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松竹社長・髙橋敏弘「海外の人へ、配信を含めた映像で松竹文化を広めていきたい」

財界オンライン / 2024年1月28日 11時30分

髙橋敏弘・松竹社長

2023年5月に就任した松竹社長の髙橋敏弘氏。バブル経済崩壊後、松竹再生に奔走した前社長・迫本淳一氏(現会長)から19年ぶりの社長交代。伝統の歌舞伎興行を引き受ける立場から「新作歌舞伎と古典とのバランスをみて、攻めの姿勢でチャレンジしていきたい」と意気込む。映画・歌舞伎が主要事業の松竹にあって入社した後は財務畑から出発。松竹の強さ、そして課題も数字面で捉えてきた。リモート勤務も共存しながら「うちは人と人が話さないと企画が生まれてこない会社」と対面での企画・打合せを重視する髙橋氏。メールやLINEも駆使しながら「コミュニケーションの質を大事にしたい」と語る。


インバウンド取り込みに向けて

 ─ 観光でのインバウンドが戻ってきて、日本の良さが改めて見直されています。松竹は日本の歴史文化に関わる事業を展開しているわけですが、まず社長としての抱負を聞かせてくれませんか。

 髙橋 歌舞伎に関して言えば、コロナ禍の間は厳しい状況でした。徐々に回復していますが、団体のお客さんが減っているところを埋めるという面でも、インバウンドの需要をさらに取り込んでいこうと考えています。

 海外の人へ、配信を含めて映像を活用し松竹自体を広めていく手段を今考えています。海外の人に、松竹という会社は、日本の伝統文化を継承して舞台とか映画をやっている会社だと認知を高めてもらうと。そして、向こうの団体客でもチケットを手軽に購入できる仕組みを作っていきたいと思います。

 ─ 若い世代にアピールするために、映像を活用する考えもあるようですね。歌舞伎の舞台の配信もしていますよね。

 髙橋 ええ。以前は歌舞伎俳優さんの中にも、やはり生で観ていただきたいと、舞台の映像化に少々抵抗がある方もいらっしゃいましたが、コロナになってから考え方が随分変わってきました。若手俳優さんたちにも発信を積極的にしてもらって、まずは映像で海外に情報発信したうえで、日本への旅行に来た時に実際の舞台を観てもらう流れにしたいと考えています。

 ─ そういう大変な環境変化の中で髙橋さんは社長に就任されたわけですが、社員にはどういった言葉を投げかけていますか。

 髙橋 今年までは5月にコロナが5類に移行したものの、俳優さんが罹患し休演になったり、演劇界の状況は厳しかったと思います。心機一転2024年からは本格的に攻めていこうと言っています。

 映画・映像事業についてはまず、実写にもっと力を入れていきたいです。松竹は日本の映画会社3社の中では一番数を多く製作していると思いますし、興行収入が10億円を超える規模のヒット作品と言われるものに関しては自信を持っていますが、もっとオリジナル作品が自社製作でできるといいなと思っています。

 今はテレビドラマの映画化がビッグヒットとなっていますが、日本映画として、映画会社・松竹が一から手掛ける作品で、興行収入30億円とか50億円を目指せるような企画を打ち出していきたい。製作本数は年間目標10本、これをしっかりとやっていきたいです。

 ─ 興行では全体的にアニメが非常に好調ですね。

 髙橋 ええ。好調ですが、まだまだ伸びしろがあります。弊社も2020年にアニメ事業関連の部署を大きくしたので、2024年ぐらいからその成果が出てくると考えています。

 ─ 歌舞伎俳優の市川猿之助さんの事件などもありましたが、そういったこともふまえて今後経営の舵取りをどう進めていく考えですか。

 髙橋 演劇事業中心に、海外のインバウンド需要を取り込むことが一番です。また、歌舞伎においては世代をつないでいくことを常に意識して、作品作りも多様な形で展開していくことを重点的にやっていかなければと考えています。

 幸四郎さんや團十郎さん、また菊之助さん、勘九郎さんなどの世代が活躍していますが、染五郎くんであったり、團子くんであったり、若い世代も伸びてきているので、その勢いを加速させていきたいです。後継問題は必ず付きまといますが、今は父の姿を見て自分もやりたいという子供たちが多いようです。

 ─ 大変頼もしいですね。

 髙橋 はい。その中で、新作歌舞伎と古典とのバランスをみて、攻めの姿勢でチャレンジしていくことが歌舞伎界のブラッシュアップにつながると思います。

 ─ 支持世代が広がれば、お客様との色々な連携が生まれたりして、ビジネスにより広がりが出てきますね。

 髙橋 そうです。アニメ作品、新しい原作の映画など、様々なジャンルの話題作とも連携し、歌舞伎に取り入れていくということをしていっています。

 演出面でも様々な技術を駆使した革新が進んでいくと思います。例えば、通常舞台背景は実際に絵を描いていますが、スクリーンや液晶ディスプレイなどを導入し、映像を駆使した演出を取り入れるなども可能ですよね。舞台づくりや演出も常に新しいものを取り入れて400年以上にわたり常に進化して変化してきたのが歌舞伎なので、これからも伝統と新しさを組み合わせた歌舞伎にしていきたいと思っています。古典の良さに時代に合わせ新しさを加味していくことで、お客様の期待に応える続けることができると思います。

 ─ では改めて、大学を出てから松竹に入社した経緯から聞かせてくれませんか。

 髙橋 父親が松竹の社員でしたので、慣れ親しんでいたこともありました。小さい頃から松竹で映画を観たりしていましたし、社員の人柄も良くて、会社としては古いですが規模もあって資産も持っていて。入社したらそこで転職しないでやっていくということを考えた時の安定性で、長く勤められるなと思ったのが一番です。

 ─ やはり入った時は、お父さんも喜んでくれましたか。

 髙橋 実は父は私が18歳で高校生の頃亡くなったんです。だから父には就職先について全く相談はしていません。

 ─ 最初は経理でしたが、自分から希望した部署ですか。

 髙橋 いえ、希望はまったくしていないです。でも今となってはいろんな意味でためになるので良かったです。会社全体の勉強はできるし、会社というのは経営ですし。皆からは嫌でしょ?と言われましたが、自分としてはそうでもなかったです。

 ─ 全体が見られますからね。経理をやっていて今、経営に役立っていることは具体的にありますか。

 髙橋 会計がわかるので当然、会社の状況が一目見てわかることですね。その後のキャリアでも、資金調達や会社の統廃合など、様々なことを勉強できました。

 バブルがはじけた後、1998年に、当時の奥山融社長の解任がありました。現名誉会長の大谷信義が社長に就任、現会長の迫本も参画し、いろいろな不良債権や膿を出す作業が行われました。わたしはその頃は経理課長になっていました。そういう悪いものを全部出していく作業や、やめていく決断ばかりをずっとやっていましたね。

 だから本当に大変でした。会社が潰れてもおかしくないくらいの状況だったので、そういう意味では、それも勉強になりました。

 ─ このときちょうど30歳でしたね。大変なことばかりでしたが、どんな気持ちで仕事をしていましたか。

 髙橋 そうですね。100年以上続いている会社ですし、会社を良くして何としてでも残していくにはと奮闘していました。

 松竹はもうだめなんじゃないかと、結構言われたりもしましたが、応援してくれる方も多くて、そういう支えがあったので悪いものは出すということを決断していきました。

 ─ 入社して34年経たれていますが、印象に残っている良い出来事などはありますか。

 髙橋 よくも悪くも、わたしは大きく感情が動くということがなくてですね。辛いと思うことも意外に少なく、いつもピンチはチャンスと言い聞かせています。悪い時の方がやる気がでるタイプです。

 だからあまり、楽観視をしない性格かもしれません。もちろん映画がヒットするなど、瞬間的にはとても嬉しいのですが、何かにすごく大喜びをするとかがあまりない人間です(笑)。

 ─ 経理担当だと社内外での相談も色々と対応することがあったのでは?

 髙橋 そうですね。会社の決算が単体から連結に移る頃でしたので、その対応でしたり、会計システムも導入する頃でした。私が入社した頃は手書きで、課長になる頃にはもう機械に代わるという変化の時代だったので、そういう意味ではとても勉強になりました。

 経理システムの導入もやりましたし、会計には強いです。手書きの伝票からシステムにする時には、とても大変でした。年配の人は苦手意識があって反対も多かったです。

 ─ 変革の時は常に既成とのぶつかり合いですからね。

 髙橋 そうですね。芸能界の文化もこれからもまた新しいステージに入っていくと思います。コロナがあって色々なリアルが止まってバーチャルが進み、でもコロナ明けでまたリアルに帰ってきて、それをどうやって今後展開するか今考えています。芸能界はガバナンスも変わってきて、過重労働やハラスメントの問題を解決しながら、また新たなエンターテインメントに向かっていくと思います。

 ─ やはりお客さんは実物を見たいと。

 髙橋 ええ。だからリアルと配信の融合的なことや、映画館のような場所で皆と共有しながら観るとか、多様な形でミックスすることで、また新しいエンターテインメントが生まれてくるなと。

 ─ タレントのAIによるフェイク問題がありますが、これはかなり現実の問題になっていますか。

 髙橋 はい。AI利用は脚本家が参考とする分にはいいとか、資料のもとになるデータを収集するだとか、既存の物と上手く融合することができれば最高ですが、丸々それを利用するだけではだめです。AIには感情がないので、映画で描かれるようなAIが勝手に知能を持って暴走するようなことは絶対にありません。基本的には、人間がどう使っていくかにかかっていますね。

 ─ やはり主役は人だと。

 髙橋 はい。これは映像の世界や舞台の世界にも同様に言えることです。


映画会社の働き方改革基本は対面で

 ─ 経営者の考え方によっても違いますが、リモート勤務と出社の勤務体系についてはどう考えますか。

 髙橋 うちは人と話さないと企画が生まれてこないし、対面でないとみんなでこうしようああしようとアイディアを練ることが難しい。オンライン上での対話は限界があると思っています。

 製作委員会などの定例会議や、大勢が参加する会議はオンラインで良いと思っています。その分代わりに普段社員と会って話したり、企画会議を増やしたりすることに時間を回すのが一番良いと思っています。

 日本は家が狭いので、仕事のスペースを自宅に構えるのはなかなか大変ではないでしょうか。それだったらもう出社してしまった方が楽だったりしますよね。

 ─ 社員同士で気楽に声をかけて情報を交換して、何かあったら集まればいいということですね。

 髙橋 そうですね。人と人ですからきちんと対面で会って、顔を合わせて話さないと上手く伝わらないことがあると思いますし、人間性も掴めない。メールやLINEだけでやり取りをしているとコミュニケーション不足に陥り、最終的にはハラスメントなどにもつながってしまうのではないでしょうか。

 普段から目を見てよく話し合うことが一番大事なことだとわたしは考えています。

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