オエノンホールディングス社長・西永裕司「『価格優位性』では利益がなかなか上がらないので『価値優位性』に転換しました」
財界オンライン / 2024年1月30日 18時0分
「付加価値の高い良いものをほどよく飲む層と、リーズナブルでコストパフォーマンスのよいものを飲む層と、二極化しています」と西永裕司氏。もう一つのキーワードとして多様性を挙げ、「昔懐かしいチューハイ」シリーズなどレトロ商品や「ご当地チューハイ」シリーズなど地域性のあるものを商品化。同社はコロナ禍の直撃を受け、前期(22年12月)売上高811億円・12億円の赤字だったが、今期(23年12月)は売上高855億円・利益22億円になる見通し。西永氏は全国に広がる工場や販売拠点によく足を運ぶ。「会社全体で情報の共有化をはかり、共通の思いで仕事をしていきたい」と語る。
PB商品の利益率を改善 業界全体にも明るい兆し
─ コロナ明け後、値上げ浸透も進んで業績は好調ですね。
西永 はい。昨年度は屈辱的な赤字で、今年度は2024年に創業100周年を迎えるということもあって最低限黒字に持っていき、適正な利益を確保するということに固執して対応を図っていこうかと。
これまでは、巨大なビール4社と対抗するために、かなり価格戦略的な部分を進めてきたわけです。
しかし、それではなかなか利益を得ることができないと、抜本的に利益重視にシフトしました。ですから物量を追わず、とにかく利益を上げる、限界利益率をアップさせていきましょうということで進めています。
─ 原料高と円安による価格転嫁を顧客側も理解してくれたと。
西永 ええ。やはり価値のある商品であれば、当然ながらそれに見合う価格で売っていく。これを現場営業が妥協せずに取引先と交渉した結果です。
─ PB商品は特にその要素が大きかったですか。
西永 そうですね。それまでPBというのは、なかなか利益が取れない商品でした。工場の稼働率を上げて、相対的なコスト低減を進めてきたわけですが、当然PB商品も原料高の影響があり、値上げをしました。
大手組織小売業からご理解いただくのには時間がかかりましたが、当然ながら、win-winの関係を保っていくために、我々の考えもしっかり聞いていただけました。
─ 業界全体で変わって来ていると。
西永 はい。事業を継続させるためには、お互い現状維持では難しいことを話し合いました。妥協せずに進めていった結果として、今期の大幅な業績回復に繋がったと思っています。
─ お酒の世界は酒税法改正によってその都度変化しますね。
西永 その通りなんです。酒税は上がったり下がったりします。今まで酒税法改正のタイミングで増税額以上の値上げはなかなか難しい構造でした。
─ 外食業務用はどうですか。
西永 今までは飲み放題プランに代表される大量消費を前提とした仕入れ価格がありましたが、もうそれではやっていけません。
居酒屋に行っていただいたらわかりますが、ビールジョッキがどんどん小さくなっているんですよね(笑)。
─ 人々のお酒の飲み方は大分変わってきましたね。
西永 はい。健康志向というか、これまでのように飲んで酔っぱらう致酔性を追う世界ではなく、お酒を本当にたしなむ、楽しむということで、飲酒スタイルが変化してきました。
一方でまだリーズナブルなもので良い気分になりたいというニーズもあります。
付加価値の高い良いものをほどよく飲む層と、リーズナブルでコストパフォーマンスのよいものを飲む層と二極化していて、今足元のほうは、後者のほうが強くなってきてる。
─ 具体的には?
西永 たとえばチューハイの500(ml)缶、アルコール度数が9%の高いもの。それでリーズナブルな商品が年配の方々に非常に人気があります。うちの商品で1番の大きなニーズがあるのがこの年配層ですね。
─ 働く女性が増えていることも関係していますか。
西永 はい。やはり女性の社会進出が大きく影響していると思います。多くの方が働いていますから、ストレスを癒す一つの手段として、お酒というアイテムを活用される流れがすごく大きくなってきたと思います。
─ そういう生き方、働き方の変化の中で、今後どんな商品の打ち出し方をしていきますか。
西永 二極化にどうタイムリーにアプローチしていくかが大きなポイントになるのではないかと。
もう一つのキーワードとしては、多様化。今まではチューハイ1つとっても、レモンサワー一辺倒だったのが、フレーバーが非常に多種多様化しています。
うちの商品では、たとえば「昔懐かしいチューハイ」シリーズでメロンソーダや、コーラフロートなど、いわゆる昔の喫茶店で皆さんが飲まれたものを1つのフレーバーとしてチューハイに変えてみたという商品があります。
─ 例えていえば、昭和のイメージですね。
西永 いわゆる「昭和レトロ」という1つのキーワードの中で、当然年配の方が懐かしいといって飲むことも多いのですが、若い方が「昭和レトロ」に興味津々なのです。飲んでみると、すごく甘くて飲みやすいということで、数字を伸ばしている。さらに言うと、「NIPPON PREMIUM(ニッポンプレミアム)」シリーズといって、日本各地の特産物を原料にして商品化すると、消費者から非常に興味を持っていただけます。長野県のシャインマスカットや福島県の白桃、愛媛県のいよかんなど多数あります。
─ 他に特徴的なものは?
西永 北海道ではソウルドリンクのガラナ飲料を使ったチューハイや、浅草では昔、ビートたけしさんが通っていた「捕鯨船」という居酒屋さんが提供している昔ながらの下町チューハイなどです。地域に特化したエッジを利かせた商品はうちならではの差別化商品です。
ですからPB商品はもちろんのこと、NB商品の売上も増えているんですよ。
市場規模は前年並みですが、うちは2割くらい増えていて、海外への輸出も増えています。
─ 海外売上は全体の何割ですか?
西永 まだ売上高800億円のうち1%程度です。特に台湾向け輸出が増えていて、今後は韓国も含めたアジア圏への輸出の強化を考えています。
価格ではなく価値で戦う 社員の意識改革が進んだ
─ 社員に向けてはどういう言葉をかけていますか。
西永 自分を信じるということを言っていますね。
これまで「価格優位性」を1つのキーワードとして進めてきましたが、利益がなかなか上がらない。それを「価値優位性」に転換した中で、本当にうちの会社で値上げができるのかと社員も半信半疑でした。
ただここを転換しないことには黒字にはならない。はたまた次の100年を迎えることはできないという危機感を、社員一人一人が実感したと思います。
わたしは、全国各地の事業所を回って会社の現況を話しました。従業員と対話したことで、意識改革が進んだと思っています。
─ 北海道から九州まで工場や販売拠点がありますね。
西永 ええ。当社はホールディングス会社なので、事業会社がいくつかあります。縦割りで分散しているのですが、その中で、グループ各社が交流を持つ場はなかなかないです。
しかし事業所ミーティングをやるとなると、皆さん各事業会社から集まって来るので、そこで情報の共有や、共通の思いを共有できました。
それによって社員が同じ目標を持ち団結し、全体の求心力が高まったと思います。現場に行って、わたし自身もそれを感じることができたことが大きな成果だったと思います。
─ 西永さんが言っている「現場」「現物」「現実」の「三現主義」ですね。社長になって何年頃から手応えを感じてきましたか。
西永 残念ながら昨年度、赤字に転落してしまいましたので、いわゆる人員の見直しで希望退職を募ったこともあり、社員のモチベーションがぐっと下がってしまったことは否めませんでした。
そのような状況下で、もう一度、社員の士気を高めることが今年は非常に大事な年になるだろうと。そうしないと、持続的に収益を上げる企業にはなれません。離れてしまった社員の気持ちがいま少しずつ回復して結果が出てきて好循環に入れてきていると思います。
結果が出たことで、自分を信じて進めてきたことに間違いなかったということが立証されたということです。
─ 西永さんは社長就任から8年経ちましたが、これまでを振り返ってどうですか。
西永 就いた時には、非常に負の遺産が多かったので、まずそれをとにかく整理することからスタートしました。
端的に言いますと、リストラクチャリングを率先して進めてきました。そのあとさあこれからという時にコロナと原料高騰がきて、出鼻をくじかれた一昨年でした。ですから、やっとここでさらなる成長が望める土台は構築できたのかなと思います。
─ 常に諦めず前向きに生きて来たことが功を奏したと。
西永 わたしが諦めてしまったら、従業員の方を路頭に迷わせてしまうので、やはり強い気持ちを持って進めていかなければいけないと自分に言い聞かせてきました。
人材教育・社風
─ 西永さんの人材にかける思い、教育方針は?
西永 まずは会社自体がおもしろくて魅力的でないといけないと思っています。自分たちが考えていることが実現できるという、やりがいがある会社であるかどうかを重視しています。
会社としては方向性を一つにして向かっていきますが、こういうアプローチをしたいと社員が言ったら、「いいんじゃない、やってみたら」と、かなり柔軟に挑戦できる社風です。自主性を重んじる会社ですので、そこに魅力を感じて「この会社おもしろいな」という社員の自己満足の高まりをくり返していくことが、大事だと思っています。
─ 今後の事業展開で注目されるのが、発酵技術を活用した酵素医薬品がありますね。
西永 はい。主力商品は「ラクターゼ」という乳糖分解酵素です。よく牛乳等を飲むとお腹がゴロゴロする方がいらっしゃいますよね。でも、このラクターゼを添加した牛乳等を摂取すると、お腹の不調が低減されるという作用があります。
砂糖を添加するとカロリー増加になりますが、健康志向が高まっているので、カロリーを抑えながら甘みを向上させるため、近年はヨーグルトで使われていることが多いです。この事業は海外比率9割で、実は世界シェア3位です。
現在は60億円の売上規模なので、100億円事業に拡大をしていくのが目標の一つです。
小樽の酒屋の子どもに生まれて
─ 西永さんが仕事において大切にしていることは何ですか。
西永 市場感覚ですね。全国を回って必ず近隣の有力とされるスーパー等を見て、どういった商品がいくらの価格で販売されているか観察するのも重要な仕事です。地域によってかなり差は大きいですから。
これをしないと机上の空論で、上がってきているデータだけではなかなか判断できません。実際に見て得た感覚を伴って、経営判断をしていきたいので、確認作業でもあります。
─ 社長就任から嬉しかったことはありますか。
西永 あまり一喜一憂せず平常心で淡々とやっています。客観性、達観性を持って、決して一時的な感情で対応を進めることをしないように心がけています。
─ 出身は小樽でしたね。
西永 はい。実家は小樽で酒屋を営んでいました。
ですから、子供の頃からお酒は身近なものでした。
近くにゴム会社があったので仕事上がりの方々がうちのお店に寄ってくれていて、わたし自身もお酒を注いでいました。そこで1杯を飲まれる時の表情が、鮮明に脳裏に残っているんですね。皆さん本当においしそうな顔で。
─ 癒されている表情。
西永 そうです。だからお酒とはすごいものだなと、幼いながら心の中で思いました。すごく魅力的な商品で、なぜこんなに人を惹きつけるのかなと。
この幼少期の体験から、このお酒に対する愛着は誰よりも勝っているところだと思います。
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