迎える水産業のテコ入れとなるか─。
サーモン需要の高まり
世界規模でのヘルシー志向の高まりにより、1970年頃から始まった寿司ブーム。中でもサーモンの人気はすさまじい。国内では回転寿司で一番人気のネタは12年連続でサーモン(マルハニチロ「回転寿司に関する消費者実態調査2023」)。
その消費量は右肩上がりで増加。世界でも水産物の消費量として多いのがサーモン。「海外ではファミレスタイプの店における寿司メニューの6割はサーモン。サーモンがあれば寿司屋ができるくらい人気の魚です」と話すのは日本最大規模のサーモン養殖事業を展開するオカムラ食品工業社長の岡村恒一氏。
水産庁によれば、日本における食用魚介類の1人当たりの消費量は、2001年の40.2㎏をピークに減少を辿り2021年は23.8㎏となった。しかし、世界で見ると過去50年で一人当たりの食用魚介類の消費量は2倍に増加している(国際連合食糧農業機関(FAO)調べ)。特に、アジア、オセアニア地域では経済発展による中間所得層の生活水準向上がその数を牽引する。FAOによると、持続可能な天然の水産資源の漁獲量は1980年代から横ばいの一方で、養殖業の収獲量は急激に伸び続けている。2030年には養殖は総漁業生産量の約79%にまで増えると言われ、更なる養殖需要の高まりが予測される。
もともと海外には、衛生的に生で食べられる魚は少なく、生魚の調理技術も文化もなかった。養殖サーモンは寄生虫であるアニサキスの心配がないため、消費が一気に拡大。約200年前からある江戸前鮨にはサーモンのネタはなかったが、アニサキス0の養殖サーモンの出現によって、ここ20年間で生で食べる文化が人々の間に定着してきた。
しかし、需要がこれだけ高くても、莫大な設備投資と技術、漁業権などを含めた様々な問題があるため、養殖ビジネスを開始するのは容易ではない。
日本各地ではご当地サーモンは100箇所ほどあるが、どれも小規模である。
サステナブルな未来食材である養殖サーモンの可能性
そのような国内外のサーモン人気にいち早く目をつけ、2005年から養殖サーモンの供給に着手してきたのがオカムラ食品工業。同社は1971年に青森県で創業。筋子を求めて北米や北欧に赴きビジネスを展開。当時一番の高級品であったデンマーク産の筋子の取引を始めたことをきっかけに、2005年デンマークの養殖企業で国内トップ3のMusholmを買収した。それによりサーモン養殖のノウハウを蓄積していき、冷涼な青森県での養殖を考えるようになる。
産官学を巻き込み最初は養殖の可能性を探る調査から始め、2007年日本最大規模のトラウトサーモン養殖をスタート。2023年9月、青森県では16年ぶり4社目の上場会社となり、地元・財界の高い期待も背負っている。
「サーモンというのは100%完全養殖が可能であり、コントロールしやすい品種。肉と同様、家畜化しやすいのです」と岡村氏。サーモンは肉食禁止の宗教地域も食することができ、健康にも良い食材。生食が可能で過食部分が多く、他の魚に比べて養殖コストが安い。
通常牛肉1キロを生産するのに10キロのトウモロコシの餌が必要となるが、サーモン1キロは3キロの餌で済む。サーモン養殖の技術先進国ノルウェーでは、その1/3の餌で生産可能となっている。マグロやウナギなどのように、天然の魚を捕ってきて、養殖場で大きくする天然環境依存に対し、完全養殖可能なサーモンは生態系に影響を与えない未来的な食材であると注目される。
同社では、2022年6月期には1600トンの水揚量を達成し、2025年6月期には3240トンに成長させる計画。現在の取引先は大手牛丼チェーン(朝定食として)、寿司チェーンなどの外食大手や、スーパー、デパートに並ぶサーモンは大半が同社の商品。国内での生食サーモン自給率8%のうち、同社のシェアは半分を占める。
ウクライナ戦争による影響で、現状99%をチリやノルウェーなどからの輸入に頼るサーモンの市場価格が高騰したことにより、輸送コストがかからない同社の需要も大きく高まった。
日本産養殖サーモンが一大産業となり得るか
同社では海外卸売の加工品にも注力している(売上比率約2割)。特にニーズの高いアジアに特化し、東南アジア、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム地域で流通がある。
「これらの地域はまだ正確な物流クオリティがない地域。日本では当たり前である確実な納品がされない状況下、われわれの物流サービスは優位性を取れる」とその地域でのインフラ構築にもチャンスを見出す岡村氏。「海外進出している日本の外食企業と世界で共に戦っていくパートナーとして存在感を示していきたい」と力を込める。
海外での販路を拡大しインフラ構築ができれば、グローバルで戦う日本外食企業の総戦闘力もさらに高まる。現在インバウンド客から「安い、美味しい」と言われる日本が、その強みを伸ばすチャンスでもある。
現在、水産最大手のマルハニチロと三菱商事で進めている富山県入善町でのサーモン陸上養殖は25年度の稼働開始、27年度の初出荷を目指す。大手も本格参入してくれば、国の一大産業として日本産養殖サーモンは大きな可能性を秘めている。
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