BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏が直言「個人消費低迷の真犯人」
財界オンライン / 2024年2月16日 11時30分
日銀の2023年の景気見通しの最大の誤算は、個人消費の足踏みだろう。GDP統計で、個人消費は7―9月まで2四半期連続で減少した。コロナ終息で経済が再開すれば、繰り越し需要で、個人消費は堅調に回復すると期待されていた。
個人消費の足踏みの理由は、明らかだ。円安インフレで、家計の実質購買力が大きく抑えられたのだ。名目賃金は上昇したが、物価高に追いつかず、実質雇用者報酬はコロナ前の19年に比べ3.8%も低い。多くの人は、懐が寂しくなったと感じているはずだ。積み上がっていた強制貯蓄も、消費に向かう前に、物価高によって食われてしまった。
消費足踏みにはインフレ目標の2%という数字に強く拘り、内外金利差が超円安を招くことを厭わず、日銀が異次元緩和を維持してきたことが影響している。
植田和男総裁の金融政策運営がまずいのか。いや4月の就任後、よくやっている。7月と10月にはYCCを調整し、混乱なく骨抜きにした。長期金利をゼロ近傍に抑え込んだままでは、マイナス金利解除は難しい。マイナス金利解除の準備を始めたのだろう。
しかし、こうした一連の作業を、黒田東彦前総裁の下、22年の早い段階から始めていれば、個人消費が足踏みすることもなかったはずだ。22年4月以降、CPIコア前年比は既に2%を超えていたのだから、欧米諸国が急激な利上げを始めた後、2%インフレ目標を柔軟に解釈し、政策修正を早期に開始すれば、1ドル150円台の超円安や4%台の急激なインフレも避けられ、個人消費は着実な回復経路を辿っていたはずだ。
黒田前総裁からすれば、2%インフレ目標の安定的達成が簡単に見通せないから、超円安を梃に、輸入物価の上昇を促したのだろう。22年10月まで黒田前総裁が円安進展をむしろ助長する発言を繰り返していたのは、記憶に新しい。しかし、そうした金融政策がむしろ「持続的な物価の安定」を損なうのだ。
もちろん、資源価格高騰による輸入物価上昇を、金融引締めで対応するのは誤りだ。しかし、自らの金融緩和が急激な円安インフレを引き起こしているのなら、政策修正こそが経済と物価の安定につながるはずだ。マクロ安定化政策の本質は、ショックの平準化であって、増幅ではない。
日銀は、超円安を招いたのは、欧米の金融引き締めであって、日銀ではないと繰り返してきた。ただ、拙著『グローバルインフレーションの深層(慶應義塾大学出版会)』で論じた通り、そうした事態に陥った一因は、欧米の中央銀行が大幅な利上げを続ける中、日本銀行が異次元緩和の継続に強くコミットするからだ。
植田総裁は、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」とされている日銀法の理念に沿って、2%インフレ目標をもっと柔軟に解釈し、金融政策を運営すべきだろう。
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